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マスクの下でニヤけながら桜台の商店街を歩く

コロナで緊急事態宣言が出て、外出できなくなった2020年春。
それから数年、自粛などもあって遠出をすることがほとんどできなかったあの時期のほとんどを、僕は練馬で過ごした。

もっぱら近所をぶらぶらするようになった僕は、少し距離があったけれど桜台駅の方まで散歩しに行くことがあった。
こじんまりとしていたけれど、落ち着いた雰囲気で、そして魅力的な飲食店も集まっていて、とても好きな街だった。

駅から歩いてすぐのところに美味しいラーメン二郎があり、人生で食べた油そば史上ベストを記録した破顔というお店があり(閉店してしまったらしい)、まるよし商店という行列ができる美味しいラーメン屋さんもあった。
麺の話ばかりになってしまったが、唐揚げの美味しいお肉屋さんや、少し高級感がありつつも親しみやすい雰囲気のイタリアンなど、お気に入りのお店は麺以外にもいくつかあった。
桜台グルメの数々は、自由に遊びに行けない憂さ晴らしになっていた。

たしか年に一回?、商店街の飲食店が路上に屋台を出すお祭りがあって、一度だけ参加した(コロナのピーク時はさすがに中止だった)。
ビールを飲みながら、いろんなお店でおつまみを買い漁って、1人でほろ酔いになったのは良い思い出だ。
そんか賑わう商店街の中で、元気よく綿飴を売っていたのが、僕が3ヶ月に1回は通っていた歯科医院だった。
見かけた時は、思わず二度見した。

その歯科医院は、とにかく気持ちの良い病院だった。
診察の時には看護師さんもお医者さんもすごく丁寧にホスピタリティを持って接してくれて、「上手に磨けてますね」と毎回歯磨きを褒めてくれるので気分が上がった。
少し磨き残しがあった時も、「十分頑張ってると思います。もうちょっとだけ頑張ってみましょう」的な声の掛け方をしてくれたので、素直に従った。
とにかく、自己肯定感を高めてくれる歯医者だった。

一度、歯科検診とは別で、口臭の状況や虫歯のできやすさなどを把握することができる検査をしてもらったことがあった。
検診とは別途料金だと言われたが好奇心から迷わずやってみると、なんと僕の歯は虫歯の原因となる菌がほとんどないらしく、「虫歯にはなりづらい。っていうか、ほぼならないと思って良い」という結果を伝えられた。
思えば小さい頃から、虫歯になった記憶は数えるほどで、銀歯やインプラントも一つもない。
僕の歯は、虫歯に対して最強なのだ。

検査の結果を告げられた日は、非常に満たされた気分で歯医者を後にした。
虫歯に悩まされる人が多いこの世の中で、僕にはその心配がない。
なんて恵まれているんだろう。
僕はマスクの下でニヤけながら、桜台の商店街を歩いて帰った。

場面をお祭りに戻すと、めちゃくちゃ楽しそうに綿飴を売るお医者さんを見たとき、思わず「歯医者なのに、めちゃくちゃ虫歯の原因になりそうなものを売ってるなあ」と思った。
なんだか歯医者から買うのは気が引けるなあとか勝手に思い始めていた僕は、そんな虫歯の心配は自身には関係ないことを思い出した。
綿飴買えるじゃん。ちょっと食べたい。

しかし、いつも通っている歯医者で綿飴を買うのはなんか小っ恥ずかしい。
近づいていくと、注意されたらどうしようなどという気持ちも浮かんできてしまって、結局素知らぬ顔で通り過ぎてしまった。

Hello Mr.Regret / 竹内電気


<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗などを経て、会社員を続ける。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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