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本と育つ、本で育つ ドリトル先生シリーズ

今年はじめにイギリスから一時帰国した友人が、「The story of doctor Dolittle」のペーパーバックをお土産に持ってきてくれた。ドリトル先生!小学校高学年で読みふけった岩波少年文庫の中でも、特に夢中になったシリーズ。
えんぴつで描かれたような、さっぱりとしているのに味があって、どこかユーモラスな挿絵も魅力の一つ。ドリトル先生シリーズの挿絵は作者自身が描いたもので、文も絵も生み出す作者ロフティングにはただただ尊敬するばかり。岩波少年文庫の良さは外国の原本そのままの挿絵を載せていることで、これが日本人の画家による別のものになっていたりすると、たとえそれが美術的(もしくはイラスト的)には優れたものであっても、途端に「日本的」になってしまって私には面白くないのだ。
ロフティングの絵は、「つばめ号とアマゾン号」シリーズの挿絵と似ている印象で、私は「『イギリスもの』の、イギリスらしい」線とタッチだと思っていた。イギリスの景色の淡い色彩、山の無いなだらかな丘、海に囲まれ川が多く透明でゆたかな水、そういう淡泊で媚びないイメージがこれらの挿絵と私の中ではよく調和している。
早速電子辞書を片手にその晩から読み始め、翌日にはオーディオブックでもひととおり聴いた。最初の一文を読んだり聴いたりするだけで、昔読んだ時のわくわくした気持ちを思い出し、当時頭の中に描いた世界が再び鮮やかに広がり、思わず口元が緩んでしまう。ペーパーバック読書のお供はもちろん、岩波少年文庫の「ドリトル先生アフリカゆき」だ。
この本の訳者は井伏鱒二。下訳を石井桃子がして、井伏が仕上げたという「超」が付く豪華訳である。そのことを小学生当時の私は知らなかったが、すばらしい訳によるこの岩波少年文庫のドリトル先生シリーズはすっかり私を虜にし、私の読書人生に宝石のごとく輝く素晴らしい一角を築いてくれた。
そういえば、私は「行く」に対して「いく」より「ゆく」という音を好むのだが、もしかしたら「アフリカゆき」の影響かもしれない、そんなことをふと思った。

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