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佐原ひかり「人間みたいに生きている」感想~自分を許す~

・みんなが当たり前にできていることができない

周りの人が当たり前にできていることができない自分が情けない。
口には顔にも出さずとも、悩みの大小は違えども、一つや二つぐらいありますよね。

多くの人が娯楽を楽しむ映画館。
わたしの場合、ある日映画館で気持ちが悪くなり、長らく映画館が苦手だったが、行けるようになった今でも、いつでも席を立てるように通路側じゃないと無理。

たしなみはもちろん、いつもとは違う少し綺麗になれる瞬間を楽しむ美容院を映画で気分が悪くなった翌日に予約しており、無理をして行ったのが悪かったのか、ヤバい...。

このまま下を向いて雑誌を読んでいると気持ち悪くなると、自分の中にある危険信号を察知し、いつもは美容師さんと愛想よくおしゃべりしないのに気を紛らわそうとがんばった。

がんばったおしゃべりが、ずっーと続けるのはやっぱり苦痛。
美容院に行く前には、深呼吸し気合を入れている。

他にも、大人げなく他愛もない...自分が情けなる話はたくさんある。
みなさんもあるでしょ。

本書主人公の場合、周りの人ができているのにできなくて情けないことは食べること。
食べることが良いことだと思えない主人公のお話です。


・簡単あらすじ

食べることそのものに嫌悪を覚えている女子高生・三橋唯。「食べること」と「人のつながり」はあまりに分かちがたく、孤独に自分を否定するしかなかった唯が初めて居場所を見つけたのは、食べ物の匂いがしない「吸血鬼の館」だった──。

・食べ物小説をディスる意図は?

「おいしいごはんが食べられますように」に次ぐ、食欲減退させるエグイ食べる描写。

口は穴だ。顔に空いた穴。備え付けの歯と舌を駐使し、自分に自分以外の何かを取り入れるための穴。今日も無数の死骸をここに入れ、ねぶり、砕き、噛みちぎり、飲み込んだ。(本文より)

親に、友達に、バレたくないから食べたくないのに無理して口に入れる。
そんな主人公のJK唯。

・「最近、食べ物系の小説が多すぎると思いませんか」
・「食べ物が絡むと十中八九幸せな話になってしまうのもちょとこわいというか」
・「どうしてご飯を食べるだけでみんなの悩みがいい感じに解決していくのか、読んでてもさっぱりわからないんですよね」(本文より)

なかなかの自己中発言に( °᷄д°᷅)イライラ

唯の自分しかみえていない描写にイラつくわたしは著者の手のひらで遊ばせてもらっているんだろう。

そんな唯が、「吸血鬼の館」に住む病気で本当に血しか吸えない男と出会い自分を許すことに気づくまでが描かれる。

・自分を許す

小学生の時、学校でう〇ちしてしまった自分が許せなかった。
知られたくないが一番の理由だが、学校でう〇ちするのは恥ずかしい。

知らぬ間に、学校でう〇ちするは一種の同調圧力が発動してるよね。
同調圧力は生理現象にまである怖さ。

出すことだけではなく食べることも、また同調圧力が発動する。
圧倒的に食べることはおいしいから。
ウソー!こんなにおいしいものがなんで食べられないの、となる。

今では、外でう〇ちすることを大いに許せるわたし。
つまらぬことだと許せるようになったからだろう(;^ω^)

そして唯は...。
食べられない自分をどう許せたのかが読みどころ。

・「おいしいごはんが食べられますように」と類似点

「人と祝うのも、飲み食いしないとじゃないとできないなんて、だいぶやばいよな」(おいしいごはんが食べられますように二谷セリフ)


そして本書にも、

「不便だからどうにかしたい。飲み会も接待も結婚式もコース料理まみれだ。誰かと食えないってのは社会生活に支障をきたしすぎる」

わかるを10回唱えたい。
冠婚葬祭に食事はつきものだ。
昔ほどではないが、食事を用意するのは女性。
用意し片付ける。
あーしんどい。

食べることがしんどい苦しみはわたしには想像することしかできないが、あーしんどい!は、人それぞれにある。

人と同じようにできない。

わたしにも、あなたにもあるはず。
本書は、そんなわたしやあなたを解放してくれる一冊になるはず。

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