マガジンのカバー画像

わたしをかたちづくるもの

15
「私の形」をテーマに創作したものがたり #エッセイ #小説
運営しているクリエイター

#エッセイ

お小言

お小言

「チュン」

ハムスターの鳴き声である。成る程どうやら彼らは小鳥のような声を出す。
元来ハムスターは無口なタチで、クシャミの音や、どこかから落ちたり驚いたりといった「緊急事の一声」以外はなかなか耳にする機会がない。小学生の頃に学校のハムスターを引き取ったのを最初として、これまで数匹のゴールデンハムスターと過ごしてきたが、一緒に暮らしている間についぞその声を聞く機会なくお別れとなった者もいた。

もっとみる
「うちに帰りたい」

「うちに帰りたい」

実家のベランダには、屋根に上がるためのハシゴがかかっている。
屋上と呼べるような上等なものがあるわけではない。室外機が屋根の上にあり、メンテナンスのために登れるようにしておく必要があったのだ。
そのハシゴは3階のベランダから空に向かって垂直に取り付けられていた。
「危ないから」と、子供が登ることは禁じられていた。

鉄筋コンクリートむき出しの四角い我が家。
ハシゴは屋根にかかった部分がカーブしてい

もっとみる
真夜中の映画館

真夜中の映画館

「ただいまー。今日は何観るの?」

「おかえり。えっとねぇ、これか、これが良いんだけど・・・」

「ほへ、そしたら今日はこっちにしようか」

「うぃ、ほんにゃらチケット取るね」

帰ってきた夫と一連の相談を済ませると、いそいそと夕飯を食べてお風呂に入る。

ようし、寝じたく完了!出かけるぞー!

今日は、月に一度の「夜中に映画館へ行く日」なのだ。

あとは寝るだけの身体にゆるりとした服をまとって、

もっとみる
バクと布団

バクと布団

「自分の動物」を選ぶとしたら、私はバクを選ぶ。

バクは、その見た目の様子から好きというよりは、意味づけも含めて好きになっていった動物だった。

我が家では、それぞれのトレードマークとなる動物がなんとなく決まっている。
寅年の妹はトラ猫。未年の両親はヒツジ。夫は実家で飼っていた巨大な猫が元になって白猫。「○○ぞう」という名前だった叔父は、もはやダジャレみたいだけど、象がトレードマークだった(ぴった

もっとみる
さんぽの時間

さんぽの時間

暗闇にゴトゴトと車輪を回す音が響いている。

最初こそ、小さなカゴの中から聞こえる思いがけない轟音に驚いたけれど、この子と暮らし始めて数週間、もうすっかり慣れて、音が響いているとかえって安心して眠れるようになった。

私が夜中に起きて、トイレに行こうとするとその気配を察知して音が止まる。
数秒の沈黙。続いてカサカサと移動する音。
その後は、こちらに視線が送られてくるのを感じる。

「ちょっと待って

もっとみる