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華男の正体と深夜①

「?」
男が振り返る。
「せっかく、お風呂溜めてくれたんだから、入っていきなよ。まだ、栓抜いてないし。水道代、勿体無いし。」
何言ってんだ。昨日からあまりにも私自身、おかしすぎる。

「お、いいの?ありがとう」
遠慮というもの知らんのかコイツ。そう思っても、男はニヤつきながら、づかづかと洗面所に向かい、
「悪いけど、石鹸とシャンプーも借りるわ。あー。それと、背中流してくれ、、、」
「流さん‼︎」
 ニタつく男に、言い返して軽く睨んだつもりだった。
 それでも、ご機嫌な男の、シャワーを浴びてザブンと湯船に浸かる音が聞こえてきた。

なんでこう、私はお人好しなんだろう。 

風呂に入って、多めの晩ご飯食べたのに、ブツクツサと、心の中の愚痴がまた出てしまう。
 気を紛らすために、私はお茶を沸かした。

「ふうー。いい湯だったー。檜風呂‼︎なんか温泉に入った気分で気持ち良かったわー」
 部屋中濡らして欲しくないので、私がおいといたタオルで頭を拭きながら、男がキッチンに戻ってきた。
 上半身はまた、例の見事な華々しい刺青。少し見慣れたが、やはりその派手さと艶やかさが目を引く。

「やっぱり風呂上がりは、ビールっしょ。」
もう、この部屋の住人ですか?と言いたいくらい、男は、私の冷蔵庫から残りの缶ビールを出そうとしている。

「待って。これ飲んで。」
私は沸かしたばっかりのお茶を、コップに入れて男に渡した。

「?」
男は眉を顰めながら、ふーふーして、一口飲む。

「あっつ。ってか、あま!砂糖入れたんか!!」
男のビックリ顔が少しウケた。
「何も入れてない。それ甜茶で、花粉症の予防とかによく飲まれるけど。私は鼻詰まりとかあったら飲んでる。」

「ふーん。」
男は、フーフーしながら、お茶を啜る。ついでに私も、自分のコップに入れていた甜茶を飲んだ。やっぱり、この甘さは落ち着く。



「平島(ひらしま)さん。」
私は、コップの甜茶を飲み終えて、やっと言いたいことを言った。

「一体誰なんですか?ヤクザなんですか?ストーカーなんですか?なんで、昨日、私の部屋で倒れていたんですか?私、何も借金してないし、あなたに狙われるようなこと、全然記憶にないんですが?」

何となく、怖かった。でも、一気に、溜め込んでいた気持ちを吐き出したせいか、だんだん口調が、緊張からキツく変わったようにも私は感じた。

「もう、これ以上、私に変なことするんなら、警察呼びますが⁉︎」
トドメのつもりで、私の口調は荒ぶっていた。

どうしよう、もしかしたら襲われるか、殺される、、、。

 そんな怖さもあったが、でも、私は自分の気持ちをぶつけた。

 あぐら座りしていた男は、私の顔を正面からまじまじ見て、お茶を飲み終えた。

少し一息ついて、首をストレッチかなんかのように、左右に曲げる。

「大上(おおがみ)さん。」

 少し垂れているけどパッチリした、黒目と焦茶の目が私を見た。
「分かった。どうやって話そうか俺も色々と考えたけど。けど、やっぱり、正直に話すわ。大上さん、真面目だし。信じてくれそうだし。」

男は、いきなり正座をして
「俺の名前は、平島孝介。普通に生きているけど、人間であって、人間じゃあない。俺が生まれた所は、50年前、東京の〇〇大学病院の研究所。よく最近じゃあ、不妊治療とか人工授精とかで、大分広まっているけど、政府はもうずっと前から、そんな研究に手をつけていた。俺も、よく分からないけど、どこかの女の卵子と男の精子を受精させて試験管の中で産まれたわけよ。
 6歳までは、そこの病院で育って、7歳ごろから、里親で育てられて。んで、15歳から、また、政府の組織に雇われて、そこからずっと働いてる。
 仕事は、、、、。まぁ、これも正直言うと、政府御用達しの『殺し屋』みたいなことしてる。ほら、政府に反対する組織とか、警察でも手がつけられない組織、ま、テロ組織か、かなりやばい極道組織を片付けてる。
 お役人さん、みんな自分が可愛いから、俺みたいな作られた人間使うわけ。
まあ、それはいいとして。とにかく、俺、結構、鍛えられてるんだけどねー。結局、大勢の集団にボッコボッコに殴られ蹴られ、ピストルで頭や心臓、撃ち抜かれたり。ドス、あっ刀みたいなやつね、あれで目や耳、手足とられたり、まあ、酷い仕事でー。」

さっきから、スラスラ、すごい話が作れますねー。多分そんな顔していた私なんだろうけど、でも、華男は話し続ける。

「50年間、やったり、やられたり。でもまた俺がやり返してやったり。ここのところずっと働きっぱなしで。まあ、作られた人間の中には、頭脳派とか呼ばれる奴らもいて。作戦とか主に頭使って闘っているのもいるけど。俺は元から、暴れるのが好きでさー。俺、何回か死んだけど、でもその都度、大学病院で治療、まあ、修理って言った方がいいか。それで、また何度もこき働かせられてるってわけ。」

「それって、あなた、本当は死んでいるってこと?」
思わず質問してしまった。何言ってんだ、私。

漢は笑いながら頷く。
「ああ、なんども、撃たれたり切られたり、焼かれたりいろいろされたけど。俺の骨、全部いわゆる人工骨、素材は高度セラミックとか、結構いいもの使われているし、髪の毛や皮膚も人工で作られたもの。それから、心臓や内臓は、臓器移植で不要になったもの、なんか偉い医者たちが改造したものが入ってる。ちなみに脳。何度も弾くらったけど、まあ、これも今流行りのAIチップみたいのと、人工脳で作られているけど。でも一応、生まれてからの俺の意思や記憶はちゃんとあるし。長い間食べなくても平気だけど、やっぱり腹減る時は飯食うし、あと、小便やうんこもでるしって。あ、、、すまん。汚い話になったか。」

ボリボリと胸を描きながら、男が笑う。

男の話を半分聞いて、私の飲みかけの甜茶も冷めてしまった。
置き時計は、もう、12時になろうとしている。


「平島さん。」
もう、残りの甜茶を飲み干して、一気に気持ちを吐き出す。

「さっきから、すごいこと教えてくれてありがとうございます。全部よくできた話ですね‼︎でも、そんなすごい人がなんで、私の部屋で、倒れていたんですか?」

最後に、一言。
「私、見え透いた嘘、大っ嫌いなんです。気持ち悪い。」

最後の「気持ち悪い」はキツかったのか、男は、また、なんだか頭をかき始めた。

胸には、真っ赤な薔薇と白百合、片方の方には黄色の向日葵、もう片方は、桜とキキョウ。
それから、蔓薔薇が腕に巻き付くように描かれている。

男に対して、怒りなんだが不快なんだか、でも、気になるやら、そんな気持ちで私自身、『気持ち悪い』気分になっているのに。

 何故か、この男の華々を目で追っているもう一人の私がいた。


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