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漫画『ザ・ファブル』に学ぶ「1on1」の失敗。――誰もが陥る「エビハラ状態」について


今めちゃくちゃコーチングを行っている者です。


ありがたいことに、クライアント(コーチングを受ける人)から良い感想をたくさんもらえているのですが、「会社の1on1もこれ(コーチング)だったらいいのにな」という感想をよくもらいます。


そこで、クライアントから得た「1on1」の不満をベースに、コーチング視点で

・やりがちな「1on1」の失敗
・「1on1」で大切なこと

を書いていきたいと思います。ただ普通に書いてもいまいち面白くなさそうなので、大好きな漫画『ザ・ファブル』を参考にしながら「何がまずいのか」や「どうするとうまく機能するのか」という点を見ていきたいと思います。


『ザ・ファブル』とは
殺しの天才が大阪で普通の生活を送る話。ただ、もちろん「普通」には暮らせない。暴力団や他の殺し屋に絡まれながらも、圧倒的殺人スキルでなんやかんやする全人類必読の漫画。最高。


相手を自分勝手にイメージする


のっけからヘヴィーなシチュエーションで失礼します。まず登場人物を説明しますね。左上のマスクをかぶった男が伝説の殺し屋にして主人公「佐藤」。その右にいる三下感溢れる男が「黒塩」、通称クロ。そして関西弁で物騒なことを言っているのが暴力団・真黒組(まぐろぐみ)の若頭、「海老原」です。(クロも真黒組に所属しています)


次に状況の説明をします。伝説の殺し屋「佐藤」は組織のボスから「殺しはしばらく休業にして、普通の暮らしを楽しんできや〜」と言われ大阪にやって来ています。そこを仕切っているのが真黒組なんですね。


真黒組の若頭「海老原」は、佐藤が伝説の殺し屋だと知っています。だから佐藤を追い出したいのですが、組長から「手を出すな」と言われている手前、直接追い払うことができません。


そこで、佐藤が殺人快楽者だと確定できれば、つまり組にとって危険人物だと確定できれば佐藤を追い払える大義名分ができると考えています。また、佐藤が何を考えているかわからないので、本性を暴こうと脅しをかけているのです。



(ちなみに、海老原が「そいつを殺せエー」と言っている「そいつ」はクロではなく、このプロレスラーみたいな人です)


話を戻します。


佐藤に詰め寄る海老原。ですが、全く両者の会話が噛み合ってないのがわかると思います。海老原の質問に対し佐藤が同意するものは一つもなく、コミュニケーションが成立していません。


なぜ成立しないのか。それは、海老原が勝手に佐藤のイメージを作り上げているからです。「お前ほどじゃないが、似たやつを知ってる」と海老原が言っていますが、正しくは「知ってる」ではなく「過去の人物サンプルから選んでる」。


実際、佐藤は「仕事」として淡々と殺しを行っており、海老原が考えている「快楽殺人鬼」とはかけ離れた人間です。


「1on1」でも同様の失敗が見られます。つまり、上司が部下を自分勝手にイメージしていることがあるようです。例えば、目標予算を達成できなかった部下に対する「1on1」をする場合だと下記のようになることもしばしば。


=====

上司:どうだい最近の調子は?

部下:そうですねえ…。あまりよくはないですね。

上司:予算も達成できなかったようだね。

部下:はい…。申し訳ありません。

上司:やめてくれよ。責めてるわけじゃないんだからさ〜。

部下:すみません。

上司:なぜ達成できなかったの?

部下:そうですねえ。ちょっとやり方が効率的ではなかったですね。

上司:やり方? 同期の〇〇くんは同じようなやり方で目標達成してるけど。

部下:そうですね…。

上司:やっぱり小手先の話じゃなくて、「何がなんでも予算を達成する!」という気持ちが大切なんじゃないかな。

部下:はい…。

上司:だから責めてるわけじゃないから、そんなに落ち込まないでくれよ。な? 来期期待してるから。

部下:はい…。頑張ります。

=====


ありますよね。こういうの。根性論ダメ、絶対。

この上司も海老原と同じく、勝手に部下をイメージしています。これがいわゆる「エビハラ状態」です。


この時上司は「頑張りが足りないからから予算を達成できなかった自分に甘い部下」という人物像をイメージしています。だからそのイメージに近づけるべく、質問で誘導しています。そしてこれの怖いところは、上司も誘導を無意識にやっているという点です。


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▲「エビハラ状態」の図


コーチング視点でみると、この時の「1on1」は次のようになるはずです。


=====

上司:どうだい最近の調子は?

部下:そうですねえ…。あまりよくはないですね。

上司:あまりよくないんだね。

部下:はい…。予算も達成できず。申し訳ありません。

上司:そうだったね。

部下:すみません。

上司:〇〇君(部下)は何が原因だと思ってるの?

部下:そうですねえ。ちょっとやり方が効率的ではなかったですね。

上司:効率的ではなかったんだね。

部下:はい。もっと選択と集中をしっかりやるべきでした。

上司:いいね。具体的には?

部下:そうですね…。金額が減少傾向にあったB社とC社は切って、安定しているA社とD社に注力、そして空いた稼働を新規開拓に当てる。これができれば予算は達成できると思います。

上司:素晴らしい。いつから実行できそうかな?

部下:明日、いや今日からすぐに実行します!

=====


全然違いますよね。両者の会話、違う点はたくさんあるのですが、上司のどの発言が分岐点になったと思いますか? ここがこのnoteの一番のポイントなので、ぜひスクロールを戻して会話を見比べてみてください。





見比べて考えると、

これになるんでぜひ……。






ありがとうございます。正解は……



部下の「そうですねえ。ちょっとやり方が効率的ではなかったですね」のあとの上司の発言です。


<失敗>

部下:そうですねえ。ちょっとやり方が効率的ではなかったですね。
上司:やり方? 同期の〇〇くんは同じようなやり方で目標達成してるけど。


<成功>

部下:そうですねえ。ちょっとやり方が効率的ではなかったですね。
上司:効率的ではなかったんだね。


<失敗>の上司が部下の発言を一切聞かずに自分のイメージに誘導しようとしているのに対し、<成功>の上司は部下の言葉を受け止めています。受け止めたことで、部下は「自分の話を聞いてくれている」という安心感を感じ、自分の思っていることを話すことができています。


なぜそれを実現できたのかというと、部下の勝手なイメージを作らず、ただ目の前の部下に焦点を当てたからです。この「ただ目の前の人に焦点を当てる」が「1 on 1」において最も重要かつ難しい問題であると考えています。


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▲ただ目の前の人にフォーカスをすることが重要



「エビハラ状態」の弊害


「エビハラ状態」=相手を勝手にイメージすること。それ自体がかなり危険な状態ですが、「エビハラ状態」になるともう一点恐ろしい弊害があります。


先ほどのコマをもう一度のっけますので、ぜひ一度考えてみてください。ヒントは「質問の種類」です。






これわかったらかなり鋭いです。




良いでしょうか? 答えは…






全てクローズドクエスチョンになっている、でした。


<海老原の質問>
・じゃあ、オナニーかアーー!?(すみません)
・おまえみたいなのシリアルキラー言うのやろ?
・100人も殺っといてかアーー!?


このように、すべてYES or NOが答えのクローズドクエスチョンです。「クローズドクエスチョンのみ」がよくない理由は下記2点、


①会話が広がらない
②「責められてる」感が出る


①は想像できるかと思いますが、答える方が「はい」か「いいえ」のみなので、会話が広がりません。しゃべる量も圧倒的に質問する側に偏ります。


②に関して、ぜひ一度誰かと試してほしいのですが、答える側がめちゃくちゃ圧迫感を感じます。悪意のある質問でもなんでもないのに、笑っちゃうぐらい圧がくるんですよね。これに「上司と部下」という関係が上乗せされるとその圧はとんでもないことになります…。



ちなみに、このあとなんやかんやあって、海老原は佐藤(マスクをとっていますが銃を向けられている男です)に「オープンクエスチョン」を投げかけます。




明らかに空気が変わったのがわかると思います。なぜかと言うと、海老原が佐藤そのものにフォーカスし、オープンクエスチョンによってコミュニケーションをとっているからです。


このあと海老原と佐藤がどうなるのか。ぜひ『ザ・ファブル』を読んで確かめてください…!




誰でもなっちゃう「エビハラ状態」


さて、ずっと暴力団の若頭海老原を例にみてきましたが、この「勝手に相手をイメージ」する「エビハラ状態」、善人でも陥ってしまうところが怖いんです。



佐藤に質問を投げかけているのは、佐藤のバイト先の店長、田高田(たこうだ)。通称タコちゃん。酒好きで面倒見が良く、絵に描いたような善人です。個人的にも好きなキャラの1人。


佐藤はタコちゃんに「自分はとんでもなく弱い」という嘘をついています。タコちゃんもその嘘を信じていたのですが、ひょんなことから「実は佐藤はめっちゃ強い」ことがばれてしまいます。このシーンはタコちゃんが佐藤の核心に迫るシーンで、読者全員が「うわあ…とうとうばれるか!?」とドキドキしたのですが…




タコちゃん…!!! 



からの佐藤のこの白けっぷり。さすが伝説の殺し屋。まあ笑うとこなんですが、「エビハラ状態」の特徴である

・勝手に相手をイメージ
・クローズドクエスチョン多用

が完全に一致していることがわかると思います。恐ろしいことに「エビハラ状態」は誰でも陥る可能性があるのです。


質問する際に一度立ち止まって、「相手のことを知るために」質問しているのか、または「自分のイメージを確かめるために」質問しているのかを考えることが、自身が「エビハラ状態」になっているかどうかのジャッジになります。後者であれば「エビハラ状態」になっているので描いたイメージを破棄するよう努めましょう。


「勝手にイメージ描いちゃいそう…」というあなたに


とはいえ、「エビハラ状態、無意識のうちになっちゃいそうで怖い…」と思っちゃいますよね。これ仕方がなくて、イメージすることで危険を察知したりもしてるので「365日24時間エビハラ状態にならない!」は現実的ではないと思ってます。


ただ、少なくとも「1on1」をやるときには気をつけたほうがいいよね、という考えでいるとバランスが良いかと。で、そのスイッチの切り替え方法について、佐藤の参考になるやり方を紹介して終わりたいと思います。



コレです。いろいろ試したそうなんでぜひ。


▼まとめ

「1 on 1」では「エビハラ状態」だと失敗する

■「エビハラ状態」とは?
①相手を勝手にイメージする
②クローズドクエスチョンばかりになる 

■  「エビハラ状態」にならないためには?
・質問する前に「相手のことを知るための質問」or「自分のイメージを確かめるための質問」どちらなのか確認しよう


以上です! 気に入ってくれる方が多かったら次は「実は質問上手なクロちゃん」を書きなぐりたいと思います〜


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