パピコ片方分の束縛
2024年 盛夏
「結婚て、パピコの片方を与え続けるって約束でしょ!」
ソファーに座ってパピコ(茶)を齧っていた夫に「パピコのかたっぽちょうだい」って言ったら、奪い合いになった。
冷蔵庫までの4メートル程をふたりでドタバタと走る。
「やった!」聖火みたいに掲げたパピコを突きつけ、上記の言葉を言ったら、「そんな約束してない!」ってやけに大きな声。
「まったく、もう」やれやれと夫は呆れた風情を装い、冷凍庫からパピコをもう一袋取り出しながら肩を震わせているから、もうこれは全くの茶番なのだけれど。(私たちはパピコ(茶)をストックしている)
ストックしている茶色のパピコに埋もれて、緑(キュウイ)とか白(梨)とかの(わが家にとって)激レアパピコのかたっぽが、私用に残されてるの、私、知ってるよ。
※
最近生春巻きに凝っている。
レタス・キュウリ・シソ・トマト・ズッキーニ…エビ・ささみ…エトセトラ…家にあるものを適当に巻く。のだけれど、たいがい「あ、こっちにはしそ入れ忘れた」とか「あ、エビ入れてない」とかになるから、3本作ったら3本微妙に違う味ができてしまう。まあ、それがいいのだけれど。
生春巻きは切って半分づつ食べる。が、この夏増えた私たちの約束。
生春巻きをはじめて作ったのはつい最近で、昔、20年ぐらい前に作ってみたいと思ったのに断念した事を思い出した。
生春巻きには黄ニラを入れなきゃいけない。レシピ本でもタイ料理屋でも、生春巻きには黄ニラが入っていて、その時の私は頑なだった。
ああ、黄ニラが無いから生春巻きが作れない。
もしかして…何を入れてもいいんじゃ無い?って当たり前の事に気がついた。気がついた時の心情は…目からとれた鱗を炭酸水であらった、みたいな。
もう私は何にも囚われていないのだ。
生春巻きに何を入れても良い。ひどく自由だ。
(大人になるって自由になるってことなのね…と私の中の桃井かおりが言ってる)
生春巻きをもぐもぐ食べている夫に「生春巻きって、何を入れても良いんだよ。すごいよね」と声をひそめて教えてあげた。
生春巻きは自由の味がした=スイートチリソース
(でも本当は何をかけてもいいんだよ。すごいよね)
*
・パピコは片方与え続けなければいけない。
・生春巻きは(何も入れてもいいけれど)はんぶんずっこ。
・知識は共有する。
あとは…
・寿司屋でエビの尻尾は私の分も夫がちぎる。
こんな風に私たちは
少しだけ、束縛しあっている。
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