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中が見たい

 中身が気になるから、何か貰い物があると包みをすぐ取ってしまう、と向田邦子さんのエッセイにあったと思う。今は中身が始めから分かっている福袋も多いし、祝い事などでの返礼品もカタログのことがあって、中身が全く分からない物を貰うことが、ほぼない。人がいる前では開けられないけれど、中身が気になると、早く開けてみたいと思う。これは多くの人に共通する心理と思う。
 母に若い頃の話を聞いた。母が育った場所では、結婚して女の人が来ると、持ってきた物を見せることがあったという。タンスを持ってきて引き出しを開け、服をどのくらい持っているか、どんな着物を持っているか、近所の人が見にきたのだそう。母が結婚したとき、着物を何着も作って持ってきたのだそうだ。持ってきただけで普段の生活で着ることはなかったから、着物の入ったタンスを「嫁入り道具」として持ってきただけに過ぎない。
 タンス公開の話を聞いたとき、ゾッとした。今の時代に同じことを要求したら、大問題になりそうだ。近所の人に見せるというのは、お嫁さんになる人がどういう家で育ったかを把握させるということなのだろうか。新しくここで住むことになった人は、どれくらいモノを持っているか。持ち物をすべて見るということで、その人の内側も見えるかのように考えていたのだろうか。この風習のあった時代、娘が結婚するときは準備が大変だったのでは、と考えてしまった。
 どういう人が知りたい。表面上の挨拶だけでは分からない。でも中身が知りたい。変な話、タンスの中を見るというのは、綺麗に包装された贈り物の中身を見たい、というのに感じた。

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