1-1. 六月の昼休み。俺の前にベーグルが詰め込まれた弁当箱があった。

 六月の昼休み。俺の前にベーグルが詰め込まれた弁当箱があった。

 もっと正確に言えば、毒々しいレインボーカラーに彩られたベーグルが、弁当箱をみっしりと埋めていた。母親からのメモには、ただひとこと「NYで大流行」と書かれている。普通ならネタキャラ扱いされてもおかしくない状況だが、幸か不幸か、俺はひとりだった。

 私立囲町学園一年C組。これが今、俺が所属しているコミュニティだ。各学年に五クラス、一クラスは四〇名ちょうどの男子校。そして俺にとっては高校だけで二校目の学校であり、入学した小学校から数えれば、六校目の学校となる。つまり、四〇人いるクラスメイトに、知り合いはひとりもいないということだ。

 そのうえ、五月の転入早々に季節はずれのインフルエンザで一週間ちょっと休んでしまい、ようやく通学再開となったところに学生の重要イベント、中間試験があったものだから、クラスメイトの関心もすっかり転校生の俺から試験へと移ってしまった。

 もちろん、自分から周囲に話しかければ、少しは関心を引くこともできただろう。でも、親の仕事の関係で、引っ越しと転校をくりかえしてきた俺は、転校先で知り合いを増やすことに意味はないんじゃないかと思っていた。結局は、ゆっくりと疎遠になっていくだけだから。

 いい感じに日陰になっている教室の廊下側の席で極彩色のベーグルを口に押し込む。クラスメイトは昼メシもそこそこにスマホを取り出した。なにかのゲームを始めるらしい。たちまち、何名かの輪ができあがり、歓声があがる。その様子は、まるでテレビCMみたいでうさんくさい。

 とはいえ囲町学園のいいところは、スマホの持ち込みが自由というところだ。舌に色がつきそうなベーグルを食べ終えた俺も、さっそくスマホを取りだしてツイッターを始める。世界と俺をつなぐゆるい窓。いつ

でも離れられる、気楽なつながり。

「なんだ、難波。おまえ、ぼっちなのか?」

 いきなり背中に振り下ろされた率直すぎる声に、俺は振り返る。

 細身の黒パンツに、ぴしっとした白衣。すぐに物理教師兼、担任の椎名怜先生だとわかった。ベリーショートの黒髪の下、挑発するような目が俺を見下ろす。思わずふるふると首を振った。

 先生は唇の端で冷ややかに笑って教卓に向かう。たしか年齢は三四歳。容姿だけ見れば学園の人気女教師として生徒の話題になっても良さそうなのだが、そんな空気がどこにもないのは性格のせいだ。

「さて、諸君。もう授業の開始時刻だと思うのだが?」

「少し待ってよ、シイナ先生。今、ミッションが始まったところなんだ」

 さっき輪の中心にいた生徒が答えた。もちろん名前は知らない。

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