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思惟かねの一口ニュース解説【IT/8月】「AIが賃金を決める?」「"AIの倫理"が今求められるわけ」「マイニングとGPUの寿命」「SNSの規制は誰が決める?」「中国ビットコイン崩壊」

この記事は、私、思惟かねのニュース解説ツイートのアーカイブです。気になるニュースを5ツイート程度の一口サイズで深堀り解説します!

◆「賃金決定にWatson」で日本IBM労組が救済を申し立てたワケ、問われるAIの透明性

そもそも、AIとは何なのか?
すごく簡単に言うと「経験的なカン」で判断ができるシステムのことです。

往々にして経験が豊富な人は、様々な知識や過去の事例から、ある状況に対して総合的に「これはいける」「何かヤバい」という直感的な判断ができます。そこに明確な論理的過程はありません。AIとはまさにこの直感=総合的かつ論理的な過程が明確にできない判断をするシステムです。

ここが「〇〇がAである場合××する」という条件分岐の積み重ねでしか判断ができず、たくさんの判断材料に対して総合的な判断ができない従来のロジックとの違いで、ある意味で人間的とすら言えます。
つまり機械学習とは、いいかえれば人間とは比べ物にならない大量の学習データを与えることで、AIの「カン」を養うものとも言えますね。

こうして「AI=経験的なカン」と考えると、実は「AIによる給料査定」と、あなたの上司が頭の中でやっていることは大して違わないことにお気づきでしょうか。どちらも結局は、「上司」または「AI」というブラックボックスから出てくる総合的判断に過ぎないわけです。むしろAIの方が、各々の上司=査定基準が異なる今よりも、統一的で公平な判断なのでは?とすら思えるかもしれません。

それでも漠然とした不安、というあなた。それもまた正しいです。
AIは学習したデータしか知りません。給与査定のプロフェッショナルAIは、しかし「泥棒は犯罪」ということ…つまり「常識」を知りません。だから窃盗や横領をやらかした社員に「A」と査定を付けるような、私たちから見て明らかにおかしな判断を下すこともあるのです。

ゆえにIBM自身も、AIの倫理ガイドとして「透明性」の重要性を述べています。こうしたAIの倫理、透明性については自動運転AIについての記事でも触れていますね。

AIがどんな材料からどんな判断をするか、どんな傾向があるか、学習データは何か…こうしたAIの「人物像」を知ることは、AIそのものの特性を理解するのと同じくらいに大事なことでしょう。例えば下記のようなニュースも、結局は「AI不信」だからこそ起こる話です。

人を信じるには、まずその人を知らねばなりません。総合的で曖昧に判断する「人間くさい」AIも同じで、その個々の人となりを知ればこそ「信じる」ことができるでしょう。
AIという、博覧強記だけどちょっと「抜けた」友人との付き合い方は、案外普通の人付き合いと似ているのかもしれませんね。


◆ソニーがAI倫理審査を製品の品質管理プロセスに導入したワケ

今日導入が広がりつつあるAIは、その膨大な情報処理能力と認知能力により、今まで見えなかった「壁」を可視化してしまいます。
例えば「家賃を滞納しそうな人」。あるいは『PSYCHO-PASS』で描かれた犯罪係数のような「犯罪を犯しそうな人」。今まで曖昧だったものに「答え」を出せてしまいます。
もちろんそうした人全てが家賃を滞納し、犯罪を犯すわけではありません。が、もしAIがそう判断したのなら、例えば自動車保険の等級のように「区別」として不利益を被る可能性は高いでしょう。これが合理性の下に正当化されるか否か。ここで「倫理」という基準が必要になります。

さて、こうした「AIの倫理規定」について、より実効的な取り組みをしているのがソニーです。
ソニーはAI倫理を単なるポリシーに留めるのではなく、QMS(品質マネジメントシステム)と呼ばれる、企業が持ついわば「製品開発の仕組み」に、AI倫理に関する規定を追加し運用しています。

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同様の取り組みはNECでも進んでいます。こちらでは一部具体的な数値目標まで定めています。こうしたレベルまで落とし込むことで、初めてAIに対してのガバナンスは機能することになります。漠然と禁止するのではなく、法律として明文化することで初めてルールとして機能するのです。

就活生の辞退可能性を診断するリクルートのシステムや、先ほどのIBMの給与査定システム。合理性と倫理は少なからず相反するため、AI技術を使った「診断」の倫理的な是非はこの先一層問題になるでしょう。

現在、EUではAI規制に対して具体的な議論が進んでいます。ただEUの厳しい規制案に対し、産業界からは反発の声も。
またAIとはいわば人間が「なんとなく」行う判断を大きなスケールで実行可能なシステムにすぎません。人の判断はOKで、AIの判断はダメ…というのも変な話です。

AIの技術と倫理の問題について、私たちも考えるべき時が来ているのではないでしょうか。

【参考】
ソニーグループ AI倫理ガイドライン
QMS(品質管理システム)とは?わかりやすく解説


◆マイニングに使われるGPUのパフォーマンスは1年で10%低下する

電子部品の寿命要因は主にはんだコンデンサです。GPUの場合、後者のコンデンサの劣化の影響が大きいです。
一般に使われる電解コンデンサ(写真)は、熱により電解液が蒸散することで劣化し、静電容量の低下(いわゆる容量抜け)を起こします。この結果、電源供給が不安定となり性能が低下するわけです。

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この劣化速度は、一般に10℃2倍則…温度が10℃上がると寿命が半分になるという経験則で表されます。高負荷(=高温)で長時間動作させるマイニングが寿命を縮めるのは当然ですね。

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またもう一つ、非電気的な要因であるのが冷却性能の低下です。冷却部品というのは、想像以上に経年劣化します。分かりやすいのが、埃の付着によるヒートシンクの性能低下。熱が逃げにくくなるのは火を見るよりも明らかですね。

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その他、冷却器へ熱を逃がす伝熱グリスや、伝熱経路となるヒートパイプも経年劣化します。いずれも寿命はせいぜい3年程度、グリスは塗りなおせばよいですが、ヒートパイプはどうしようもありません。
こうして放熱が悪化すると、GPUは温度を下げるために性能を抑制せざるを得なくなり、性能が低下します。

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このように目に見える劣化が生じない電子製品も必ず寿命があり見えない所で確実に劣化と性能低下が進む事を知っておきましょう!
…ちなみに寿命に限りがあること、10℃2倍速や冷却悪化による性能低下は全てのPC部品に当てはまります。PCを酷使する方、長年使い続けている方はくれぐれもご注意を!


◆タリバンのアフガン制圧、SNSの有害コンテンツ対策に新課題

もはや世界のインフラであるSNSが、依然私企業の曖昧なポリシーのみに規制の判断を頼る弊害が見えてきます。
Twitterは「暴力的な組織と憎悪」を、Youtubeは各国政府のテロ組織指定を規制の基準としますが、これも言ってしまえば、近代西欧的な価値判断に過ぎないのかもしれません。私たちに根付いている人権や自由などの「進歩的な」価値観は、所詮ある国ある時代の時代精神であり、実は思うほど当たり前ではないかもしれません。

価値観の異なる相手を軽率に排除することは、分断と対立を悪化させるだけです。グローバルなインフラたるSNSもまた、その岐路に立ちつつあると思えます。SNSの規制問題は、あらゆる価値観が相対化する、あるいはされるべきこれからの時代、今まで以上に難しい舵取りが求められるでしょう。

もし異なる価値観が世界の過半を覆った時、はたしてSNSは「これは有害な言論で、これはそうではない」という判断を下すことができるでしょうか…?


◆中国「ビットコイン採掘場」閉鎖の激震

中国政府は様々な理由からビットコインとマイニングの規制を強めています。一つが海外への資金流出防止。以前から中国で問題となっている富裕層による資産の海外移転が、経済を不安定化させるためです。

また他方で環境破壊の問題もあります。
BC採掘の本丸である四川が渇水期に入り、水力の豊富な電力が不足すると、採掘業者は安価な石炭火力の電力が得られる内モンゴルや新疆に「渡り」を行うそうです。その上再エネである水力も食いつぶすのですから、環境への悪影響は言うまでもありません。

またそれ以外にも、2020年から中国は既に「デジタル人民元」の実証実験を始めており、これがビットコインとバッティングすることでデジタル通貨導入によるメリットが減少するという懸念も一つの要因だと思われます。

ビットコインの価格は乱高下してきた背景として、こうした中国国内の様々な問題に由来する当局の取引規制やマイニング規制があったわけです。
またさらにその背後には、強硬な経済政策に対する不信や金融基盤の弱さ、環境問題など、中国が抱える問題が反映されているのではないか…そんな風にも読み解けますね。

中国の国内問題に翻弄され続けたビットコイン。果たして中国脱出の果てに、仮想通貨として安定を見る日は来るのでしょうか…?

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今回もお付き合いいただきありがとうございました。
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