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水玉の世界を生きている

2023年、年末

あれ、あの人最近見かけないな。
職場に向かうバス停で、ふとそう思った。

朝、テレビで目にした『今年亡くなった有名人特集』のせいかもしれない。
1年を振り返るみたいに思い返す。

クリニックで働いている。

患者さんの中にはやっぱり印象的な方もいて。
祖母に瓜二つのあの方や、おばあちゃん役の片桐はいりさんにそっくりなあの方や、来たことを忘れて日に何度も来ちゃうあの方や、笑い方が可愛らしいあの方や…中には、理不尽な事で1度怒鳴られたあの人や(案外忘れないものだ)、100歳を超えたあの人や…。

開院当初は人手も無くて毎日の様に受付に立っていたので、その頃の患者さんは(患者さんの母数も少なかったし)特に覚えている。

あれ、あの人最近見ないな…ああ、今年亡くなったんだった。
あれ?あの人来ないな…ああ、今年とうとう施設に入ったんだった。
バス待ちの列に並びながら思い返す。

開院から約10年、祖母に瓜二つのあの人も、片桐はいりさんそっくりのあの人も施設に入った(「もう2度と家に帰ってこないのよ」ご家族に言われて、これが最後かと愕然とした)。毎日来ちゃってたあの人は亡くなって。癌と戦い抜いたあの方も。コロナにかかったあのお婆ちゃんも。

亡くなったと聞くたびに、びっくりするほど平気でいられない。おい私どうしたと、本当にびっくりする。

この仕事を引き受けるまで全く畑違いの仕事をしていたので、畑違いの仕事をしていた時は、そういう仕事の人(医療業界の人)は平気になるのだろうなと漠然と思っていたのだけれど。(もしかしたら最初から覚悟を持って医療従事者になった人は違うのかもしれない、この手の話を人としないのでわからないけれど)、この仕事をして約10年、びっくりするぐらい平気じゃないのだ。
ポコリと穴が空く。

若い頃だって誰かが亡くなった。
祖父や祖母、クラスメートや仕事相手。あの頃だってポコリと穴は空いたのに、あの頃の穴は比較的早く塞がった様に思う。(塞がったなと思うことが出来たように思う)
若い頃は粘着質のスライムに空いた穴みたいに、じわじわとどんな穴もいつかは塞がるものだと思っていた。

年齢が関係あるのか(涙脆くなるとか言うし)、もしかしたら年齢なんか関係なく、1度体験した強い強い喪失のせいかもしれない。あの後からかもしれない。

今、誰かが亡くなったと聞くと、それがよく来ていた患者さんでも、最近めっきり顔を出さなくてっていた患者さんでも、ああ穴が開いてしまったなぁと思う。穴の大小があれど。
その穴はやっぱり塞がらない類のもので、もう無かった頃には戻れないやつだ。

こないだまで居た人がもうこの世に居ないって不思議だ。あのクリニックの入口からもう2度と現れないんだ。

ついに今月辞めてしまったあの人が「死んだらどこに行くんですかね」って聞いてきたことがあった。みんな穴を抱えているのかもしれない。だからかもしれない。

この仕事は、穴をいっぱい抱える仕事だなと時々思うのだ。

増え続ける大小の穴。

「こんにちは、今日はどうされました?」

クリニックの受付に立って入口を見ている時、視界はなんだか酷く水玉だ。

(草間彌生の世界みたい。)


今年最後のnoteがなんだか暗めだ。
年末年始ってそんな気分かもしれない。
今年はありがとうございました。

去年の年末年始はこちらです。お暇な時に…

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