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《アートエッセイ》 ”𝘖𝘤𝘦𝘢𝘯 𝘎𝘳𝘦𝘺𝘯𝘦𝘴𝘴”-𝘑𝘢𝘤𝘬𝘴𝘰𝘯 𝘗𝘰𝘭𝘭𝘰𝘤𝘬-

Artist : 𝘑𝘢𝘤𝘬𝘴𝘰𝘯 𝘱𝘰𝘭𝘭𝘰𝘤𝘬
Title : “𝘖𝘤𝘦𝘢𝘯 𝘎𝘳𝘦𝘺𝘯𝘦𝘴𝘴”

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「大衆の目だ」
絵を見て、そう直感した。

ジャクソン・ポロックー抽象表現主義を先導した代表と言われるアメリカ人アーティストー晩年の代表作である。

「この絵にはゴッホの星月夜のように、人を内的世界へと引きずり込む不思議な力がある」そう感じた私は、ポロックに興味を持ち彼の生涯について調べてみた。
その最期は、若い愛人を巻き込んでの飲酒運転による事故死だった。詳細は不明だが、それは意図的な自殺だったとも言われている。

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背景は鈍い灰色、中心の渦のようなものは、大海原に突如として現れた渦潮のように見える。そして見開かれたいくつもの目。渦の複雑な色合いは、何万もの人々から向けられる賞賛や批判、共感や反感の熱量や、それら膨大なエネルギーのうねりを表しているかのようだ。そしてこのうねりの下には、何か『よくないもの』ーそれは私が前回投稿したものとどこかリンクしているような気がするーが潜んでいると感じた。
もしかするとポロックはすでにこの時、それに片足を掴まれていたのかもしれない。

一隻の船が、激しく渦を巻く濁流に飲み込まれたならどうなるだろうか?きっとどんなに頑丈な船でも粉々に砕け散り、やがては光の届かない深い闇へと沈み、もう二度と浮上してはこれなくなる。

その禍々しきものに、輪郭を与えてはいけなかった。
力を与えてはいけなかった。

本来大衆なんてものは幻想で、ただの概念に過ぎないのだ。どこにもそんな人たちは存在しない。そしてその幻想の裏で蠢く『よくないもの』に少しでも力を与えてしまったなら、それはたちまち凶暴性を増し、ハリーポッターに出てくるディメンターの如く人の幸福を食い物にしては代わりに絶望を植え付けてくるだろう。

ポロックは、無意識下で巣食われてしまっていたのかもしれない。大衆の目になりすましたそれに。自分じゃない自分の目に。それを暴くためにこの絵を描いたのだろう。ともするとこの作品は、彼の闘争の軌跡とも言えるのではないか。

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そもそも人々は、”毎日”という名の料理を美味しくすることで忙しい。映画を見るのも本を読むのも、料理にかけるソースを探し回っているようなものだ。ネットに誹謗中傷を書き込む人は、パンチの効いたスパイスが欲しいのだ。かつてイギリスが、アジアと香辛料貿易を始めるために『力』ー東インド会社ーを利用したように。
なので、みんな勝手に人の作った(例えば)カレーをペロッと舐めては「辛〜い」と好き放題言うが、無論彼(彼女)は悪ではない。でも本当は、甘さが欲しいならカレーではなく、さっさと生クリームを舐めるべきなのだ。

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「出会った絵について書くことは、でも勿論私について書くことでした」ー江國香織『日のあたる白い壁』集英社文庫、2007年、まえがき

この表現は言い得て妙だなと思う。私たちは何を見ても自分以外とは出会えないのだから。
私はとても神経質で思い込みが激しい。それゆえ気性も荒いが、同時に気が小さくもあるため傷つきやすい。我ながらやっかいな性格だがまあ仕方がない。このアンビバレントさを持ち合わせているのが私なのだ。思い込みが強くなければ物語はつくれないのだから、これは美点でもあると思う。そしてそれら全てを良しとするからこそ、この文章はいつかの自分のために書き残しておく。ある日突然、目の前の地面がパックリと割れ、荒々しくたぎる渦潮が顔を出した時のために。

“𝑾𝒉𝒆𝒏 𝒚𝒐𝒖 𝒂𝒓𝒆 𝒑𝒂𝒊𝒏𝒕𝒊𝒏𝒈 𝒐𝒖𝒕 𝒐𝒇 𝒚𝒐𝒖𝒓 𝒖𝒏𝒄𝒐𝒏𝒔𝒄𝒊𝒐𝒖𝒔”, 𝑡ℎ𝑒 𝑎𝑟𝑡𝑖𝑠𝑡 𝑐𝑙𝑎𝑖𝑚𝑒𝑑,”𝒇𝒊𝒈𝒖𝒓𝒆𝒔 𝒂𝒓𝒆 𝒃𝒐𝒖𝒏𝒅 𝒕𝒐 𝒆𝒎𝒆𝒓𝒈𝒆,”-𝘑𝘢𝘤𝘬𝘴𝘰𝘯 𝘗𝘰𝘭𝘭𝘰𝘤𝘬-
あなたが無意識から描く時、輪郭は必ず現れる」-ジャクソン・ポロック-




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