バイデン大統領就任 どうなる米国政治と対中外交 (思惟かねのWeekly News 22 Vol.1)

この記事は、Youtubeで水曜日に放送している「思惟かねのWeekly News 22」第1回で放送した内容の記事です。

第1回のトピック
バイデン大統領就任 どうなる米国政治と対中外交
Virgin Orbit社が空中発射ロケット打ち上げ成功 宇宙ビジネスの今


バイデン大統領就任までの経緯

2021年1月20日、トランプ大統領に続く第46代のアメリカ合衆国大統領にジョー・バイデン氏が就任しました。

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今日はアメリカにとっての大きな転機となるであろう、このバイデン大統領就任を期に、アメリカがどう変わるか?ということに注目してみたいと思います。

では、まずアメリカ大統領選挙からここまでの流れを振り返ってみましょう。

バイデン氏は、昨年11月3日に行われたアメリカ大統領選挙の結果、勝利を宣言していました。
そして12月15日、この結果を受けて行われた選挙人による投票によって、選挙人538人のうち、バイデン氏が306票、トランプ氏が232票をそれぞれ獲得して、バイデン氏の勝利が正式に確定しました。

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今回の就任式はそれから一ヶ月あまりを経てのものでしたが、ここまでの道のりは波乱に満ちたものでした。

というのも、バイデン氏と争ったトランプ元大統領は、この選挙結果を認めないことを宣言し、これが不正投票に基づくものであるという主張を続けていました。

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11月の時点で、トランプ大統領が属する共和党の支持者の8割が選挙で不正があったと信じていたという調査結果もあり、アメリカ国内では長らく混乱が続いていました。

その混乱がピークに達したのが今年に入った1月6日、連邦議会の議事堂にトランプ氏の支持者が乱入した暴動事件でした。議事堂では先の選挙人投票結果の認定の最中でしたが、これを不服として抗議集会を開いていたトランプ氏支持者が議事堂へ侵入。

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集まっていた議員が避難する傍ら、参加者に対して催涙ガスが打ち込まれるなど混乱は拡大し、参加者と警察官の両方に複数の死者が出る騒ぎとなりました。

このことはアメリカの民主主義史上初の大事件であり、アメリカはもちろん世界中から避難が噴出。トランプ元大統領までもがこの暴動を非難する動画を投稿しました。
この動画の中でトランプ大統領は「整然とした」政権移行を約束する声明を発表し、初めて公の場で今回の選挙結果を認めました

トランプ元大統領の敗北宣言はありましたが、こうした情勢下のためにバイデン大統領の就任式は厳戒態勢のもと行われ、幸いなことに無事に終了しました。
しかし一方で、現在でもアメリカ人の10人に1人が議事堂への乱入は正当なものだと信じているという調査が1月中旬に発表されています。また大統領選自体も、当選したバイデン氏とトランプ氏の得票率の差は2%程度と僅差であったこともあり、アメリカ国内では未だに世論の分断が大きいのは間違いありません。
このため、バイデン大統領は当面難しい舵取りを強いられることになるのは確実と見られています。


バイデン大統領の政策:トランプ政権からの大転換か?

さて、ここまでがバイデン大統領就任までの経緯です。

しかしこうした困難な情勢の中、就任直後からバイデン大統領は矢継ぎ早に動きを見せました。
トランプ元大統領が2017年に離脱した温暖化防止のための国際合意であるパリ協定への復帰を発表したことを始め、移民政策の変更など数々の大統領令に署名したことが報道されています。

トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げて、従来の国際協調姿勢から一点、自国優先の政策をとっていましたが、こうした方針から再び従来のアメリカ的な政策に復帰することを早速鮮明にした形です。

またバイデン氏は、公約としてLGBTQの権利保護を掲げており、トランプ政権下で決定されたトランスジェンダーの米軍入隊禁止を解除したり、LGBTQの差別禁止の大統領令を出すなど、民主党出身のバイデン大統領らしいリベラルな姿勢も明確にしています。

ここで解説しておくと、アメリカの政党は民主党と共和党の二大政党となっており、バイデン氏は民主党、トランプ氏は共和党の出身です。
例えば、トランプ氏の政策は企業・富裕層への減税、移民の規制、オバマケア(福祉政策)の抑制など、まさに共和党的な保守主義政策をとってきました。
一方でバイデン氏は、これらのトランプ氏の政策を全て中止し、企業減税の廃止、移民規制の廃止、社会保障の拡充や大学無償化、そして先程のセクシャルマイノリティの権利向上などを早速行っています。
実に政策面で対照的なことがわかるでしょう。

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このように、バイデン大統領は一見するとトランプ政権での政策を全てなかったことにしようとしているとも見えます。
が、実はそうとも言えない側面も既に見え始めています。

その一つがバイ・アメリカン法を強化する大統領令です。バイ・アメリカン法は、政府が購入する物品について一定の割合で国内製品の購入を義務付ける法律です。

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つまり国内経済を優先した政策であり、これはトランプ元大統領も同じ政策をとっていました。先程も説明したように、いまだアメリカの世論はトランプ支持、共和党支持も根強く、特に都市部とその他では大きな分断があると考えられています。

実際、先程のアメリカ大統領選挙の結果を見ても分かる通り、バイデン氏が勝利した州は西海岸と東海岸の都市部に集中しており、その他の地方ではトランプ氏が優勢なのがはっきりと見て取れます。

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ここでヒラリー・クリントン氏と戦いトランプ氏が勝利した2016年の大統領選の結果も見てみましょう。ご覧の通り、状況は殆ど変わっていないことが分かります。

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トランプ氏はアメリカを分断したと言われることもありますが、実際は既にあった分断を顕在化させたにすぎないことが、ここからも分かります。

バイデン大統領が国内向けの経済政策でトランプ氏の路線を一部踏襲したのは、まさにこうした分断を緩和する (heal the division) 方針の現れにほかならないでしょう。
バイデン大統領がこれからその他にどのような国内向け政策をとっていくか、それによって共和党支持層からも評価を得ることができるのかが、アメリカの国内向け政策として注目すべき点となるでしょう。


バイデン政権の外交政策:変わるもの、変わらないもの

そして、もう一つ注目すべき点が、バイデン大統領のもとでの外交政策です。

先日、私がかなり驚いたニュースが有りました。

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1月19日、アメリカのポンペオ国務長官(日本で言う外務大臣)が、中国による新疆ウイグル自治区のウイグル族などへの弾圧を「ジェノサイド(集団大量虐殺)」であると認定したというニュースです。

ポンペオ国務長官はトランプ政権で国務長官を務めていた人物であり、よもや退任間際のスタンドプレーかとも思われました。が、バイデン大統領が指名した次期国務長官のブリンケン氏もこの認定に同意することを述べています。
つまりこれはアメリカが公式に「中国はジェノサイドを行っている」と認めたことになります。ただ認定したというだけに見えるかもしれませんが、これは非常に重い意味を持ちます

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アメリカも加盟するジェノサイド条約(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約)は、批准国に対してジェノサイドを「防止し、処罰することを約束する」と定めています。
つまりアメリカはこの認定により、中国に対し何らかの処罰を必ず行わなければならない立場にたったということで。そしてバイデン大統領をいただき新たな門出を迎えるアメリカは、それを認めたのです。


ここで、本筋ではありませんが中国に置けるウイグル族などの民族弾圧問題についても触れましょう。
ウイグル族は中国に50以上いる少数民族の一つであり、新疆ウイグル自治区(地図赤部)を中心に1000万人ほどが居住します。同自治区には他にもカザフ族や回族といった少数民族が暮らしており、主にイスラム教を信仰し、中国語と異なる独自の言語を持つなど、独自の文化を持っています。

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しかし中国は以前からこうした少数民族に対して激しい弾圧を行っているとされています。2009年には公式に認められている数字だけでも1000名が死傷したとされる大規模な衝突が武装警察と市民の間で発生しています。

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近年はこうした状況が徐々に他国にも知られるようになってきています。
2020年1月にはアメリカの超党派委員会が新疆ウイグル自治区での人権侵害や弾圧についての報告書を取りまとめ、関係機関への禁輸措置などを提言しており、これは強制労働や人種淘汰目的での遺伝子分析に関わるとして既に認められています。

ポンペオ国務長官の「新疆ウイグル自治区で100万人以上が投獄または過酷に拘束され、拷問にかけられ、強制的に不妊手術をさせている」「信教、表現、移動の自由が奪われている」という声明は、こうした流れがあってのことで、実はいきなり出てきたものではないのです。

ただし、以前アメリカが実際に行ったのは関係機関への禁輸措置などの限定的な制裁であり、その主体も議員でしかありませんでした。
しかし今回は、アメリカの国務長官という外交のトップがはっきりと人権侵害を指摘し、どころか「ジェノサイド」であると言ったのです。いまだに国際的に認められたジェノサイドが「カンボジアでのポル・ポト政権による虐殺」「旧ユーゴスラビアでの虐殺」「ルワンダでの虐殺」の3つに過ぎないといえば、ジェノサイドという言葉の重みがわかるかと思います。


当然ながら、中国の反発は猛烈なものでした

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即座に反論する声明を出したのはもちろんのこと、数日後には台湾の防空識別圏へ多数の航空機で侵入する示威行動を取る事件が起きました。

なぜ台湾が?と思われるかもしれませんが、そもそも台湾の扱いをめぐる問題は長年の米中間の外交問題です。
そして特に近年は、海洋進出を強める中国へ対抗するため、その最前線となる台湾は両国のホット・ゾーンとなっており、実際に2018年にも米軍が「航行の自由」作戦( Freedom Of Navigation Operation)として軍艦で台湾海峡を通過するなどしています。

今回はこの裏返しであり、アメリカへの反発を台湾という舞台で行動で示したと見るべきでしょう。構造としては冷戦での代理戦争と似ています。


新たなアメリカの対中外交姿勢

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トランプ政権下で、アメリカは中国に対し急速に強硬姿勢へと転じたといえます。先程の航行の自由作戦もそうですし、「米中貿易戦争」と呼ばれるまでに至った、米国と中国の経済面での争いからもそれが伺いしれます。またトランプ大統領も、大統領選では中国に対する強硬姿勢を外交成果としてアピールしています。

だからこそ、トランプ政権下で切った舵を元の方向へ戻そうという動きの強いバイデン政権では、こうした対中外交にも揺り戻しが来るだろうと思われていました。
が、実際には中国の「ジェノサイド」認定という強烈な一撃を早々に出してきました。これは偶然ではありえません。

はじめが肝心とばかりに、バイデン大統領は様々な政策を打ち出していることは先程も説明したとおりです。「リベラル」的な従来の政策だけでなく、国内の保守派の支持も狙った政策を織り交ぜて。これは分断されつつあるアメリカを再び一つにまとめ、傷を癒そうという意思の現れです。
ここで対中強硬姿勢をより一層強めるサインが出てきたのは、つまりこれがバイデン政権でも継続されるという意思表示にほかなりません。

新型コロナウイルスのパンデミックを招いたのが中国であるという見方、香港での民主化運動の弾圧等、様々な要因からアメリカ国内世論もこれを支持すると見て間違いありません。
あるいは穿った見方をすれば、国内の政治的・社会的不安から目をそらすには、中国という「パンデミックの原因」に対する敵視政策こそがもっとも都合が良いとも言えるでしょう。

トランプ政権下での強硬姿勢は、主に経済的なものでしたが、人権という損得勘定で割り切れない外交カードは、ある意味貿易戦争以上に中国に対し強い圧力となる可能性すらあります。

これから実際にアメリカが中国に対してどのような制裁に出るか。そして再び協調外交路線に復帰しつつあるアメリカのそうした動きに対して、日本を始めとする国際社会は同調路線を取るのか、独自路線をとるのか
当面は各国の対中外交を注視する必要があるでしょう。


終わりに

このように、バイデン大統領就任に伴って、アメリカは大きな変化点を迎えつつあります。

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バイデン大統領はアメリカ国内の分断された世論をうまくまとめ、再びアメリカを偉大な国に(Make America Great Again)できるのか。
そして依然、あるいはこれまで以上に強い強硬姿勢となるかもしれないアメリカの対中外交と、その他の主要国の出方はどうなるのか。

答えはそう遠くないうちに、ニュースの中に浮かび上がってくることでしょう。

Virtual Broadcasting Center、VBCの思惟かねがお届けしました。

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なお文中画像は全てWikipediaより引用・改変して利用しています。
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この他にもちょっとしたエッセイや、VRやVTuberに関する考察記事を日々投稿していますので、お時間あればぜひごらんください。

また次の記事でお会いしましょう。
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今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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