見出し画像

大人になってもファンタジーが読みたい

今年、約20年ぶりにユニバーサル・スタジオ・ジャパンへ訪れた。中学校の修学旅行ぶりである。
当時あったE.T.のアトラクションは無くなり、軒並みVRを駆使したアトラクションになっていて、時の経過を感じた。

再訪の目的は、ハリーポッターの世界を再現したエリア「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」だ。
エリア入口から魔法界に足を踏み入れたような造りで、アトラクション・ショップ共に、ハリポタファンならニヤけてしまう楽しさがたっぷりのエリアだった。

ハリー・ポッターシリーズ一作目『ハリー・ポッターと賢者の石』が大バズりしていたのは、まだ、今のようにSNS全盛期ではなかった頃のこと。クラス中がこの本の話で持ちきりだったし、どの書店行っても店頭に本が山積みにされていたのが懐かしい。例に漏れず寝る間も惜しんで読み耽った私は、ハリー・ポッターシリーズに飽き足らず、あらゆる魔法ファンタジーを読み漁っていた。

しばらくファンタジーを読まなくなっていたのだが、USJに訪れて当時を思い出して懐かしい気分の今、改めて読み返したい魔法ファンタジーをいくつか挙げてみようと思う。

・・・
『サークル・オブ・マジック 魔法の学校』

(2002年12月10日 小学館出版 /  デブラドイル、 ジェイムズ・D. マクドナルド共著 / 武者圭子 訳)

あらすじ:騎士の修行に励む12歳のランドル少年は、ある日訪ねてきたマードックの魔法に魅せられ魔法使いになろうと決心。故郷から遠く離れた魔法学校「スコラ・ソーサリエ」に入学する。そこで学ぶ「サークル・オブ・マジック」とは?

ハリー・ポッターシリーズで描かれる「魔法」は、杖+呪文で生み出される。初めて学校で魔法を教わる新入生も、超人ダンブルドア先生や名前を言ってはいけないあの人も、同じく杖を振って呪文を唱える。
しかし、なぜ、杖+呪文で魔法が生み出されるのか、その原理や鍛錬は詳しく描かれておらず、ファンタジーらしく、そういう大前提の元に話が進んでいく。

一方、サークル・オブ・マジックでは、本のタイトル通り、魔法を生み出す本人が「円を描く」ところから始まる。杖を一振りの世界観のハリポタに対し、こちらは色々と手順が多い。そして、この世界での魔法の基本「ろうそくに火を灯す」ということが、主人公ランドルはなかなか成し得ない。全神経を集中させ、呪文を唱え、脂汗をかいても、ろうそくは煙さえ上げない。ランドルの葛藤が、読んでいるこちらにもヒリヒリと伝わってくる。

ようやくろうそくに火を灯し、魔法を扱えるようになったのも束の間、とある出来事からランドルは魔法を使うことを禁じられてしまう……。

サークル・オブ・マジックはシリーズ全4巻。特に1巻目は、魔法使いの道を目指しながら、肝心の魔法が使えない時間がとても長い。焦ったい。だからこそ魔法を使えることの尊さを、読んでいるこちらも実感することができる作品だ。


『レイチェルと滅びの呪文』
(2001年7月1日 理論社 出版 / クリフ・マクニッシュ著 / 金原瑞人 訳)

あらすじ:降る雪さえ黒い、暗黒の星イスレア。ここでは邪な魔法がすべてを支配する。魔女がつくりだした邪悪な生きもの、さらわれてきた子どもの奴隷たち、あらゆるものにこめられた呪文…。はたしてレイチェルは、この星を救う伝説の「希望の子」なのか?

杖+呪文、円+呪文、レイチェルのストーリーにはどちらの手段も登場しない。実態のない「魔力」が、主人公や敵の体内から沸き起こってくる感覚そのものが、非常に繊細かつ大胆に描かれているのがこの物語の醍醐味だ。
また、登場人物それぞれが操る魔法の描き分けも素晴らしい。悪い魔法と良い魔法という対立だけではなく、良い魔法にも違いがあり、それがどのような感情や目的から生まれくるものなのかが言葉巧みに描かれている。「魔力」が手にとるように感じられる。

3部作の本シリーズは、1より2、2より3作目と、どんどんスケールも疾走感も上げてきて、一気に読み進めてしまう作品である。

『神々の島マムダ』
(1995年1月31日 福音館書店出版 / 江副 信子 著)

あらすじ:少女コルナをのせた船は、紺碧の海に囲まれ緑したたる島マムダへ。いにしえに神と人が同じ時空で幸せな暮らしをつむいでいた神話的な島マムダ、そして今は他国人による圧政に苦しんでいるマムダ…。

前述した2作の魔法の世界とは変わって、魔法より神話の色が濃い本作。スズキコージ氏の挿絵も相まって、どこか遠い国の熱気と湿度を感じるエキゾチックな世界観がありながら、自然や動物に宿る神様の存在が「八百万の神」を信仰してきた日本らしさも感じる。

呪文を唱えたり、魔法で牽制したりする描写はないにも関わらず、全編通して圧倒的な魔力を感じるような作品だ。

・・・

大人になると、物事に対して理屈を求めてしまう。
USJのハリポタエリア、オリバンダーの店で杖が並ぶ棚を見て「世界観の作り込みがすごい!」と感動する私は、近くで杖を振り、目を輝かせる小さい男の子と同じ感動に浸ることは出来ない。大人になってしまったから。
一抹の切なさはあれど、一度本を開いて活字に浸れば、やっぱりあの頃と同じように主人公達と共に手に汗握る自分がいる。

素晴らしいめくるめく世界を文字にしてくれた方々に拍手を。
大人になっても、ファンタジーを読み続けていたい。


この記事が参加している募集

#読書感想文

187,975件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?