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僕は、ブリアンツァの水になりたい。

いつもたくさんの方に読んでいただいており、本当にありがとうございます。noteでは、イタリアンレストランのオーナーシェフである僕が、普段、考えていることをお店のスタッフに語りかけるつもりで書いています。

人材は宝」ということは、以前のnoteにも書いたことです。来年は、1月にヤンマーさんの新店舗の開業や、麻布台にも新しいお店を出す予定がありますし、仲間がたくさんいてくれることは、とても心強いことです。

ブリアンツァグループでは、調理スタッフ、サービススタッフ、アルバイトスタッフともにつねに募集しています(募集内容)。そこで今回は、ブリアンツァグループに入った新しいスタッフや、それを迎える先輩のスタッフに向けて書いてみたいと思います。

「昔はこうだった」といっても意味がない

ブリアンツァグループでは、新卒や未経験で入ってきたスタッフに、その前年に入ったスタッフがついて仕事を教えていくようにしています。

それは、年齢も近くお互いコミュニケーションが自然にとりやすいということもあるだけでなく、双方にとって成長の機会になると考えているからです。

たとえば、教えてもらったことについて「なんでこうしているんだろう?」、「こういう場合どうしたらいいんだろう?」と新しく入ったスタッフが考えたとします。社長である僕や、店長・料理長といった経験のあるスタッフたちなら、きっとすぐに答えることができます。しかし、それではその答えしか知ることができず、そこにいたる経緯や理由を考えられなくなってしまいます。

しかし、お互いに経験が浅い者同士で入って2年目と1年目のスタッフであれば、教える側が明確に答えが出せない場合もあります。その場合は、あれこれと2人で考えることになるはずです。

この「疑問に思って考える」ということが大事で、もちろん結局は経験があるスタッフに聞くので、聞く方が早いように思えるかもしれませんが、そうだとしても一度深く考えてから教えを受ける方が、覚えて定着し、身につきやすいと思うのです。

さらに「教える」ということ自体も難しく、そのことを深く理解しないと教えることはできません。そのため、教える側の先輩にとっても、もう一度考えるきっかけにもなるので、双方にとって物事を身につけるよい機会になると思うのです。

もちろん「わからなかったら上の立場のスタッフに聞くように」としていますので、上の立場のスタッフの役目も大切です。

僕自身は、会社の成長は、一番下で働いてくれているスタッフたちの成長に直結していると言っていますが、そもそも上の立場の人が成長しなければ、会社全体で下のスタッフを見ていくことができないため、同じくらい重要だと思っています。

ここで注意しなければいけないのは、「俺はこうだった」とか「昔はこうだった」というようなことを言ってしまうことです。

昔は、あくまでも昔。僕自身は、今の連続である未来を大切にしています。だから、あまり過去を見てほしくない。それに今の日本は、経済的自由主義がさらに進み、終身雇用も崩壊し、国の基幹産業も変わってきています。スマートフォンやコロナ禍が世界を変えたように、わずか数年で社会が大きく変わっていきます。そういう速い時代の流れのなかで、「昔はこうだった」と言ってもしょうがないと思うんです。

なので、経験のあるスタッフであればあるほど、そういった「余計なこと」は言わないでほしいと思っています。もちろん、聞かれたことはしっかり答えてえ欲しいのですが、そのことを「」のこととして伝えてほしいのです。

人の属人性は、コミュニケーション能力

僕自身は、長く一緒に働いてくれているから偉いとか、若いから発想が柔軟だとは思っていません。今の時代にあったことを発言できる人、声にできる人が正しいと思っています。

先日は、「いいサービスってなんですか?」ということを若いスタッフに聞かれました。

答えがない、もはや禅問答のような問いでもありますが、僕は迷わずに「今日来たお客様を、すぐに帰ってこさせることができるサービス」と即答しました。つまり良いサービスとは、リピーターのお客様を生むサービスということです。

それには、知識や技術ももちろん大事ですが、お客様がもう一度サービスを受けたいと戻ってくる、そのスタッフのお客様になるということは、そのお客様にとっていいサービスができていたということだと思います。

別の日には、「僕って、キッチンに入って料理できますかね? そのためにできることは何でもしたいのです」と別のスタッフに聞かれました。自分が怖いと思うことをはっきり口にして、学びたいということも、社長である僕に臆さず直接言ってくれた。時点で、この人は成長するだろうなと思いました。だって、そんな風に聞かれたら教えたくなりますよね。

僕自身は、人の属人性は、コミュニケーション能力だと考えています。その点ではブリアンツァで一緒に働いているスタッフは、手前味噌ではありますがコミュニケーション能力が高くて気持ちのいい人が多いと思います。人に気を使える人が多くて、バランス感覚がいい人ばかりです。

もちろんそのなかでも、比較的におっとりしているとか、気が短いといった個性はあります。

店舗数が増えてきて大変ではありますが、その分よかったと思えるのは、スタッフの個性の組み合わせがいろいろとできることです。この人とこの人が合うから、この人をサポートしてもらおうとか、この人は今の店のスピード感で仕事をするにはまだ早いから、こっちの店にしようというようなパズルができます。

そのため1店舗の時よりも、人それぞれの実力や個性、もっているポイテンシャルが伸ばしやすくなっていると思っています。

水はどこにでも入っていける自由な流動体

リクルーティングは、飲食業界だけでなく、ほぼすべての会社の永遠の課題で、避けては通れません。

僕も、お店を始めたばかりの若い頃は、スタッフも若いので友だちのような雰囲気でやっていけましたが、お店が年を重ねるにつれて、僕とスタッフの年齢も離れていきます。見た目が変るのはもちろん(笑)、「有名なシェフなんだ」とか「社長なんだ」という目でも見られていきます。

日本はまだまだ年功序列の価値観が根強くて、上の人が絶対だという意識もまだまだあります。とくに飲食業界は、それが昔から顕著で、最近はなくなってきてはいますが、「ボスが帰るまで、帰れません」、「ボスが休憩するまで休憩できません」という絶対的な存在であることは、僕は「古き悪き昭和の在り方」だと思っています。

もちろん、年上は敬わなければいけないという気持ちは大切ですが、それがオブリゲーション(制約)になってしまえば、自分よりも歳が下の人たちがノビノビと仕事しにくくなります。

気を付けているのは、僕自身がみんなをコントロールするとか、みんなに上手に動いてもらうようにするというよりは、どちらかというと問題があったら、その間にすっと入れるようにしたいということです。

たとえば、コンクリートを固めるときには砂と砂利があっても、水がないと固まりません。それは、水がどこにでも入っていける自由な流動体であるから。僕は、そんな水のような存在になれればいいなと思っています。そうしたら、固くて丈夫なコンクリートの建物もできますから。

怒るのでもなく、決めるのでもなく、会社のなかにふわっとしている存在がいい。もちろん、みんなが合意形成を結ぶために、いろいろな会議をしてくれたものを、最後に僕が一本化させて会社の決定事項にしていきますので、最終決定者は僕ですが、みんなが決めてくれたことを僕が水になって固めていく、そんな役割でありたいと思っています。

それに若い人を「育てる」というのも、おこがましいのではないかとも思っています。20年以上生きてきて、親御さんや学校の先生方の手で大切に育ってられてきているわけですから、人間形成はしっかりできているはずです。それなら職場としては、その人の良いポテンシャルを発揮できる場所を提供するということを考えればいい思うのです。

一生懸命に楽しく仕事をしてくれて、それが会社に利益を与えて、みんなに還元される。それが会社です。そのことは、僕がいつもスタッフに話していることなので、よく意識してくれていると思っています。

とにかく、ブリアンツァという場所が、みんなにとってやりやすい場所であるといいと思いますし、新しく入ってきてくれる仲間たちにとっても、その場所であり続けたいとも思っています。

ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
奥野義幸


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