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天国に届け、この歌を

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記事一覧

短編小説『お父さんと、呼ばないで』

香田さんが、行きに通った道ではなしに、帰りは国道に出れば真っ直ぐに駅の方に行けると言う。…

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月のあかりに照らし出される幻想

追い出されるように二人はカフェの外に出た。 「随分、遅くなってしまったね。申し訳ない」 …

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そこに私がいる(小説『天国へ届け、この歌を』より)

日本からエアーメールが届いた。 差出人は「池田美月」と書いてある。 誰だろう? ニューヨ…

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今度は私が助けてあげる(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「失礼します」 長身の駅員さんが、制帽を脱ぎながら身をかがめるようにして入ってきた。 駅…

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分かれと出会い(小説『天国へ届け、この歌を』より)

お葬式の最中に私は、崩れ落ちそうになっていた。ずっと泣いていた。 「最後のお別れになりま…

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私を救ってくれた人(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「すいません。池田さんと言う駅員さんは、いらっしゃいますか」 「居りますよ。今、上りのホ…

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もう生きていけない(小説『天国へ届け、この歌を』より)

私は今、闇の中にいます。 深い闇の中、一切の音も色もない深い闇の中。 絶望であれば、過去があるはず。 私は、その過去を消し去りたい。 過去を振り返れば、悲しみが増すだけ。 思い出は、悲しみを深くする役目でしかない。 私は、もう振り返ることも、前に進みことも出来ない。ただ、暗闇の中に落ちてゆくだけ。 死にたい。死にたい。もう生きて行けない。 これ以上生きるのは辛い。もう耐えられない。 苦しくて、苦しくて生きて行けない。 悲しくて、悲しくて生きて行けない。

深い眠りに落ちて(小説『天国へ届け、この歌を』より)

目を閉じた。 美月と妻の美由紀が現れて、お互いに顔を見合わせて笑っている。美月と美由紀が…

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まどろみの中で(小説『天国へ届け、この歌を』より)

眠った。深い眠りだった。 夢の中で、美月と娘のカンナが入れ代わり立ち代わり出てきて、どち…

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旅立ちの前に2-2(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「香田さん、ありがとう」 力を振り絞って声を出したつもりなのに、かすれてしまって弱弱しく…

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旅立ちの前に2-1(小説『天国へ届け、この歌を』より)

♬色あせる街並み  光りを失ってゆく街に  窓に灯りだす明かりは  私には眩しすぎる  涙で…

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眠っているあなたを見つめていたい(小説『天国へ届け、この歌を』より)

裕司が眠っている。 私は、傍らでずっと裕司の寝顔を見ている。 夜は眠れないと言っていた。…

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何を伝えたらいいの(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「ひょっとして、松村美由紀さん?」 面会に来て、病室に入った途端に、年季の入った看護師さ…

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娘の気持ち2-2(小説『天国へ届け、この歌を』より)

翌朝、私も病院についていった。 検査入院だけだと思っていたけど、そのまま入院することになった。 三人で別室に入って、色々と説明を聞いた。 何処か頼りない若いお医者さんが、細々と説明を受けたけれど、お父さんをこんな人に任せて大丈夫かなと思ってしまう。 悲観的な話ばかり。 どうして、もっと希望を持てる話をしてくれないの。 お父さんは、何も罪を犯していないのに、突然逮捕されて、法廷で有罪判決を受けた被告人のような顔をしている。 信じられないというように空を見上げて、大