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vol.8 白粉の女の子

しましまねこクックの友達クロタは、クロタの住む黒いマンションごと消えてしまいました。それは5月の新緑眩しい日の出来事でした。

その翌日、クックはクロタのマンション跡へ行ってみるとそこは黒い花が咲き乱れ、しましまねこの女の子が立っていました。女の子はクックの知っている「モモ」という子によく似ていましたが「ナーナ」と名乗りました。ナーナは「ここに喫茶店を立てようと思うの。」と教えてくれましたが、それからすぐに、クックの住む港町は長い長い梅雨へと入ってしまい、クックはその間、ナーナと顔を合わせることは一度もありませんでした。

その年の梅雨の長さと言ったら!そのまま夏を飲みこんでしまうのではないかと皆が心配になるほどでした。

しかしそんな長い長い雨も8月を何日か過ぎたころピタリとやんで久しぶりに太陽が顔を出しました。クックは嬉しくなって外へ飛び出し、そのまま商店街をウキウキと歩いていました。

そして白ネズミの写真館の前で足がとまりました。ショーケースが新しくなってキラキラしています。そこに飾られた花嫁ねこの写真に目がとまりました。『なんて神秘的で綺麗なんだろう。』そう思っていると、写真館のドアが開いて白ネズミの奥さんが外へ出てきました。

「クック!あなたの知り合いの女の子にモデルになってもらったのよ!」

写真館の奥さんは写真館に来た人の毛並みを整えたりお化粧をする役割でした。白ネズミの夫婦には沢山の小さいな子供が居て、クックにたいそう懐いていました。一緒に釣りに連れて行ってあげることもよくありました。それから白ネズミ家のお婆ちゃんはよく当たると評判の占い師です。

「こんにちは、白ネズミの奥さん。僕はこの子を知らないよ。結婚式があったの?」

「ああそれはね、ガラスケースに飾るとびきりの写真を撮りたくてね、丁度6月だったから、花嫁さんの写真を撮ろうってことになったの。モデルになってくれる子を探していたら、通りを可愛い猫が歩いてきたから思い切ってお願いしたのよ。黒花の空き地に喫茶店を建てると言ってたわよ。」

「え!ナーナ!?」

「そうそう、ナーナ。写真が出来たら1枚あげる約束をしたのに取りに来ないの。長雨が続いたせいかしら。クック、代わりに持って行って貰えないかしら?この街では知り合いはクックしか居ないって言ってたのよ。」

「え!でも僕の知ってるナーナはこんなに綺麗なネコじゃないんだけど・・」

「あら酷い!・・・白粉パタパタとね、ちょっとメイクして綺麗な花嫁さんの出来あがり。」そう言って白ネズミの奥さんは写真たてに入れた花嫁姿の写真を強引にクックに手渡しました。

そう言われてもクックには全く信じられません。全く違う子に見えます。

「魔法みたいだね・・」

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「あ!それから今朝焼いたパンがあるから持って行ってあげてくれる?」そう言うと白ネズミの奥さんは焼きたてのふわふわパンを両手に抱えて持ってきました。焼き立ての芳しい香りがクックを甘くを包みます。

その時です!

「ああ~~~なんていいにおいなんだあ!!」と突然、茶色いモフモフ猫が吸い寄せられるようにパンに飛びつくとあっという間にガツガツと、なんとパンをすべて平らげてしまいました。唖然としたクックと白ネズミの奥さん。

「あ~!やっと生き返ったよ!ごちそうさま!」と茶色いモフモフ猫は頬っぺたにパン屑をくっつけて満面の笑顔を見せました。

「あらまあ、あなた!ずいぶんお腹がすいていたのね!」白ネズミの奥さん。

「驚いた!」と呆れたクック。

「僕はソニー探偵社のソニーと申します。西の城下町を出て何も食べずに歩いてきたからね。」そう言うと、もふもふとした茶色の猫はペコリと頭を下げて見せました。

「探偵!?」クックと白ネズミの奥さんは顔を見合わせた。

「そう。僕は主に、行方不明の猫やら何やら、なんでもね、ともかく探すのが生業です。」

「なんでも?じゃあ息子たちが失くしては困ってるキラキラボールなんかも見つけられる?」

「はい、もうそれは大得意です。パンのお礼にいつでも探して見せますよ。」ソニは胸を張って見せました。

「あら素敵。じゃあ無くした玩具を探してくれたら好きなだけパンを食べていくと良いわ。」

クックの頭にはクロタのことが浮かんでいました。でも、この食い意地のはったモフモフ猫に頼んで大丈夫なんだろうかと不安がよぎり口には出しませんでした。

「それはそうと、さっき貴方達はナーナがどうのこうのと言ってなかったですか?」ソニーがそう尋ねるとネズミの奥さんは

「そうよ、クックにね、・・・クックっていうのはこのしましまねこよ。クックにナーナのところまで届け物を頼んだのよ。」

「パンはぜんぶ君が食べちゃったけどね!」とクック。

「実は、僕は西の城主夫婦に頼まれて、プリンセスナーナを探すために此処にに来たんです。」とソニーは難しい顔をして見せた。

「あら、あの子ってあそこのお城のお姫様なの?」驚くネズミの奥さん。

「そうです。梅雨に入る前に、港町に喫茶店を開店すると言って、それまで貯めたお金をぜんぶ持って出かけたきり、連絡が取れなくなったナーナ姫を探してるんです。」

ネズミの奥さんの顔が曇りました。

「そういえばあの子、誰かにお金を騙し取られてしまったと言っていたわ。だから喜んでモデルのバイトをひきうけてくれたの。まあ、そのわりに元気そうで、とりあえず住める小屋は建てられそうって笑ったのよ。良い子ね。暗い顔一つ見せないで・・ぐすん・・」白ネズミの奥さんは涙ぐみました。

そして、クックとソニーは一緒に黒花の空き地に住むというナーナを訪ねて行くことになりました。

「僕の探してるお姫様と同じ猫だといいんだけどなあ・・」と呟くソニーにクックは尋ねます。

「突然姿を消す猫って居るもんなんだね・・」

ソニーは少し神妙な顔をして答えました。

「実は僕の姉さんも行方がわからなくなったままなんだ。それが僕が探偵になったキッカケさ。この仕事を始めたら思ってるよりずっと誰かが誰かを探してることが多いことに気がついて、今ではそれを一つずつ解明したいと思ってるんだ。」

クックは食いしん坊で呑気そうなこのモフモフ猫の胸の中にも哀しい何かがあるのだと少し驚きました。

そしてこの時クックは、この食いしん坊なモフモフ猫探偵と長い長い付き合いになるとは想像もしていなかったのです。

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もふもふねこ ソニーは探し物が得意な探偵です。手にしているのは「真実を探る虫眼鏡」


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港町に住む、しましまねこクックは、突然消えた謎めいた友猫クロタを探しています。

🌼🌼🌼🌼🌼🌼 vol.9 へ続く 🌼🌼🌼🌼🌼🌼

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こちらの可愛いペーパーは、フランセのビスキュイのもの。

6月の少女塾企画展「喫茶☆黒☆兔☆星」のお茶会にて作家様のお土産でした。美味しくいただいてペーパーは頂いて帰りました。

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あの日の余韻に浸り続けていたい気がするのですが、すでに次回の少女塾企画展示「白き雪の花物語」がもうすぐ始まります!

白をテーマにした展示会です。作家の皆さまの白き作品で埋め尽くされるであろう少女塾にぜひ遊びに来てくださいね!

「おもちゃばこ」からは、白無垢姿の「白粉の女の子」出展いたします。

少女塾企画展 第廿五回「白き雪の花物語」

をとめ作家による人形作品、イラスト、小物等の展示販売

令和元年10月20日、27日、11月3日、10日、17日、24日(毎週日曜日開催)

12時~18時   処  少女塾

企画 主催  市川こずえ

〒180-0004   東京都武蔵野市吉祥寺本町1-28-3 ジャルダン吉祥寺105号

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