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天国に届け、この歌を

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#小説

短編小説『お父さんと、呼ばないで』

香田さんが、行きに通った道ではなしに、帰りは国道に出れば真っ直ぐに駅の方に行けると言う。…

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月のあかりに照らし出される幻想

追い出されるように二人はカフェの外に出た。 「随分、遅くなってしまったね。申し訳ない」 …

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そこに私がいる(小説『天国へ届け、この歌を』より)

日本からエアーメールが届いた。 差出人は「池田美月」と書いてある。 誰だろう? ニューヨ…

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今度は私が助けてあげる(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「失礼します」 長身の駅員さんが、制帽を脱ぎながら身をかがめるようにして入ってきた。 駅…

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私を救ってくれた人(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「すいません。池田さんと言う駅員さんは、いらっしゃいますか」 「居りますよ。今、上りのホ…

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もう生きていけない(小説『天国へ届け、この歌を』より)

私は今、闇の中にいます。 深い闇の中、一切の音も色もない深い闇の中。 絶望であれば、過去…

8

まどろみの中で(小説『天国へ届け、この歌を』より)

眠った。深い眠りだった。 夢の中で、美月と娘のカンナが入れ代わり立ち代わり出てきて、どちらかの区別がつかなくなった。 カンナの幼い頃の記憶がよみがえった。 補助輪なしで初めて乗った自転車の荷台を両手でしっかりと掴んでいる。カンナは、私が支えているので、安心しきって闇雲に漕ぎ出す。スピードが上がる。カンナの軽やかな笑い声が、風に乗って吹き付けられる。息が上がる。もうついて行けないと、思った瞬間に手が離れた。引き離されるようにカンナの乗った自転車が遠ざかる。 「美月」思わ

眠っているあなたを見つめていたい(小説『天国へ届け、この歌を』より)

裕司が眠っている。 私は、傍らでずっと裕司の寝顔を見ている。 夜は眠れないと言っていた。…

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心は、あの頃のままなのに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

香田美月が、このマンションに来たという痕跡を全て消し去った。 土曜日に、単身赴任をしてい…

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ずっと二人で夕焼けを眺めていたい(小説『天国へ届け、この歌を』より)

胸騒ぎがしたので、単身赴任をしている部屋へ、予定より1日早く行ってみた。 やっぱり私の予…

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女の勘(小説『天国へ届け、この歌を』より)

裕司の部屋。 裕司の香り。 うずたかく積まれた本。 皺のない真白いシーツときちんと四角形…

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美の代償(小説『天国へ届け、この歌を』より)

カーテンの開く音。 部屋中に満ち溢れた光で目を覚ます。 手を伸ばした。 美月はいない。 …

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月明かりに照らされて(小説『天国へ届け、この歌を』より)

カーテンの隙間から、月明かりが差している。 その殺菌灯のような薄紫の淡い光は、美月の右の…

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鼓動が絶えるとき(小説『天国へ届け、この歌を』より)

私たち二人だけが、川原に取り残された。 湿気を含んだ熱風が、悪魔のささやきのようにまとわりつく。 次に上がってくる花火を待ちながら、二人で暗闇を眺める。 この暗闇は耐えられない。 花火が終わってしまえば、私たちは遊園地の中で礼服を着ているように場違いなものになってしまう。 遠くに見える花火があるからこそ、町はずれの小川の土手に佇むことが出来るのである。 私は終わることを考えるのが怖かった。 このままずっと花火が続いてくれたらなと思った。 通りすがりのおじさんが