頭の中の蜘蛛の糸
2024.1月末
白い半透明の糸が1本、左右に渡っている。
その糸は時にピンと張ったり、だらりと垂れ下がったり、太くなったり千切れそうな程に細くなったり、朝露をたたえたり、カラカラに乾いたり、変容していく。
ああ、蜘蛛の糸だ。と思う。
横に張った、蜘蛛の糸。
という情景がもう1週間頭の中に浮かんでいる。「切れないで欲しいと」ずっと。ずっと。ずっと、
原因不明の発熱で父が入院してから約2週間。コロナ禍から続く面会制限で会いにいけず、かといって父のLINEに既読もつかず、そこまで体調が悪いのかともんもんとしながら、(それでもそこまで大事になってるとは思わず)過ごしていたら突然の病院からの連絡「延命措置してもいいですか?」に、凍りついた。
凍りついて1週間がたった。
担当医から病状を聞いて涙をこらえて鼻を啜っている兄(医師)を見ないふりをして1週間。
医師の兄に「パパ死なないよね?」と何度も聞いて何度も言葉を濁されて1週間。
(本当に申し訳なかったと反省している。次聞かないとは言えないけど)
こんな時、医者は大変だよねと思いながら、それでもどこかに、兄の表情に希望を探してしまう。
兄と担当医が話し合って一か八かでやってもらった措置で少し持ち直して、数値がよくなって、たぶん大丈夫。たぶん死なないと希望が見えてきた週末、「呼吸困難で危険な状態です、近隣の大学病院に運びます」とまた真っ暗になった。
「患者さん苦しいので、人工呼吸器を付けて眠らせます。」と言われ、起きなかったらどうしようと不安になった。
運んでなければ今夜もたなかったと言われて、運んでくれた前医に感謝した。
父と母は仕事も遊びも一緒の仲が良い夫婦で、「パパが死んだら私も死ぬ」という母を慰める事も出来ずに「私も」と言って怒られた。
ダメな娘だ。
電話が鳴ったら心臓が飛び跳ね。
LINEの不要な通知を全て切った。
喜んだり絶望したり諦めたりいや諦めたりしてないけど!。神様だか仏様だか誰だかわかんないけれど、言質をとられたらどうしようと文字にも言葉にも出来ずにいた。
最近の口癖は「大丈夫、大丈夫」。
大人になったと思っていた自分があっという間に5歳児に戻る。ということを知った。
鬼を祀っている神社に縋りついた(稲荷鬼王神社、宮司さんめちゃくちゃ優しかった)。
自分が形ないものに縋るタイプだと知り。
1週間毎日泣くような事態があるのだということを知った。
泣きながら「オラに元気玉を」って繰り返していたら夫に「元気玉は必殺技だから…せめて仙豆にしようか」と言われた。
そうして今、父はICUにいる。
少し安定している。
たぶんもう大丈夫。
大丈夫。
頭の中の糸はグッと太くなりキラキラと朝露をたたえている。
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