見出し画像

華との出会い

 仕事の疲れにどっと疲れてしまい、アパートまで、帰ってきた私。

今日も早く寝たいけど、何やかんやで、また、眠れないだろうな。

でも、明日も仕事だし。

そんなことを、頭の中でぼやきながら、部屋に入り、電気をつけると男がうつ伏せで倒れていた。

しかも、ずぶ濡れのまま。


『きゃあー。』
って普通ならば大声で叫んで、隣の人に助け呼んで、警察に電話するのが普通。

でも、私も疲れていたのか、とりあえず、男を無視して、シャワー浴びる。


シャワーから上がっても、男が起きる気配なし。
とりあえず、いつも使う、ブルガリアローズの香りがするトリートメントをつけて気持ちを落ち着かせた。

180センチぐらい?巨漢とも言えるぐらいの男。ボルドーのカッターシャツに、黒いズボンを履いている。
 靴は?よく見たら、玄関に茶色の革靴があった。

 ひとまず、深夜の冷凍唐揚げを温めて食べた。マヨネーズかけて食べるのが好きだけど、最近体重が気になり、でも、味っけがないので、代わりに、サラダ用のレモンドレッシングをかけて食べる。
ほのかな唐揚げのニンニクとレモン味のコンビがたまらない。

 モグモグと食べながら、いつになったら、この人起きるんだろう。呑気にそう思った。

 深夜12時過ぎ。ベッドで横になろうとしても、起きない人がいるので、さすがに、濡れた服タオルで拭いて、毛布かなんかかけてあげようと思った。凶器みたいなものもないし、なんか空き巣とは違う感じがするから、さっきから私は冷静なのか?

 そう思いつつ、男の大きな背中をタオルで拭く。思った以上にゴツいので、絶対マッチョだな。

 アホなこと思っていたら、急に男が仰向けになった。寝返りか。

 それよりも、私の目にしたのは、男の顔と、シャツのボタンが何個か取れてはだけて見えた胸。

 顔はいかつくてゴツいけど、なんか憎めない。それよりも、おでこから鼻筋にかけて大きな傷が目立つ。

 それから、はだけて見えた胸。格闘家かボディービルダーですね!と言えるくらいしっかりとしている大胸筋。
 いや、それより、肩から胸にかけて、赤や青、黄色、ピンク、緑のたくさんの派手な刺青に目を見張った。

 何となく分かった。

あっ、この人、ヤクザだ。

 ここ最近過酷な仕事とストレスで、とうとう感覚が麻痺したのか。

 遂に幻覚でも見ているのか?

よく分からないので、とりあえず、仰向けになった男の頭から足まで拭いて、使わない毛布をかけた。

 私は寝る前に、よほど疲れているのだな、と思い、大好きなお香。今日はバラの香りを焚くことにした。ラベンダーやサンダルウッドもいいけど、今日はバラがいい。

 20分の短めのお香を焚いて寝ようとしたが、いつのまにか、男が私の足首を掴んでイビキをかいている。

 えー勘弁してよ。そう思いつつも、もはや私も逃げることも抵抗することもなく、ただただ眠たくて、男のそばで雑魚寝した。

 もう、なんかあっても仕方ない。諦めの境地だが、何となく、この人。妙に落ち着く。

 豆電球をつけたまま、私は、男の顔をぼんやりと眺めつつ。いつの間に寝てしまった。

 ローズの華やかな香りが、ふんわりと部屋を包む。




 朝5時ちょっとすぎ。あらかじめセットしていたスマホのアラームで目が覚めた。

 いつの間にか、私は男の大胸筋を枕がわりにして寝ていたみたいだ。

 大胆な自分の行動に呆れつつ、男はまだイビキをかいている。

 少し、男の短髪を撫でたくなった

 変態な行為としても、まぁいいだろうと思い、頭を触った途端、男が目を覚ました。




この記事が参加している募集

#文学フリマ

11,741件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?