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商標使用の「たかが」「されど」Vol.1~「Re就活」 ⇔ 「リシュ活」前編~

商標権侵害が「痛い」理由

事業を行ううえで「たかが」「されど」のルールとして忘れてはいけないもの、それが商標(権)。特許などよりも比較的低額で出願・登録ができる反面、自社ビジネスを進めるうえで適切な権利を登録できていないと、すでに登録されている商標権の権利者とのトラブルで思わぬダメージを受ける場合もあります。

すぐに思い浮かぶのは「損害賠償」だと思いますが、わが国の制度上、高額な賠償が認められるケースはあまり多くありません。それよりも意外と「痛い」のは、権利侵害に使われた媒体の表示変更や製品・パンフレット等の廃棄といった「事後処理」ということもできます。モノを作っている場合在庫の廃棄を迫られるのは相当な痛手ですし、店舗看板やサイトの改修等の作業も結構なコストがかかるものです。

今回は、実際に起きた紛争(裁判例)を題材に、商標権のとりかた、使い方について考えてみようと思います。

※なお、本件は第1審判決に関する記事ですが、被告プレスリリースによると、被告によって現在控訴されているとのことであり、判決はまだ確定していませんので、ご留意ください。

商標権トラブル事例を見る前に最低限押さえておくべき知識

なおその前に、裁判例をよりよく理解するために必要な、商標権にまつわるルールを整理しておこうと思います。以下まとめは、あくまで裁判例の理解を助けるためのもので、厳密な意味での定義や解説とは、必ずしも整合しない場合もあります。そちらについては別の機会に丁寧に解説しようと思いますね。

ポイント① 商標権は、守りたい商品やサービスを指定したうえで(「指定 商品・指定役務」と呼ばれます。)登録される(保護を受けられるのは指定商品・指定役務の範囲が基準になる)
ポイント② 登録商標と「似た」商標を使うと権利侵害
ポイント③ 登録商標の指定商品・指定役務と「似た」商品・役務(サービス)に商標を使うと権利侵害
ポイント④ 商標権を侵害すると、損害賠償を請求されるほか、侵害に使われたモノを廃棄したり、内容(表示)を変更したりしないといけない

「Re就活」事件とは

今回主役となるのは、「Re就活」という登録商標です。2005年10月、大阪の会社によって、「広告(←広告代理業のようなサービスをイメージください)」「求人情報の提供」「職業のあっせん」などのサービスを指定して登録されています。

「Re就活」商標の登録内容詳細はこちらから。

本件訴訟は、「Re就活」の権利者(原告)が2018年12月、2018年6月ころから「リシュ活」という名称でサービスを提供していた団体(被告)に対し、商標権侵害を理由に訴訟を提起したというものです。
訴訟に関する参考記事:「「Re就活」と「リシュ活」 商標権侵害で訴訟
混同の範囲どこまで」日本経済新聞2020年5月13日)

被告の事業と「リシュ活」

被告は、主に、インターネット上で就職情報サイトを運営したり、就職や採用のあっせん等をビジネスとして行う企業を加盟会員とした団体でした。具体的なビジネスとしては、以下のようなサービスを提供していると認定されています。

①求職者向けウェブサービス(求職者としての個人向けサービス)
会員登録した個人ユーザがアプリを使って、大学等での履修履歴に関連した先輩社員情報等を受け取ったり、履修履歴を踏まえた加盟企業等からのオファーメッセージを受け取ったりできるサービス
② 求人企業向け履修履歴オファーサービス(企業向けサービス)
加盟企業等に対し、自社で登録した企業名や採用情報サイトへのリンクなどの情報を、履修履歴情報に応じて該当する個人ユーザのアプリ上にレコメンド表示させたり、個人ユーザの履修履歴情報を検索可能に提供したり、個人ユーザに対してオファーメッセージを送信したりできるようにするサービス

被告はこういったサービスの名称として「リシュ活」を使用し、広告やパンフレット、価格表、企画書などに「リシュ活」との記載をつけて展開したほか、アプリ上やウェブサイト上でも「リシュ活」との表記を使ったり、ウェブサイトのドメイン名(risyu-katsu.jp)にも「リシュカツ」と読める文字を採用しています。

原告が訴訟を提起した理由

裁判を起こした原告のロジックは以下の通りです。

これらの被告の事業は「Re就活」登録商標の指定役務と同一又は類似である(ポイント①、③)し、「Re就活」と「リシュ活」は似てる商標(ポイント②)だから、被告は「Re就活」の商標権を侵害している

損害賠償を請求したり、広告やウェブ上の「リシュ活」の使用禁止&既に使用している広告媒体等の破棄を求める

原告主張と判決内容

先に結論をお見せすると、裁判所は原告の主張に対し、こんな内容の判決を出しました。

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つまり、「原告勝訴」、ただ「賠償はだいぶ減額」という結論です。

「Re就活」と「リシュ活」が似ていると判断されたポイントは何なのか?認められた損害賠償がなぜ激減しているのか?判決内容が気になるところです。ただ、ここまでの話がやや長くなってしまいました。被告の反論や裁判所のジャッジの内容など、「答え合わせ」は後編で詳しく解説していこうと思います。

商標使用の「たかが」「されど」Vol.1~「Re就活」 ⇔ 「リシュ活」後編~

商標使用の「たかが」「されど」Vol.1~「Re就活」 ⇔ 「リシュ活」場外編~

判決言渡:2021年1月12日
裁判所:大阪地方裁判所第21民事部(谷有恒裁判長)
事件番号:平成30年(ワ)第11672号 商標権侵害差止等請求事件
判決の全文はこちらです。興味のある方は先にご確認ください。


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