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あなたはどう感じるか

7月14日、スタジオジブリ・宮﨑駿監督最新作『君たちはどう生きるか』の上映がはじまった。その週末、私は映画館のシートに身を沈め、写メにおさめた本作品のポスターにいる、サギを見つめていた。
レイトショーにも関わらず、シアターは老若男女でほぼ満席だった。

約2時間後。エンドロールが終わり照明が点いたシアター内には、何とも言い難い、不思議な空気が漂っていた。
上映がはじまった直後は、その作品の監督や演者のファンの割合が多いこともあり、何となく感じ方が似通っているというか、鑑賞後の充足の一体感のようなものがある。ましてや、ジブリ作品ファンの割合が多いシアターとなれば、共感の観点が似ていることも多い。
がしかし、今回はその一体感がなかった。各々が感じていることがばらばらのような、「一旦持ち帰らせてくれ」といったような、そんな雰囲気があった。

宮﨑駿監督作品のファンである私、本作の感想を遠慮せずに言うと、ハマらなかった。理由としては、ストーリーの展開、作画の微妙なタッチ、台詞の表現が、これまでの作品群とは大きく異なっていて、それが好みとは違ったからである。

例えば、『風の谷のナウシカ』『天空の城のラピュタ』『もののけ姫』は、起承転結のはっきりとしたエンターテインメントだ。健気な主人公と敵が真っ向からぶつかり合い、敵と見せかけた一派には人情があり、窮地を助けてくれて大団円を迎える。主人公の顔つきが、ストーリーに合わせて凛々しくなっていく作画のタッチも大好きだ。

以前、「アニメージュとジブリ展」で宮﨑監督の原画を拝見し、その慧眼と確かな作画力に感激したと共に、写真などでは現せない人間味のあるあたたかな線が、作品を生き生きとさせているのだなと感じ入った。

『君たちはどう生きるか』は、ストーリーが混沌としている。それが面白さでもあると思う。
若く作画力の高いアニメーターを沢山起用しており、リアルで忠実なタッチは見事である。キャラクターの表情や構図の抜き方などが、ここ最近の日本のアニメのタッチとして色濃く出ていて、それがこれまでの宮﨑監督作品とは違った印象にしている。

『紅の豚』『カリオストロの城』といった作品は、何より台詞回しが秀逸だ。さりげないユーモアが効いた日常会話、直接的に言わなくとも、暗に伝わってくる本質を突いたメッセージは、観るたびに痺れるものがある。

本作は、これまでの作品と比べてかなり直接的な台詞が多い。だからこそ、エンターテインメント性よりもメッセージ性が強いものになっている印象だ。

さて、本作を観た人は、それぞれどう感じたのかが気になる。

私の弟は、鑑賞直後は釈然としないと言っていたが、とある解説動画を観たことで話を咀嚼でき、遅れて感動がやってきたという。

一方、ある人の感想は「あまりに良くて感動が止まらなかった」だった。
「ストーリーそのものというよりは、宮﨑監督が作品に込めたメッセージ性や想いがびしびしと伝わって来て、『ついに爆発させたな』と感激した」そうだ。

前述した「アニメージュとジブリ展」で展示されていた資料では、数々の作品のプロデューサーを務めた鈴木敏夫氏が、興行的に意図のある宣伝活動や作品のディレクションにどれだけの手腕を上げてきたかを見ることができた。

本作は、事前プロモーションは一切なし、コピーのないビジュアルのみ。「これまでとは違う新しいことをやってみたかった」という鈴木氏。締め切りのある中で仕上げて来た従来の作品に対し、制作にかけた時間は7年間!
宮﨑監督にとっても、鈴木氏にとっても、新たなチャレンジだったということである。

改めて、ポスターのサギを見つめる。「君たちはどう生きるか」という大きな命題を掲げられても、正直、私は答えられない。

でも、私はどう感じたかは明確にある。そして「あなたはどう感じた?」と、尋ね合いたい。それこそが、本作の醍醐味であるとするならば、これまでのジブリらしさの詰まった映画としてのエンタメを期待していたとはいえ、かなり余韻が続く作品だ。
ハマらなかったと言っている私は、しっかりと作り手の策略にハマっているのかもしれない。

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