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薫香物語 第1薫 始まりと梅の香り

 月がとても綺麗だった。
まだ夜が明けぬ3時。
眠れないわけでもなく、でも頭はまだぼぅとしていた。
カーテンの向こう側で、なぜか神々しい光に導かれ、窓を見ると、暗闇で1点の強い光を見つけた。
満月の姿に、見惚れた

 仕事やプライベートの、思考のオン、オフ。インターネット、現実の世間話、ありとあらゆる情報で、疲れたのか。

 死んだ訳でない。でも、いつものように、女は何かの香りを嗅いで、眠りについた。


 目が覚めたら、別の世界にいた。
いや絶対に死んではいない。だって、目の前には、自分が大好きな香りのハーブ、香木の草花が、朝日に照らされながら、庭に咲き乱れていた。

 そして、そこには、本当に好きでたまらなかった男達、3人。

 1人は女の寝床にある書斎の机で書き物をしながら、もう1人は目の前の庭で洗濯を干しながら、そしてもう1人は、女の傍らに添い寝でもしてたのか、寄り添っていた。

 どの草花も、芳しい。でも、今は、白梅のまろやか甘い香りと、紅梅のツンと鼻をくすぐる甘い香りが、女の鼻をくすぐった。

 3人の男は、女が目を覚ましたことに、気づいた。どの男も人間ではあったが、そうではないように感じた。でも、女にとっては、気にしなかった。

 3人は、女は微笑みかけた。
「まな様、おはよう。」文の男。
「よく眠れたか。まな」洗濯の男。
「お。まぁ。目、覚めたんか。」傍らの男。

愛(まな)は、寝ぼけなまこでも、これだけは分かった。
やっと、神様か仏様が、私の願いを聞いてくれたんだ。

梅の香りの湧き立つ香りに、愛(まな)は、布団から起き上がった。

「おはよう」

 起きたての妻の挨拶に、3人の夫は、笑顔がとろけた。

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