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大恋愛とは。あきらめてしまった恋のこと

「大恋愛ってしたことありますか?漫画みたいな大恋愛です」

 職場に婚活中の女子が加わって、最近この手の話題に事欠かない。心なしか既婚10年以上の私たち女子(へへ)も、キャピキャピしている。
 大恋愛、でも無いけれど今でも思い出す恋心がある。今でもしょっちゅう思い出し、胸が甘く締め付けられる。そんな恋だ。


 彼は同じ大学で同じ学科の男の子。背が高くて、ワイルドに美しく、野生の豹…いや、ライオンキングに出てくるなんかカッケー動物のような男の子だった。(野生の豹は見たことがない)。
 第一印象が「見るからにモテそうだな」だった彼は実際良くモテた。

 私達の学科には2代派閥とも言える美人が2人いて、(もちろん私ではないのだけれど)そのひとりも彼の事が好きと公言していたし、彼の周りはいつも女の子であふれていた。

 けれど彼は、所謂「面食い」では無かった様で、入学最初のオリエンテーションの飲み会からなぜだか私の横にいた。
 毎晩、バイト終わりに電話がかかってきた。
 キャンパスで見かけたら遠くからでも来てくれた。
 課題や宅飲みで誰かの家で雑魚寝になると(当時はそういうことがしょっちゅうあった)いつの間にか隣にいてササっと腕枕をしてくれた。
 今の(ある程度の経験を持った)私だったら、甘い雰囲気にでもなっただろうが、あの時の私は本当にまだ未熟で、「えーいつもありがとー」なんてヘラヘラしながら彼を枕に健やかに眠っていた。

 未熟な私でも、そんなんやられたら好きになる。なってしまう。
 好きになったら苦しくなった。今までヘラヘラと平気だったのに。
 彼は私を特別扱いするのに、決定的な言葉は何も言わなかった。学外に彼女がいるのでは?という噂もあった。

 キスをしたのは1回だけだ、1回だけ、当時の私にしては濃厚なキスをした。私の部屋で勉強をしていた時だ。
 先に進まなかったのは初心だったから。先に進んでもいいか聞く彼に、きっぱりと断る事が出来たから。そういう潔癖さと強さがその頃の私にはあった。(今だったら流されていたかもしれない、なんなら1回ぐらい流されれば良かったと実は少し思っている。)
 彼もそれ以上に進まなかったので、まあそう興味がなかったのかもしれない。

 好きになったら下り坂の雪玉だ。どんどん好きが大きくなるし、比例してどんどん苦しいが大きくなる。

 今思うと、みんなもそうだったんだろうなぁ。

 その頃から、大学では件の美人によく陰口を叩かれた。(彼女は美人だけれど人望はそれほど無く、甚大な被害は無かった)
 しんどかったのは深夜の電話だ。居酒屋のバイト上がりの彼からの電話に出ると、彼の声の向こうに「ねえ誰に電話してるの〜」というバイト仲間の女の子の声が混じりはじめた。そのうち女の子からだけかかってくる様になった。彼の番号でかかってきた深夜の電話、留守電に酔っ払った女の子からのやや攻撃的なメッセージが溜まった。

 冗談じゃないと思った。こんな思いをするほど私は彼を好きじゃない。こんな攻撃を受ける謂れは無い筈だ。私が好きなんじゃ無い、彼が私にちょっかいをかけてくるだけだ。私は好きじゃない。

 嘘だった。好きだった。苦しいぐらいだった。
 好きの素振りは一欠片も見せられなかったけれど。

 私は自分に嘘をついて、彼に嘘をついた。
 「もうめんどくさい」
 「もうめんどくさい、電話しないで、私に関わらないで」

 逃げた。諦めた。諦めて、彼を傷つけた。
 傷つけばいいと思ったけど、彼は傷つきもしなかったかもしれない。


 今彼と私はSNSでつながっている。
 ひょろりとした青年だった彼はがたいの良い大人の男になった。3人の子供の父親で、しょっちゅう仲間とバーベキューしているようだ。その投稿を目にすると、未だに心がキュとなる。
 ジタバタすべきだったなー、縋りつけばよかったな。縋りついていたらここに居たかな。と(夫を思うのとは違う次元で)思う時がある。

 私は子供嫌いだし、バーベキューは大嫌いだ。私が横にいても彼を幸せには出来なかっただろうなぁ。


「大恋愛をした事がありますか?」で考える恋。
 長い片思いをした事も、ひどい裏切りにあって泣いた事もあったけれど、他は結局、全部やり尽くして終わった恋だ。

 今でも思い出し、心が疼くのは諦めてしまった、終えられなかった恋。

「だからさ、きっと、諦めちゃったらダメなんだよね。みっともなくてもさ。」と婚活中の彼女に私は偉そうに忠告する。
 彼女マッチングアプリで出会った人を些細な理由ですぐにブロックするんだもの。

 何年か前、同窓会が開かれた。
 もういい大人の男共はあの頃と変わらず酔っ払い、あの頃と同じ「学科の2大美人のどっち派だったか」の話題で盛り上がっていた。
 くだらないと笑いながらお酒を飲んでいた私の横にいつの間にかきた彼が、耳元で言ったのだ「俺、お前派だったよ」。

 もう本当に、そういうとこだぞ。

今でも時々、彼は私の夢のメインキャストだ。

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