短編小説『暗闇の中で浮かび上がる幻』
私は、涙を流す香田さんの姿が美しいと感じた。
何の理由もなしに、美しいと感じた。純粋、無垢なものが、ただ単に美を認識ように、美しいと感じた。
以前にも、彼女の涙のあふれている瞳をどこかで見たことがあるような気がする。それがどこか、思い出せない。そんなことは、あるはずがないのに私の記憶の中に残っている。でも思い出せない。遠く離れた処から見ているのだが、記憶には目の前で涙を流している香田さんがいる。
確かに、目の前で涙を流している香田さんがいる。
いったい私は何処に行った