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初夏の頃、空から降ってきた一粒の白い雪…。

その日は実家に帰っていて、友達と会う約束をしていた。車で迎えにきてくれることになっていたので、それまでの時間は庭の小さな畑をチェックしたり、空を飛ぶつばめの観察をしていた。

つばめが巣を作る家には、幸せが運ばれてくる…そんな話を聞いたことがある。
車庫や玄関を飛び回るつばめ。
下見に来ているのだろうか。
都内ではなかなかみることが出来ない光景にほっこりしながら目を細めていた。

「のどかだなぁ。好きだなぁこの場所が」

鳥とはちょっとした因縁があるわたし。だけど、この家に幸せをもたらしてくれるなら、下見に来ているかもしれないつばめたちにはきちんとご挨拶をしなくては。
ここに巣を作ろう、そんな風に思ってくれてもいいように。

そうこうしていたら、待ち合わせの10分前。
わたしはあることが起こり、すぐに友達に連絡をしていた。

ごめん。
さいあく。
少し時間ください。

短文を3連投。
この文言に加え、カメラを反転させて撮った自撮り写真を送った。

写っているわたしの顔、左目から1センチくらいの頬骨のところに見事にふんを落とされていた。
白くこんもりしたそれは、わたしの左目の視界に入るほどだった。
見えてるよー!がっつり見えてーる!💩

あと1歩間違えば、左目の中にホールインワンおめでとうとなっていた。

低い位置でわたしのすぐ側を飛び『びちんっ!』と鳴った時に、全てを察していた。

「おい、おまいたち!幸せをもたらすんじゃなかったのか!わたしはいま、ものすごい憤慨しているぞ!糞害に憤慨だ!我ながらうまいこと言った。憤っている!激しい憤り!糞だけに、フンガフンガ!💢」

いきなり不幸せをもたらされた。実家には時々しかいないわたしに目がけてふんを落とすつばめ。

玄関や車にふんが落とされていることには気付いていた。だから、つばめの停まる電線の下には近付かないようにしていたのに。

残念ながらわたしは、電線の下にいなくても、ふんを垂らされる人生。わざわざ引っ掛けにこられる星の下に生まれてしまったのだ。

つばめに対して、巣を作ってもいいよと歓迎しているのに何が気に入らなくてわたしの顔に…ぐぬぬぬぬ。
ここはお便所ではない。そんなにわたしはお便所顔なのか。ねぇつばめ。答えてつばめ。

お隣にいるのはパートナーよね?そんなお行儀の悪いパートナーってどうなの?近くにいる人が注意してくれてもよくないか。

友達は、待ち合わせ時間を遅らせることには一言も文句を言わずにいてくれたので、感謝の言葉を述べる。

ふんを取りアルコールで丁寧に除菌、洋服を全部脱ぎシャワーを浴びる。顔を洗い、念のため目の中もじゃぶじゃぶ洗い、はみがきをしながら考えた。


もしかして…わたしは前世で、鳥にものすごい意地悪をして恨みを買っていたのかもしれない。

そうでもない限り、頭の上やら肩にフンをひっかけられたり、何もしていないのにカラスに突然襲われたり、あわてんぼうの鳩がぶつかってきてフードに入ってしまったり、ましてやつばめに飛びながらふんをひっかけられるという奇跡を起こせないと思う。

そろそろ、お祓いをお願いするフェーズに入っているかもしれない。ってフェーズの使い方合ってる?カタカナムズカシネ。

シャワーが終わり、服も着替え、いちからメイクをする。ギリギリ守られた左目からコンタクトを入れ、こんもりとふんが落ちたあたりに、チークを乗せたら完成。

友達は、遅刻の言い訳に鳥のふんを使ったとは思っていない。なぜなら、わたしがそういう星の下に生まれてきたことをよく知っている幼馴染の親友だから。

ランチを食べながら、ご飯中に話す内容でもないことだけど一連の流れを話した。
ものすごい同情してくれて、また今度いいことあるよって励ましてくれた。
同情するなら金をくれ、と思ったけど、おいしいお菓子のお土産をくれた。なんて優しい。

糞被害選手権日本代表。
星野うみ。選手は翌日、つばめには申し訳ないけれど、巣はどうか他を当たっていただきたく…ほうきを持って「ここには悪い人間がいます」アピールを力の限りした。もちろん、直接危害を加えることはなく。

え?わたしは直接過ぎる危害を加えられたけど…優しいね自分。

落ち葉をはく用のあのでっかいほうきを縦に持ち、「なんで!なんでわたしばっかり!」とか言ってるところを近所の人に見られてしまったのがドンマイなわけで。

遅刻の言い訳にありそうな、「鳥にふんを落とされてしまって、お風呂に入りますので少し遅れます」がリアルに起こるのがわたしの日常。

って、遅刻の言い訳にすら使わないであろうことが普通に起こるのなんでだろう。

初夏にも、雪は降るんだ。
生ぬるい感触のぼてっとした一粒の雪が。
選ばれし人間の、わたしだけに降って来た。

特別な体験をありがとね、つばめ。


カラスとわたし。


鳩とわたし。


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