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10-6.「――ゲームオーバーだ」
「――ゲームオーバーだ」
ユウジはスタンガンをゆっくりと持ち上げ、自分のこめかみに押し当てた。
できの悪い映画みたいなスローモーションでユウジが崩れ落ちると、部室は急に静かになった。俺はなにも映さなくなったモニタの光に照らされながら、ぼんやりと立ちつくしていた。なにかをしようという気力もわいてこなかった。
でも、そんな静寂も、校舎のスピーカーを通じて流れるパペットマスターの声で破られる
10-5.細長い影がゆらめいた。
ユウジの細長い影がゆらめいた。
「ここから考えられる可能性は、ただひとつ。おまえと兄貴はふたりでひとりを演じていたんだ。少なくとも、このアルミの世界では」
俺は息を整えながら、ユウジの言葉を待った。目の端に見えたパソコンのモニタ上では、視聴者がチーム・ジェミニィの不正を糾弾するメッセージが次々と流れていく。
できれば、ユウジにはここで負けを認めてほしかった。これ以上の追求は虚しいだけだ
10-4. あの記号は、今日のゲームで俺たちが通った軌跡じゃないのか?
あの記号は、今日のゲームで俺たちが通った軌跡じゃないのか?
俺はペンを回しながら、考えられる文字の組み合わせをメモに書き出していく。
・hhmt(スタート地点のローマ字表記から頭一文字)
・nnst(スタート地点の英字表記から頭一文字)
・hhmt(行かなかった方角のローマ字表記から頭一文字)
・nest(行かなかった方角の英字表記から頭一文字)
手が止まった。
よう
10-3.背中を強引に壁から引きはがした俺の目に、踊り場の床で鈍く光を反射する物体が映る。
背中を強引に壁から引きはがした俺の目に、踊り場の床で鈍く光を反射する物体が映る。スマホのライトに照らし出されたそれは、よく見ると一枚の紙を挟んだ透明なプラスチックの板だった。
俺は板に近づいて、つま先で蹴ってみた。接着剤で床に固定されているのか、一ミリも動かない。間に挟まれた紙には、直線だけで描かれたUのような記号が黒インクで描かれていた。
休み前にこんな板を見た記憶はない。つまり、この
10-2. メッセンジャーを閉じて、またペンを回し始める。
メッセンジャーを閉じて、またペンを回し始める。トシは、俺が問題を解く時間と、トシ自身がこの情報をまとめる時間の両方を確保するやり方を選んだんだ。
『選択まで殺してはいけないのだよ』
ヒロムが脱落したとき、トシはそう言った。大丈夫。心配すんなって。俺たちならできるさ。
ペンを回す速度が上がる。目に見えているものが、すべて真実とは限らない。
前提を疑え。疑って、すべての前提を引っくりか
10-1.『では、ゲームの続きを始めよう』
『では、ゲームの続きを始めよう』
ユウイチは無表情な声で言う。スマホのバックライトが暗闇に覆われ始めた踊り場を照らす。
踊り場に残された蒸し暑さが俺の肌にまとわりついて、べたつく汗に変わった。ユウイチはモニタの向こう側から、じっと俺の顔を見つめる。
『わかっているとは思うが、ここからは一対一の勝負だ。そのうえ、きみにはもう後がない』
実験動物を見る冷めた目。俺は返事の代わりにスマホに
9-10.そう。失うことになった一因には、制限時間に圧された焦りもあった。
そう。ヒロムを失うことになった一因には、制限時間に圧された焦りもあった。俺たちに残された時間は、あと八分三五秒。この間に二問を解かなくちゃいけない。
「ただ、自分は苦手なのだよ」右肩にトシの手の重みを感じた。「だから、残された時間を最大限使う方法を取ろうと思うのだ」
俺は振り向いてトシを見た。トシは左手を俺の肩にかけたまま、右手を軽く挙げている。まさか、こんな短時間で答えがわかったっていう
9-9.『……結果は出たわけだが、なにか言いたいことはあるかい?』
『……結果は出たわけだが、なにか言いたいことはあるかい?』
ユウイチがヒロムにたずねた。画面を見なくてもわかるほどに淡々と。
「別に。なんもねえよ」
『では、きみには早々にゲームから退場してもらいたい。いいよね?』
「拒否権はないんだろ? なら、いちいち聞くんじゃねえよ」
『心外だな。これでも礼儀のつもりなんだがね』
「そういうのは礼儀とは言わねえ。トシの皮肉の方がかわいく聞こえるぜ
9-8.『タイムアップまで、あと一分』
『タイムアップまで、あと一分』
ユウイチの声がスマホから流れて消えた。
「アプリで縛る。機種で縛る。教科で縛る。時間で縛る……」
トシは、ユウイチの声に動じることもなく、淡々と縛るべきルールを挙げ続ける。
だが、やはりルールで公正を保つ意見は末端の葉だ。相手の意見を土台から引っくりかえす森にはならない。核心を突くには、絶対的ななにかが足りない。
俺も懸命に頭を働かせてはみたけれど
9-7.俺は、ばらばらに浮かぶ泡みたいな疑問を混ぜ合わせるように、ペンを回し続ける。
俺は、ばらばらに浮かぶ泡みたいな疑問を混ぜ合わせるように、ペンを回し続ける。
ユウシの言葉をふと思い出した。問題を解くコツは意識して視点を切り替えること。意識しなければ、自分が森を見ているのか、木を見ているのか、葉を見ているのか、わからなくなる。
今、俺が見ているものが森だとしたら、もう一段階、細かく。
今、俺が見ているものが葉だとしたら、もう一段階、粗く。
「……試験の目的は、問
9-6.指先でスマホの画面を何度もタップする。
トシが指先でスマホの画面を何度もタップする。カメラを通してユウイチにプレッシャーをかけるかのように。でも、ユウイチは片方の眉を軽く上げただけだった。
『Haste makes waste』
ユウイチはため息をついた。ほとんど間を空けずにスマホが震える。
問四
試験にスマホを持ち込むことを禁止した次の意見を論破しろ。
・スマホを操作する音やアラーム音が、他人の妨げになる
・試
9-5.完全に詰まってしまった。
完全に詰まってしまった。
俺は、あらためてスマホに目を落として問題を読み直す。
問三
“アルミのパペットマスターだけが、すべての答えを知っている”
この文と同じ意味の文はどれか?
1 アルミのパペットマスターは、全員がすべての答えを知っている
2 すべての答えを知らないのならば、その人物はアルミのパペットマスターではない
3 アルミ以外のパペットマスターは、誰ひとり、