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「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」公表へ(その1)

フリーランスとの向き合い方が変わる!?

2021年3月26日、国から「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」というガイドライン(以下では単に「ガイドライン」といいます。)が公表されました。内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名というこのガイドライン、それだけフリーランスの働きかたに関する問題が広範囲に及ぶものであることを示しています。

このガイドライン、「フリーランスとして安心して働ける」と銘打っているわけですが、これは逆に言えば「事業者がフリーランスと安心して取引できる」ためのガイドラインということもできます。気持ちの良い取引をするためにも、事業者としてこのガイドラインの概要を把握しておく意義は少なくないと感じます。

これまでに既に案が示されていたりして、皆さんの注目度も高いと思いますので、何回かに分けて中身を掘り下げてみようと思います。

ガイドラインでカバーされる領域

このガイドラインは、誰に、どんな場面で適用されるのでしょうか。

まず「誰に」、つまりフリーランスの定義について、ガイドラインでは以下のように規定しています。

本ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指すこととする。

形式的には会社組織であっても、代表者ひとりだけで運営しているような「一人社長」についても、その実情を踏まえて「フリーランス」と扱うとしています。

また、「実店舗がなく」という定義については、自宅の一部やコワーキングスペースの一画で作業をしたり、ネット上の店舗を運営する場合が想定されているようです。

そして、ガイドラインが適用される法領域については、以下のような図で説明されています。

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※「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」2ページ 図1より引用

フリーランスが企業と取引をする際に下請法の適用がある、という話はなんとなく理解しやすいと思いますが、ガイドラインで明確にされているのは、他にも独禁法や労働法などについても適用されるケースがあり、意識が必要とされている点です。実際に適用されるかどうかは、個々の取引の中身を踏まえて判断されるのですが、その着眼点については、改めて見ていきたいと思います。

ガイドライン案に対するパブリックコメントについて

そもそもこのガイドライン、昨年12月に案が公表されていて、内容についてパブリックコメント(パブコメ)が受け付けられていました。今回ガイドラインとともに、パブコメの結果(84の団体・個人からの意見があったとのこと。)もあわせて公表されており、その内容もなかなか興味深いところです。各論を見ていく前に、いくつかご紹介して、イメージを膨らませていきたいと思います。

(意見等)
インターネット検索結果の査定や翻訳などをする仕事を過去 10年に渡って行ってきた。請負の形式だが、実質的な雇用関係にあり、時給制で、駆け込み的な賃下げが行われた。過去にも遡って本ガイドラインの適用を行ってほしい。
(考え方)
本ガイドラインで記載されている事項は、これまでも独占禁止法、下請代金支払遅延等防止法、労働関係法令の適用対象とされていたところ、本ガイドラインで、実店舗を有しない個人事業主と発注事業者との取引についても、独占禁止法、下請代金支払遅延等防止法、労働関係法令が適用され得ることを改めて明確化したものです。
(意見募集の結果No.21)

ここでは、「過去にも遡ってガイドラインを適用してほしい」という意見に対し、「これまでも…適用対象とされていた」と回答されています。つまり、今回のガイドライン策定は、何か新しいルールを定めたというわけではなく、「これまでも(そうすべきだった)法律の運用について、わかりやすくまとめなおしたもの」との位置づけであることがはっきり示されています。

(意見等)
フリーランスでは働いているが、業務は雇用、報酬は委託との形式。本ガイドラインがあることを伝えることで、逆に「使いにくい」と、フリーランスが不利益を被る可能性もある。違法企業に罰金や罰則を設ける、抜き打ちの業務監査があれば、企業側も不当解雇や不正な労働をさせることができなくなるのではないか。
(意見募集の結果No.22)
(意見等)
ガイドラインに基づいてフリーランス側から行動すると、契約解除をされるのが実態であり、違反している企業側へ厳しい法規制や処分をすべき。
(意見募集の結果No.53)

このご意見、確かにありそうですよね。ガイドラインができたからと言って、こういった認識の事業者がすぐに消滅するわけではないという現実はあると思います。フリーランスの方にとっては、まずはガイドラインを示すことでお互いの認識の齟齬を埋めることが大事ですし、その齟齬が埋まらない(わかってくれない)場合でも、ガイドラインがあることで、外部窓口に相談がしやすくなる、といったようなセーフティネットとして活用するのが過渡期的な心持ちになるような気がします。

そのことと関連して紹介するのがこちら。

(意見等)
フリーランスが労働者として扱われている、いわゆる偽装請負が蔓延しており、通報窓口を整備してほしい。
(考え方)
フリーランスとして業務を行っていても、その実態が労働者に当たる場合は、契約形態にかかわらず労働関係法令が適用されるものであり、労働基準監督署においては、そういった場合については、発注者に対して、労働基準法を遵守した対応をするよう指導、助言等を行っています。また、厚生労働省において、昨年 11 月より、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁と連携し、フリーランスの方と発注者等との取引についてトラブルがあったときに相談できる相談窓口(フリーランス・トラブル 110 番)を整備し、フリーランスの方々の相談対応を行っており、労働者であると思われる場合には、労働法令に基づいたアドバイスや ADR を行うと共に、必要に応じて労働基準監督署とも連携をしています。
(意見募集の結果No.29)

周囲の弁護士等の専門家に直接相談してもよいと思いますし、ここで挙げられている「フリーランス・トラブル110番」を通じて相談するのもよいかもしれません。


なお個人的には、以下の質問に対する回答が趣深いと感じたところです。

(意見等)
弁護士資格を有し、法律事務所のオフィスにて勤務する弁護士で、法律事務所との間で委任契約に基づき勤務する弁護士は、「フリーランス」に該当するという理解でよいか。
(考え方)
契約や働き方の状況によっては、本ガイドラインで定義する「フリーランス」に該当する場合があると考えます。
(意見募集の結果No.8)
(意見等)
弁護士や税理士など、士業におけるパワハラ防止を図ってほしい。
(考え方)
御意見として承ります。(以下略)
(意見募集の結果No.27)

次回以降、ガイドラインの内容について、具体的に解きほぐしていこうと思います。

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