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空き家を購入/修繕する際の融資にまつわる話

尾道で空き家を取得したり購入したりして、自分の手で直して暮らしたり、お店をやったりする人は多かれど、全面的に建築会社に修繕を任せる人の話はあまり聞かないような気がする。
建築会社に任せなければならない程の状態の物件は敬遠するからか、建築会社へ依頼する場合の費用の工面が大変だからか。

今回の工事では、自分のような若輩者には融資を受けなければ到底支払えない額の費用が掛かり、融資を受けるためのハードルは相当に高かった。が、なんとかなった。
物件属性を理由に融資を受ける事が困難とされ、困っている人の一助となれば良いなと思い、1つでも多くの古き良き建築物が取り壊される事を逃れられる事を願い、空き家の購入・建築会社に依頼しての修繕・それに伴う銀行融資にまつわる話をまとめます。

この記事は主に融資の話。


◇目次
・簡単なプロフィール
・尾道の空き家/中古物件事情
・物件探しの略歴
・購入に当たっての融資上の問題点
・融資の審査結果
・まとめ


■簡単なプロフィール

融資を考える上では物件属性に加えて本人属性も大きく関わるので、ざっくりと自分の情報と物件の概要を。

栃木県出身の28歳。職業は会社員で勤続6年目。
2016年3月 東京から尾道へ移住。音楽がとても好きです。

尾道へ移住を考え始めた時には既に山手の斜面地に住むことが頭の片隅にありました。移住してすぐは駅近の賃貸アパートを借り、それから1年して山手の貸家へ引っ越して今に至ります。

移住した時から漠然と以下の4つに柱を念頭に置き、良い売物件はないかと日々空き家バンクや不動産サイトなどに掲載される物件を眺めていました。

⑴ 趣きのある建物 
⑵ 旧尾道市外にあり海が見える
⑶ 近くまで車が入る 
⑷ ハザードマップ外

空き家、古民家というかお屋敷のような別荘のような古き良き趣のある家に住むことを夢見つつ、車でのアクセスもある程度できる利便性や安全性も求める我儘っぷり。それと、小さくても庭があると嬉しいなと思っていました。

尾道では移住者通しの交流がたくさんあるので、人伝に紹介してもらう人も多いようです。ちなみに不動産会社が仲介しない個人間の売買にしてしまうと、融資審査に必要な売買契約書や重要事項説明書を揃える事が出来ないので、融資を希望する場合は不動産会社に仲介をお願いする必要が出てきます。

苦節6年(本腰を入れて探したのはここ1年ぐらいですが)、⑴~⑷の希望を全て満たす物件を見つけ、無事に融資審査を通す事ができ、8月末に購入、先日から修繕工事を開始しています。SEMENTOSよろしくな木造築103年、穴だらけ、穴だらけ。


■物件を探して分かった事

尾道で上に上げた4つの条件を基に物件を探して分かったことをまとめます。

 ・希望条件を満たす物件はあるのか  
➡ 条件⑴ 趣きのある建物 を満たす物件はちらほらあるけど、⑵ 海が見えると⑶ 近くまで車が入るを重宝満たす物件は希少。
➡ ⑵=斜面地や海岸通り沿いに限定されるが、斜面地は車がほぼ入らず、海岸通り沿いは物件が枯渇している。

 ・空き家の相場感  
➡ 状態や立地にもよるがざっくり50万円~1000万円程度。
基本的に売主さんの言い値のため、状態が悪くても高額だったり、反対良くても安価な場合もあるのでケースバイケース。
0円~100万円ほどの格安物件は、不動産屋よりも空き家バンクが扱っている事が多いように感じます。

 ・募集物件数  
➡ 思っていたよりも少ない。尾道は空き家が多いと言えど、空き家バンクに登録されていなかったり、不動産会社へ依頼されていなければ、情報はなかなか出てきません。
周りの話を聞く限りでは、尾道の空き家探しは人伝に紹介してもらう方が強いと思いました。

 ・住宅ローンを組むことが難しい。
建築会社へ依頼する以上、DIYとは比べ物にならない費用が掛かり、
融資を受けることは必須でしたので、これが一番の問題でした。
詳細は後述しますが、主な問題点は以下。

  〇接道問題  
➡ 車が入らない = 建築基準法 第42条規定の接道義務を満たさない = 再建築不可とされ、一般的に融資不可とする銀行が多い。
同法第43条但書を取得できれば再建築可能とされるが、この場合も不動産評価額は非常に低い判断する銀行が多い = 希望額全額を借りられない可能性がある。

  〇建築基準法への適合、既存不適格の扱い  
➡ 物件の法順守義務は建築時に施行されていた法律のみが対象であるにも関わらず、現行法に遵守していないことを理由に融資不可とする銀行も多い。
建築当時の法律に適合していて、現行法に適合していない物件は「既存不適格」とされますが、違法ではありませんが、物件の評価は一般的に低いと判断されるようです。
加えて、木造の中古物件は築20年を超えた辺りで評価はほぼ0とされるようです。
実際に、大手銀行では、希望額の半額までしか出せないとの判断でした。

  〇住宅ローン以外の選択肢  
➡ 不担保で借入可能なリフォームローンは金利が高く、最大金額も1,000~2,000万円までと低く、難しい条件の物件も取り扱い可能と謳うノンバンクのローンも金利が高いため、多額の融資の際はできれば避けたい。


■融資上の問題点の対処とその対応法

上述の通り、斜面地・築古物件である事により、色んな問題点があり、融資を受けるに当たって問題とされ、銀行によっては門前払いを食らうところもありました。

4つの銀行を回って分かったことは、銀行側は建築基準法の規定を理解しきれていないということ。よく分からないから法律的に危ういかもしれないから、リスクを取らず断ってしまおうと考える銀行も多いと感じました。

建築時の法律基準に適合していれば、違反建築物ではなく、既存不適格であり、違法建築でないのに、それを理由に評価を落とされるのは納得がいかない、けれどそういう判断をする銀行が多いのが実状だと感じました。

 ・接道要件  
➡ 尾道市独自の「建築基準法 第43条 第2項 第2号の規定による許可の取り扱い基準 3」により、用途変更を行わない事や、セットバックを行う等の条件付きで再建築等許可見込みであること市と確認しました。

銀行は再建築が可能かどうかと、今回の工事でセットバックを行わなければならないかどうかを特に気にしており、「セットバック不要な工事であることの証明が欲しい」と言われました。セットバックは後述の建築確認実施時にする必要があります。

そこで尾道市の再建築許可基準の説明資料と、リフォームを依頼する建築会社に作成してもらった今回の工事内容明示書(再建築にあたる工事 : 建築確認が必要な工事を行わない事 =  セットバックが不要であることの証明)を提出し、OKと判断をもらい、この問題はクリア―となりました。

ちなみに、市と確認した「許可見込み」というは、今回のリフォームではその様な工事(再建築)を行わないため、あくまで見込みとなっています。

 ・適合証明と建築確認  
融資審査の際に、銀行から建築確認済み証の提出を求られる事が一般的です。中古物件の購入・リフォームでは、建築当時の建築確認済み証やリフォームの際に建築確認が必要な場合はその確認済み証の提出が求められます。

  〇物件の建築確認検査済み証  
➡ 今回の物件の建築は大正7年、建築確認の実施が義務付けられた昭和25年よりも遥かに前のことで、当時は建築確認という概念自体存在していなかったので、当然ながら建築確認は行われていません。(昭和25年以降に増改築が行われているのであれば、その際に建築確認が必要なので検査済み証を持っているはずですけどね)

その旨を銀行へ説明したところ、それならば「建築年を証明する書類を提示してください」と言われ、登記簿を見ても建築年が載っていないため、売主さんの承認を得て市役所にて土地家屋公課証明書を取得。
これに書いてあって良かった~と思いながら銀行へ提出し、OKと判断との判断をもらいました。

  〇リフォームに際する建築確認実施の必要性
建築確認が必要かどうかは、物件の種類や工事の内容によって異なります。
一般的なリフォームは、どんなに大規模でも建築基準法上では「大規模な修繕・模様替え」と定義され、4号建築物(木造2階建て以下等の建物)であれば、「大規模な修繕・模様替え」の際は建築確認は不要とされます。
増改築にあたる工事の場合は、4号建築物でも建築確認が必要となります。

そして、建築確認が必要な工事を行う場合、現行の建築基準法に適合していることの証明が必要ということになります。
裏を返すと、建築確認を行わない工事の場合は証明不要とされます。(証明が必要ないだけで適合義務はあります)

つまり、今回の工事では建築確認も適合証明も実施は求められません。
リフォームを依頼する建築会社に「建築確認が不要な工事である」旨、一筆書いて頂き、銀行へ提出し、OKと判断をもらってこの問題もクリア―となりました。

但し、現行法への順守を証明しなければ住宅ローン控除は受けられないのでお気を付けください。


 ・中古物件に対する評価額 
➡ これは完全に銀行によりけりだと思います。判断基準の明示されていませんので、銀行の判断にゆだねるしかないでしょう。購入費用とリフォーム費用見積もりを提出しOKと判断をもらいクリアーとなりました。

■融資の審査結果

時間は長くかかりましたが、某地銀Aから通常の新築物件購入時と変わらない条件(希望額の満額、通常通りの変動金利、期間も希望通りの最長35年)で融資がおりました。
ちなみに、すこしでも融資が通りやすいようにしようと、可能な限り貯金を自己資金に突っ込み、費用全体の83%が融資、17%が自己資金といった比率にしました。

1つ特殊な条件として、現状法務局に備え付けられていない建物図面等を備え付けることが提示されました。
一般的に両方とも法務局で保管されていますが、本物件はどちらもなかったので、融資に当たって必要と判断されたとの事です。

ちなみに某地方金庫では、正式審査時の提出書類として、同様に図面の提示が求められていました。図面作成には10~20万円程度かかるので、審査が通るか分からない時点で作成するのは忌避していたところ、某地銀Aから審査通過の連絡があり、そちらは某金庫の審査は取り下げにしました。

改めて、本物件への取組みから融資審査結果受領までの流れは以下の通りです。見つけた時から起算すると約半年くらいかかりました。

3月下旬 - 内見 & リフォーム見積もり作成
4月中旬 - リフォーム見積もり受領 & 不動産会社へ仲介を依頼
5月末  - 各種書類準備 & 住宅ローン仮審査申込
6月上旬 - 仮審査通過連絡受領
6月下旬 - 購入金額確定 & 売買契約/工事契約締結 & 本審査申込
8月上旬 - 本審査通過連絡受領
8月末  - 物件引渡(つなぎ融資1回目)
9月中旬 - 工事着工(つなぎ融資2回目)
      工事の中間でつなぎ融資3回目を予定(時期未定)
1月末  - 工事完了予定(本融資実行、つなぎ融資全額返済)


■まとめ

1番の課題だった銀行融資の承認に関して、何が問題とされてどうすればクリアできるのか、銀行側がそれを教えてくれる事はあまりないように思います。
今回わたしが取った対応も、自分で建築基準法の規定やその解説を読んで、問題と見なされてしまうことを知り、それらが本当は問題ではない(違法ではない)ことを説明するための方法を探して、自分から銀行へ提示していったものです。
通常、銀行が提示してくるものだけを提出して判断を待っているだけでは、うまくいかないのではと思います。(実際、某地銀Bではそうでした)
問題点を調べるのにはとりあえずクロニカの記事は全部読みました。

調べる前に相談した地銀からは「接道ないなら無理だね」「それだけ古い物件だと無理だね」といった感じで門前払いを受けましたし、調べてこちらから説明しても無理だと断られた地銀や信金もありました。
法適合性については説明できますが、古さ故の低評価は何ともならんのです。他の銀行を当たりましょう。

今回の希望の100%の結果にたどり着くまでは長い長い道のりでした。 
銀行によってどう判断するか、求めてくることは異なると思いますので、面倒ですがいくつかの金融機関に平行して相談に持ちかけるのがよいと思います。

自分が取った行程の他にも融資を勝ち取る方法もあるようで、例えばフラット35であれば、古民家再生協会の定める再築基準に適合させれば、フラット35の定める技術基準に適合となり、融資可能だそう。
おそらくこれが最も正攻法だと思います。

物件毎に異なる問題があって、銀行によって判断基準も違うので、なかなか一様にはいかないと思うけれど、問題点を認識して1つ1つ潰した上で相談すれば、1つくらい希望に沿った結果を提示してくれるところがあるんじゃないかなと思います。
今回の経験や試みが同じような計画をしている方の一助になれば幸いです。
今後は修繕工事や補助金のことなども書いていこうと思います。


1人1人の人間が建物を作り、1つ1つの建物が町を作る。たった1軒の建物に過ぎずとも、町を形作っている。それは確かなこと。

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