余白が力になる

17時59分。スマホを取り出して時計のアプリを立ち上げる。
秒針を横目に、パソコンに終業時刻を打ち込む。
あと15秒…3、2、1。定時時刻と同時にエンターを思いっきり押して、パソコンを閉じる。席を立つ。これが私の最近のルーティンだ。

これまでの働き方は、隙間時間なく、効率を求め、残業も率先してするタイプだった。昼ごはんを食べる時間もどんどん返上し、とにかく動き、お客様第一でバタバタとしていた。
でも、そんな仕事の考え方をがらりと変えた。

それは、今の仕事の繁忙期に終わりが見え、少し時間ができたことがきっかけだった。
繁忙期はお客さんの対応を次から次へとこなしていたが、その列が途絶えてきた。
「あ、そういえば、このメールのテンプレ使いづらいと感じていたんだよな」などと思い立ち、今すぐやらなくてもいいんだけど、やった方が絶対にいい業務に取り組んだ。

そうすると、これまで絡みやすかった仕事の糸が絡まずに、スムーズに進むことが増えた。お客さんからの質問が良い意味で減った。同僚たちの作業も少し減った。
繁忙期を終えていろいろな「やった方がいい業務」に取り組んでみると、これまでの、煩雑で、ぎこちなくて、パワーがいる作業がどんどんとスッキリしていった。


時間の余裕が出ると、こんなにも仕事の創造性が上がるのだなと、密かに驚いていた。
巷では、しっかり休憩をとった方がいいとか、昼寝をした方がいいとか、そんなことが言われていて正直なところ鼻で笑ってバカにしていた。
「お前らが寝ている間に俺は何個ものタスクを処理できる」と。

この考え方が抜けきってはいないが、そもそも自分は”タスクを大量にこなすことができる”ようになりたいのか?と考え直すようになった。
答えはもちろんNoで、私の場合は自分の創造性や柔軟性をうまく使いながら仕事をしていきたい。



思い返してみると、マスコミにいた頃は誰よりも働く人が偉く、取りこぼさなければ評価されるようなところがあった。
だから労働時間は長く、タスクは大量で、全部自分の目で物事を見ないと気がすまなかった。

でも、マスコミ業界から転職し、社会人として7年とか8年働いて、ようやく「自分は全部を見ることはできない」ということを察した。
ではどうやって自分らしく、人のために働くかと考えると、私の興味や視点を活かしていくしかないと思った。

自分の興味、主軸に置いているテーマは「共生」だ。
このテーマは社会人になってから徐々に形作られ、3年目くらいからは固まっていた。
この広いテーマをめぐり、人権やセクシュアリティー、事件や政治を見てきた。そして今はマスコミの仕事をしていないけど、どんな仕事をしていてもこの「共生」というテーマは関わってきて、自分はアプローチができる。

取引先と話していて、自分たちのサービスがどういう風にお客さんにいい影響が及ぼせるかととことん考えることができる。
お客さんと話していて、例えその人がクレーマーだったとしても、どうやって納得してもらえるかと思考を巡らせることができる。(最終的にどうしようもないクレーマーは流すけど)
自分の会社の周りにある建物やそこで働く人とたまたますれ違ったときに、挨拶をするのかしないのかだけでも、共生の形が見えるときがあるのだ。



こういう風に仕事の中で、自分のテーマを元に興味や知識、独自の視点を活かすためには余裕がないとダメなのだ。
繁忙期はどうしても目の前のことばかりみて、考えることより「片付ける」という感覚しか持てなかった。お客さんのためになったというよりは、お客さんが都合よく持っていってくれたという感覚に近い。これでは伝えたいことも伝わらないし、どんどん自分たちのサービスも曲がっていってしまうだろうと感じた。

余裕を持つためには、とにかく無理やり時間を作るしかない。
だから定時に絶対に上がることを徹底するようになった。
そうすると不思議なもので、帰路についたときに「明日こうやってみよう」とふと思い、メモを取って、そのまま心が穏やかになって生活に戻っていくことができる。そして仕事があんなに嫌だった朝も、なんとなく目的意識が芽生え、楽しめるかもと思えることができる。

この余裕を持つために、全力で工夫をしてみようと思う。
自分が成し遂げたいということもそうだし、きっと多くの人の個性が出てこないと社会はよくならない。得意なものを得意な人がやって、お互いが助け合う社会を見たい。その一歩目を、まずは自分で実践してみるのだ。

生活に余白を作ろう。そのために思い切ってパソコンを閉じて職場から立ち去るのが大事かも。
でもこれを言えるのは、子育てもしていないし、経済的にもどうにか自立できているからなのかな。
まだまだ考えはめぐる。


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