見出し画像

メタバース 徹底して解るまで その16

さて、ここまでの3つの定義をみたしたメタバースはいま我々はメタバース展示会で見ることが出来る。だがこれだけでは来るべきメタバースにはならない。ここから先に行くことが大切なのだ。これから手がついてくるであろうメタバースの特徴を説明するメタバースの定義、4,5,6について説明していこう

4) Interoperable Network

メタバースのイメージが普及してくるにつれて、ユーザー達はあるメタバースから他のメタバースに自分のアイデンティティや属性を維持したまま移動をしたくなる。それは同じアバターで、同じ服や装置のまま移動して、時として別の場所で購入した服や装置を身につけ、またそれらを交換したり販売したりしたくなる。たとえばMincraftで購入した服をRobloxで着たりすることを好むようになる。あるいはFIFAのゲームにメタバースから参戦して、そのゲームの時にしか販売されない特別なシャツをゲットして、それをきて別のあつまりに参加したりしたくなる。

さらにはどこで何をしようと買おうとあるいは販売しようと、そうしたデータはどのメタバースに行っても使えるような状態になっていて欲しい。比喩的にいうとマイナンバーのような仕組みが必要になる。このような世界が登場するには、メタバース間で「インターオペラブル」にならなくてはいけない。あるコンピュータシステムから別のコンピュータシステムにアバターがいどうしても、自分のデータへのアクセスができなくてはいけないのだ。

インターオペラビリティはインターネットにおいては実装されている。TCP/IPと呼ばれるプロトコールを使うことで、データがインターオペラビリティを持つ。それを可能にしているのが、the Internet Engineering Task Force (IETF)と呼ばれる組織であり、Ballの説明によると、1986年にアメリカの連邦政府の下に、非営利のオープンスタンダート促進の組織として設立された。現在では連邦政府から独立した全世界を対象とした組織となっている、とある。

インターネットがインターオペラブルになったのはTCP/IPの力だけではない。PCであれ大きなコンピュータであれ、またインターネット回線のプロバイダーであれば小規模であれ大規模であれ、またデバイスの製造業者もソフトウェア開発業者もみずからTCP/IPを使うことに自発的に同意したからである。

また多くの活動組織がインターネットとWWWがどのような規模になろうとインターオペラブルであることに同意した。Webのヒエラルキーの最上層に当たる.com, .org, .eduにおけるインターオペラビリティの同意、IPアドレスの同意、コンピュータ上のリソースとHTMLに与えられるURL(the Universal Resource Loctor)のインターオペラビリティの同意も行われた。

インターネット上を行き来するファイルに関しても同意が形成された。JPEG, MP3, HTML, webpageをレンダリングする方法、ファイル間の変換(たとえば、JPEGからPNG)の方法の合意もなされた。現在iPhoneで取った写真がFacebookに簡単にアップできるのも、FacebookからGoogle Driveにダウンロードできるのも合意によるインターオペラビリティがインターネットの上で成立しているからである。

インターネットの歴史が教えてくれることはシステム、技術的標準、習慣などが異なるアプリケーション、ネットワーク、デバイス、オペレーティングシステム、言語、ドメイン、国家、などをこえてインターオペラビリティをもって展開出来たことである。だが、メタバースにおいてインターオペラビリティを確立するにはいままでのインターネットの歴史をこえて、もう少しこの問題を深く検討する必要がある。

まず現状のメタバースでレンダリングエンジンのインタオペラビリティがない。メタバースを運営している組織は独自のレンダリングエンジンを使い、そのなかでオブジェクト、テクスチャー、にくわえてプレイヤーのデータを管理している。このデータをほかのメタバースの運営組織と共有しようとするところがない。いまのところメタバースの設計者はインターオペラビリティを考えていない。これでは世界は広がらないのである。ユーザーの経験は他のメタバースに対して閉じられており、経済圏も閉じている。

メタバース間で標準を決めることは簡単ではない。2次元でアバターを作る限り、インターネットのインターオペラビリティに従っていれば良い。だが三次元のアバターをつくるとなると問題は急にむつかしくなる。アバターに着せる服を考えてみても、3次元情報に加えて、何枚重ねているのか、きているのがシャツなのかジャケットなのか、顔は一体なのか、目と鼻とそばかすは別のオブジェクトなのか、人型でない場合、クラゲのようなボディなのか箱のようなボディなのか。入れ墨はどう扱うか、ネクタイは?ネックレスは?つまりアバターの三次元データを共有するだけでは不十分なのだ。

さらにユーザーがあるメタバースでジャケットを購入したとして、それを所有したというデータはどこに保存されているのだろうか。ジャケット販売における金銭のやり取りの記録はどうするのか?

以上は購入品に関するデータだが、もうすこしシリアスに身分証明書がインターオペラブルになるにはどうすればいいのか。支払いはどうなるのか?など問題は山積である。標準は技術や科学ではなく政治である。発見によって決着をするものではなくて、コンセンサスを作らなくてはいけない。二次元のインターネット世界でこれだけ大変だったのだがら3次元のメタバースにおいてインターオペラビリティの確立は不可能という意見もある。

だが、1970年代のコンピュータの世界を振り返ってみると、多くのグループがそれぞれの方法を主張して争っていた。この時代をプロトコール・ウォーの時代という。この時代の混乱が乗り越えられたのがコンセンサスが経済的な理由でなされたからだと言われている。つまりTCP/IPによるインターオペラビリティが普及することでインターネットにより多くのユーザーと開発者が集まってきた。集団の合意をとりつけるより、インターオペラビリティを推奨するところにユーザーや開発者があつまってくれば標準は成立していく。メタバースの標準を主導していく集団はどこになるのか?ここに注目してインターオペラビリティの方向を見つけていくことが必要になっていくのだ。

5) Massive Scaled

インターネットは膨大なユーザーがいるが、これをひとつのシステムでサポートするのは不可能である。インターネットがthe internetになったようにメタバースがthe metaverseになるためには多くのメタバースが参加しなくてはいけない。現状のメタバースはデジタルで仮想のテーマパークであって、リアルワールドの多様さも複雑さも反映していないのである。

ここでメタバースの語源を分解してみよう。スティーブンスが「スノークラッシュ」で使った言葉はギリシャ語のメタを宇宙を示すユニバースからユニをとって接頭語としてつけたものである。メタは越えるとか超越するといった意味を持つ。メタデータとはデータを説明するデータの事である。メタフィジックスとは哲学の一分野で存在や同一性や変化、空間と時間、因果律、可能性の研究をする学問で、エネルギーや力に関係する動きや行動を研究する。こうしてメタとヴァースが組み合わされてひとつの言葉になると、ここのコンピュータが生み出す複数のユニバースの上位に存在するものとなる。

この考え方を適応すると、Robloxはメタギャラクシーであり、Adopt Me!はひとつの仮想世界となる。その世界をひとつの国と考えるならそのなかに多くの県があり市があり街があることになる。Facebookはthe internetではなく、無数のFacebookのサイトが統合されたもので、わかりやすくいえば二次元のメタバースであると考えても良い。これが三次元メタバースになるのが未来である。そこではRobloxやMincraftやFoertniteがメタバースを生み出すプラットフォームとなり、Epic社(Fortnite を開発し、UnrealEngineを公開している)のCEOのTim Sweeney は次のように言う。
「数十年前にすべての企業がウェブページを作成し、ある時期にはすべての企業がフェイスブックページを作成したように、人々は自分たちで自分たちのメタバースをつくるようになる。」

6) Persistance データの永続性

次の定義はメタバースはデータの永続性つまりパーシステンス(Persistance)を持たなくてはいけない、ということである。この概念は理解が難しいのでBallの議論を丁寧にたどっていきたい。

現在のメタバースゲームでは、完全なパーシステンスを実現しているものはほとんどない。一定期間、仮想世界の一部または全部がリセットされるようになっている。例えば、「Fortnite」や「Free Fire」というゲームがある。下記はFortnite任天堂版からだ。
https://www.nintendo.co.uk/Games/Nintendo-Switch-download-software/Fortnite-1388372.html




次はFreefireである。


プレイヤーは試合中、さまざまな建造物を建てたり破壊したり、森に火を放ったり、野生動物を殺したするが、およそ20~25分後にマップは事実上「終了」し、Epic GamesとGarenaによって破棄される。実際、レンダリングの複雑さを軽減するために、30秒後に「アンロード」されるような、破壊不可能な岩の弾痕などのデータも、ある試合の中で破棄されることがある。

すべての仮想世界がFortniteのマッチのようにリセットされるわけではない。例えば、World of Warcraftは連続的に実行される。

しかし、その仮想世界が完全に持続するということはない。開発元(この場合はActivision Blizzard)が大規模なアップデートを行った時には仮想世界は変化する。

仮想世界における「永続性」の問題は、現実世界では発生しないので、少し理解することが難しい。物理的な木を切り倒すと、切り倒したことを覚えているかどうかに関係なく、また、大地が他の木や活動をどれだけ追跡しているかに関係なく、その木はなくなる。しかし、バーチャルツリーは、ユーザのデバイスとそれを管理するサーバーが、情報を保持するか、レンダリングするか、他の人と共有するかを積極的に決定しなければ永続性を失う。コンピュータが計算をしていなければ、永続性は維持されない。このことをよくしめしているのは、ゲーム「EVE Online」である。

Epic社が販売しているEVE OnlineはSecond Lifeのような2000年代前半の「プロトメタバーズ」やRobloxのような新しいゲームほど有名ではないが、Ballによると示唆に富むゲームだという。EVE Onlineは2003年のローンチ以来、継続的かつ根気よく運営されている。また、Fortniteのように数千万人のプレイヤーを12人から150人の20分から30分のマッチに分割するゲームとは異なり、EVE Onlineでは毎月数十万人のユーザーが、8000近くの星系と7万近くの惑星にまたがる単一の共有仮想世界に参加している。この会社についてはあまり知られていない。ちょっと調べてみた。wikiからである。
https://en.wikipedia.org/wiki/Eve_Online

Eve Online(イブ・オンライン)は、CCP Gamesが開発・運営する宇宙を舞台にした永続的な世界の多人数参加型オンライン・ロールプレイング・ゲーム(MMORPG)である。Eve Onlineのプレイヤーは、採掘、海賊、製造、貿易、探査、戦闘(プレイヤー対環境、プレイヤー対プレイヤーの両方)など、ゲーム内のさまざまな職業や活動に参加することができる。このゲームにはプレイヤーが訪れることのできる合計7,800の星系が存在する。

このゲームはプレイヤーの相互作用に関してその規模と複雑さで有名である - その単一の共有ゲーム世界において、プレイヤーは他のプレイヤーと台本にない経済競争、戦争、政治計画を行う。 B-R5RB の Bloodbath は単一の星系で数千のプレイヤーが参加した戦闘で、21時間かかり、ゲーム史上最大かつ最も高価な戦闘の一つとして認識された。

Eve Online は2003年5月に北米とヨーロッパでリリースされた。2003年5月から12月までSimon & Schuster Interactiveから出版され、その後CCPが権利を買い取り、デジタル配信方式でセルフパブリッシングを開始した。2008年1月22日、Eve OnlineがSteamで配信されることが発表された。2009年3月10日、再びアタリ株式会社から箱型での店頭発売。2013年2月にEve Onlineは加入者が50万人を突破。

とある。現在はEpicのストアから購入できる。

Ballの説明によると、EVE Onlineの素晴らしい永続的仮想世界の背景には、革新的なシステムアーキテクチャがある。それと同時にEVE Onlineの仮想世界は、基本的に何もない3次元空間であり、壁紙の背景は銀河のように見える。ユーザーは本当に惑星を訪れることはできず、ゲームの永続性はエンタイトルメント(プレイヤーの船や資源など)と関連する位置情報の管理によって行われている。このやり方により、メタバースが存在しているコンピュータの計算負荷が少なく、ユーザーのデバイスは、あたらしい場所にいけば、そのオブジェクトを管理するサーバーに問い合わせてレンダリングするだけになっている。さらに、EVE Onlineは、日単位、四半期単位、あるいは年単位で世界がかわってしまうことはない。EVE Onlineの目標は、あくまでもプレイヤーの様々な派閥が惑星、星系、銀河を征服することにある。征服の戦いは、プレイヤー達が企業の設立、同盟の形成、艦隊の戦略的配置を行うことで実行される。このため、EVE Onlineの大部分は、サーバー上ではなく、サードパーティのメッセージングアプリケーションや電子メールを介して、実際に「現実世界」で行われている。ユーザーは何年もかけて攻撃計画を立て、敵ギルドに潜入して裏切り、資源取引や新造船建造のために巨大な個人ネットワークを構築していく。大規模な戦闘が起こることはあっても、それは極めて稀で、仮想世界そのものというよりも、仮想世界の資産(例えば船)を破壊することになる。

StephensonのSnow Crashでは、メタバースは惑星サイズの巨大で詳細な仮想世界であり、ほぼ無限のビジネス、訪問する場所、活動、購入するもの、出会うべき人々が存在するものである。また、ユーザーによって行われたほぼすべてのことが、いつでも、いつまでも残ることになっている。仮想世界だけでなく、その中の個々のアイテムにも永続性は当てはまる。私たちのアバターやバーチャルスニーカーは、使用するにつれて摩耗し、そのダメージを永遠に反映することになる。そして、相互運用性の原則に従って、これらの変更は私たちの行く先々で持続することになる。

このような体験を生み出し、維持するためには、データの読み込み、書き込み、同期(これについては後述)、レンダリングが必要で、その量は前例がないばかりか、今日可能なものをはるかに超えている。

仮想世界がオフラインになったり、リセットされたり、シャットダウンされたりすると、プレイヤーにとっては、まるで存在しなかったかのような状態になる。たとえ運営が続けられていたとしても、プレイヤーがその世界でのプレイを止めた瞬間、所有している仮想グッズ、履歴や実績、ソーシャルグラフの一部までもが失われる可能性が高い。これは、仮想世界が「ゲーム」である場合にはあまり問題にならないが、人間社会が教育や仕事、医療などのために仮想空間へ有意義に移行するためには、小学校の通知表や野球のトロフィーのように、その空間で行うことが確実にデータとして存続していなければならないのである。

パーシステンスをどのように定義して運用していくかはメタバースの実現のために避けて通れない重要な課題なのである。

今回紹介したメタバースの定義4,5,6は課題を抱えつつも、こうした定義が組み込まれたメタバースへの道は見えている。さて、次回は定義の7と8と9について説明する。この3つの定義はまだ手がついていないが、これが成立しないと本当のメタバースにはならないのである。

(この項、続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?