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恐怖。

校庭の隅で、一人で鉄棒をしている少年。

子供の頃、僕も逆上がりをこっそりと練習した。
体育で、
「次は逆上がりをやる」
と言われて、焦った。

単純に、逆上がりが出来なかったし、出来ないことによって、指導されて、目立ってしまうことが怖かった。
既にくるりと回るだけの時ですら、出来る奴は、シレーっと逆上がりをしたりして、周りとの差を見せつけていた。

なんか、実は既にみんなできるんじゃないか。という恐怖。
自分だけが取り残されて、一人出来ないのを、クラスメイトが体育座りで、眺め続けるという地獄が頭を過った。
嫌だなそれ。
と、怖くなって、夕方、校庭に誰もいなくなるのを待って、一人で練習した。

そもそもが、出来なくていいもの。
次の授業で教わるのだから。というか、逆上がりが出来たらなんだっていうんだという思いと、ただただ、目立ちたくないという思い、恥をかきたくないという思い。恐怖。

クルリ。バタ。クルッ。

腕が伸びてしまう、だとか、勢いが足りない、だとか、そんなことを確認しながら、暗くなっても、何度も何度も練習した。

何回かに、一度は出来るようになり、それでも本番が出来なかったらどうしようという思いを抱えながら帰った。

当日。
まずは、先生のお手本の後、みんなトライ。
何人かは出来て、何人かは出来なかった。
僕は何とか出来た。
一人、バレないようにホッとした。
そのうち時間が来て終わる。
過ぎてしまえば、誰かが特別に目立つようなこともなく、何でもないような時間。
「……」

校庭で一人鉄棒をする少年を横目で見ながら、そんなことを思い出した。

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