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店名の「真似」の境界線は…~「天ぷら大吉」VS「大阪天ぷら大吉北新地」~

飲食店にとって「真似」されたくない「名前」

飲食店の店名や、目玉メニューの名称、どうやって決まっているでしょう。きっとオーナーは、少しでもお客さんに覚えてもらいやすいようにと、知恵を振り絞って決めるのだと思います。

オーナーやスタッフ、常連さんたちにとって、愛着を持って覚えられる名称、他人に真似されたらどう感じるでしょうか?また、そもそも真似ってどういうことなんでしょうか?今回は、名前やネーミングの「真似」について、実際の事例をもとに考えていこうと思います。

(2021.02.27追記)以下でご紹介する件ですが、2月25日付で、裁判所で和解が成立したそうです。あとロゴオーナーが、同ロゴの使用をやめることなどを内容とするものだそうです。


※なお、「真似されるのが嫌なら、商標登録すればいいのでは?」「商標がないなら、真似されても文句言えないのでは?」という意見もあるかと思います。
ただ、他人の人気への「ただ乗り」は、商標とは無関係に、ときに放置できないほど社会的悪影響(モラルハザードなど)を及ぼしかねませんし、メニュー名については、そもそも商標権の効力が及ぶのか議論があるところです。そこで本記事では、「真似」への対抗策について、商標以外の観点で考えてみようと思います。

「天ぷら大吉」を真似された!?訴えの根拠とは?

まずは下の画像を見てください。どちらも大阪にある天ぷらを提供する飲食店のロゴです。ただ、2つのロゴを使っているのは、それぞれ別の事業者で、(当然ながら)両者の間でトラブルになっているようです。

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※「深夜行列の天ぷら店が提訴 SNSでも誤解招くそっくり店」
THE SANKEI NEWS 2021.02.21記事より引用
左:天ぷら大吉(さきロゴ)/右:大阪天ぷら大吉北新地(あとロゴ)

報道によると、「天ぷら大吉」ロゴ(便宜上「さきロゴ」といいます。)は1982年から使われ、現在大阪府内に数店舗があるとのこと。いっぽう「大阪天ぷら大吉北新地」ロゴ(便宜上「あとロゴ」といいます。)の大阪・北新地への出現は昨年(2020年)9月だそうです。
※なお、さきロゴオーナーは昨年8月、それまで持っていなかった商標権を取得すべく商標出願しており、現在審査結果待ちの状態です。

この事態を受けてさきロゴオーナーは、昨年11月、あとロゴオーナーを相手に、店名その他へのあとロゴの使用の差止などを求めて、大阪地裁に訴えを提起したそうです。

さきロゴオーナーの主張は、「あとロゴの無断使用は、さきロゴを違法に真似するものだ」というものです。ただ、先ほど触れたように、さきロゴはまだ商標登録されておらず、商標権は差止の根拠にはできません。このような場合に差止を求める法律上の根拠として使われるのが不正競争防止法という法律です。

不正競争防止法の「真似」規制(表示規制)のルール

不正競争防止法(不競法)とは、事業者同士の公正な競争が行われるよう、「あこぎ」な行為を規制する法律です。どんな行為が「あこぎ」とされるのかは法律に列挙されており、表示の真似についても規制対象とされています(不競法2条1項1号、2号)。具体的には2つのパターンが掲げられており、規制が発動されるためには、以下のような要件が必要とされています。

パターン1:周知表示の冒用使用
 ・商品等表示であること⇒商品や営業を表している必要あり
 ・周知性があること⇒表示が需要者の間で広く浸透している必要あり
 ・同一又は類似⇒「同じ」か「似ている」必要あり
 ・他人の商品・営業との混同のおそれ⇒紛らわしい必要あり
パターン2:著名表示の使用
 ・商品等表示であること
 ・著名性があること⇒「周知性」よりも高い有名度合いが必要
 ・同一又は類似⇒類似判断のハードルが上がり、厳格に判断
※飲食店舗のロゴは、「商品等表示」に該当することが前提です。

つまり、どちらのパターンでも、ある程度有名な表示でないと、保護の対象にはならないのです。不競法を使って他業者の真似をけん制するためには、①自身の「商品等表示」がどれだけ有名なのか、②相手の表示はどれだけ「類似」しているのか、を主張できる証拠を集めて、必要に応じて③真似によって、どれだけ需要者(多くのケースでは「消費者」と同義の場合が多いです)が混乱するか、に関する証拠を集める必要があります。

まず②の「類似」について、裁判所はパターン1の周知性との関係で、以下のように言っています。

ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似しているか否かについては,取引の実情の下において,需要者又は取引者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準とし,需要者又は取引者が,時と所を異にして両者を観察した場合にどのように認識するかという観察方法(離隔的観察)によって,判断されるべきである。
(日本ウーマンパワー事件(最二小判昭和58年10月7日:民集38-7-920)

あとロゴオーナーが訴訟のなかでどんな反論をするのか不明ですが、本件でこの基準に照らすと、冒頭の2つのロゴの「類似」についての判断は、概ね異論の少ない方向で落ち着きそうです。

そうなると問題なのは、①の周知性(著名性)となりそうです。つまり、「表示が需要者の間で広く浸透している」ことを証明できるかがカギになり、通常は、「いつ、どこで、どんな媒体で広告を展開したのか」や、「どのくらいの商圏で、どのくらいの期間営業をしているのか」、「受賞歴や新聞等での取材実績」などの事情を、具体的な証拠を挙げて主張することになります。
※なお「著名性」が認められるには「有名度合い」のレベルが全国レベルで必要となるほか、①類似かどうかの判断基準も厳しくなるので、認められるハードルは相当高くなります。

「周知」かどうかの証明は簡単ではない・・・

このように、不競法上の周知性が認められるためには、普段からの対外的なアピールの実績があるかどうかが、大変重要になりそうです。つまり、「あまり大々的な宣伝をしない『知る人ぞ知る名店』」のような飲食店の場合、広告実績やメディア露出実績の積み重ねがうまくいかず、周知性があることの証明ができない結果、不競法を活用した「真似」の差止めができない、ということになってしまいます。

「口コミ等で近所ではみんな知ってる」のような話があったとしても、ただの口コミが、裁判所に提出する証拠になりづらいことは言うまでもありません(ただ、レビューサイトのような客観的な情報は、媒体によっては証拠としての価値があるかもしれません)。

今後の展開(簡単な予想)

今回紹介した事案の裁判はまだ始まったばかりです。周知性の証明ができるかどうか、さきロゴオーナーは、自店のプライドにかけて色々な証拠を集めていくと思います。

ただ、必ずしもそのような客観的な証拠が常に集まるとは限りません。「有名」でないと活用できないという法的な制約があるため、地域密着型のような飲食店にとり、不競法は必ずしも使い勝手のいい法律ではないのです。
そうなるとここでも、「商標は取っておいた方がいいですよ」という話に落ち着いてしまいそうです。

※なお、もし今後さきロゴの商標が登録されれば、今後は、その商標権に基づく差止も追加請求するかもしれません。問題は、「天ぷら大吉」という商標の登録が認められるかどうかですが、これは結構、山あり谷ありではないかと推察します。

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