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1997-98年のキレた黒澤清を観る(蛇の道、蜘蛛の、復讐 - 運命の訪問者、復讐 - 消えない傷跡)

仕事に疲弊し生活にくたびれた無表情のなか、偶然、1997年ごろの"キレた黒沢清"に出会った。

黒沢清。キャリアも重く、カンヌでの評価を踏まえれば日本を代表する映画監督の1人といって差し支えないだろう。でも、映画の門外漢として言えばこの人の映画は明らかに「変」である。「奇妙」といった方がいいかも知れない。そこには「そうはならんやろ」が渦巻いており、人物の行動はこちらの理解をポーンと超えていく。

だけどその飛躍にはそこには確かな「重力」が作品に宿っている。……と感じられるものもある。ともかく、1997 - 1998年のこの人の作品はたしかに凄い。すごい重力がある。そんな"清"迷宮に迷い込んだ人の記録。

自分はシネフィルとか映画通では全くないけども、この記事はそんな奇妙な重力の体感をしたためようとした紹介と感想だ。ちなみに同氏で鑑賞済みなのは今回4作の他『CURE』『カリスマ』『叫』『クリーピー』『スパイの妻』の若輩者です。あたたかく見守ってください。語り合いましょう。




イントロダクション

1997年から1998年にかけての黒澤清。

この頃のこの人の映画を観るということは、暴力はもとより、理不尽、不条理、そして緊張、不穏、居心地が悪い、虚無、すべてを開放する銃声。そういう体感を得ることである。

倫理やモラルといったものが一切ない空間に2時間弱たたずむ経験であり、異常な登場人物たちの奇妙な行動力学が自分の理解を超えていく怪奇体験でもある。

「こんなロケーションあるかよ」「このショットなんだよ」「そこカットするのか」という映画の驚きを味わうことでもあり、あと、低予算の創意工夫や明らかな雑さに唸ったりフフッとなることでもある。

映っているのは「幸せ」とか「感動」とはかけ離れた荒野だ。

でも人生には「いま別に楽しくなりたくない」気分だとか、「何もしたくないが何かを眺めていたい、見たいのは幸せそうなものではない」無の表情だったりがある。このころの黒沢清はソコにハマる。

なんだか仰々しい書きだしだが、もしここまで読んでみて「観たことないけど面白そう」と思った人はこの記事を閉じて『CURE』を観ることをオススメする。でも自分はWOWOWで偶然観た『蛇の道』からこの人に入ったので、精神状態がマッチすればここからでも入れるはずだ。

こういう画を観たい人とか

今回取り上げるのは哀川翔を主役にしたVシネマ『復讐シリーズ』4作である。いちおう作品説明上は時系列があるのだけど、実際は何となく設定が共通している位のもので、気になったものから見て全く支障はない(むしろ続編と思うと混乱する)。要は物語のもっともポピュラーな動機のひとつである「復讐」をエンジンに話が進む、拳銃や暴力が染みこんだ4作品である。

4作はそれぞれ「あらすじ」、個人的な「紹介(ネタバレなし)」、そこから「感想(ネタバレあり)」の3セクションで取り上げていく。この人の映画にネタバレも何もないが、「紹介(ネタバレなし)」では「観る前によんでも鑑賞にそこまで影響しないだろう、読んでて何となく観る気になる・期待が高まるかもしれない」そんなことを書く。

なので、何となく気になった人は「紹介」まで読んで興味を持ってもらえたら、すでに作品が好きな人・観た後の人には「感想」を読んでもらえたらと思ってます。


各作品記事リンク

いちおうのオススメ順を意識して4作を並べてみた。まずはちゃんとした脚本家「高橋洋」による2作を、続けてカオス「黒沢清」脚本の2作を取り上げていく。

■『蛇の道』(1998)

人間関係の下水道。観客に異常空間を見つめさせ続ける80分。全編にごりきった空気しか流れていない映画。クラクラしてくるが、あまりにあんまりで笑えても来る。神がかった存在感を発揮している哀川翔にも注目。このひと凄いよ。


■『復讐 - 運命の訪問者』(1997)

THE 復讐劇、ただし清×洋印。終盤に向かうにつれて表情がハードボイルド極まっていく哀川翔はまさにVシネマの帝王である。緩慢な身体運動と即死が交差する異常な銃撃戦は必見。


■『復讐 -  消えない傷痕』(1997)

いちおう『復讐 - 運命の訪問者』の続編だが、続編とは思わず「また哀川翔さんが何かに復讐しようとしてるよ・・・」くらいの気持ちで観よう。ここから脚本は黒澤清のカオスへバトンタッチされる。なんで「復讐」がテーマでこうなるんやと思わずにいられないナンセンスと、質量すらない虚無に包まれた一作。初見にはオススメしないが、"何か”は確かに映されている。希望と活力に満ちてる人には必要ないものだけが描かれている映画。吉岡組長というキャラが、カスですが沁みます。


■『蜘蛛の瞳』(1998)

超怪作。説明不能。呆然と笑うしかないくらいの無機質な虚無が淡々と襲い掛かってくる異常な映画。シーンは理解できるのに全体は理解できない、まさに「怪人」。映画による怪人。とりあえず前3作観たらみてくれ。
ただ間違いなく、ある種の傑作。遅効性の毒物。黒澤清の臨界点。語ろうぜ。


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