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カンパネルラ、と呼びかけたい。


「銀河鉄道の夜」をきちんと読んだことがない。

食材をぎゅうぎゅうに詰め込んだエコバックを右肩にかけ、ノートpcが入ったリュックを背負い、2Kgの玄米の袋を抱っこしながら、カンカンカンカンと鳴る踏切の前に立つ。

首筋の汗が、背中に伝っていくのがわかる。
だいぶ恥ずかしい。

だって。仕方がなかった。
いつもより安く玄米が売られていたのだから。

カンカンが鳴り止み、シマシマの遮断機が上がる。
ここの踏切は少し小高くなっていて、見通しが良いので顔を上げるようにしているのだが、今日はやけに線路と空の感じが良いような気がした。

線路が空に続いていくよう。
スーーっと爽快な気持ちになってくる。

踏切を越えると、大荷物での道のりに挫けそうになる。
だって、仕方なかったんだよ。

誰かに呼びかけ、弁明したい。

いつもの緑道を抜けながら、
先ほど線路を目にしたからか「銀河鉄道の夜」が連想されてきた。

子供の頃「おやこ劇場」で「プラネタリウム」と「銀河鉄道の夜」がコラボした朗読劇を、市民ホールに観に行ったっけなぁ、と思い出す。

真っ暗なホールの天井や壁に、プラネタリウムが展開され、正面舞台のスクリーンに、ストーリーに合わせた影絵が投影されていた。今、その時の情景をありありと思い出せるのだから、少女の私がその世界観に没入していたのは、言うまでもない。

スイキンチカモクドッテンカイメイ(私の子供時分は海、冥だった)が、何のことを言ってるのかイマイチ理解できなくても、呪文のようでワクワクしたし、ジョバンニや、カンパネルラ、といった登場人物たちの名前の聞き慣れなさにも興味を惹かれた。

…アレ?
「銀河鉄道の夜」の内容は?と今聞かれたら、正直、あらすじのあらすじ程度のことしか答えられない。

ラッコの毛皮が…とか、そういう超端々が浮かんでくるのが私らしい。

今までにも、きっと何度か「銀河鉄道の夜」を読むキッカケ的な瞬間はあったのだろうけど、おやこ劇場で観たしなぁ、と既読に分類していたのだ。

ちょうど、先日の記事でちょこっと書いた、蝉時雨の地点で「読みたい」衝動に襲われ、今日も立ち止まってしまった。

「銀河鉄道の夜」を読まずに大人になってしまった後悔と、それならば今すぐにでも読むしかない。というキリッとした決意が立つ。ここは今日も蝉時雨がすごい。もう蝉スコール。


右肩のエコバックがずり落ちてくる。2Kgの玄米を抱っこしているせいで、内肘に汗が溜まって気持ちが悪い。図らずも"夏をしている"ってカンジだ。

大汗をかいて帰宅する。

ドサドサドサ!と荷物を下ろした途端に、フーーと深いため息が。
もう一度外に出て、本屋さんに走る気力はない。

冷蔵庫を開けて、麦茶を取り出す。


本屋に行くのは、明日にしよう。
また、誰かに弁明したくなる。

カンパネルラ、私ってこういうヤツなの。



-20220820-



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