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戯曲『菜ノ獣 –sainokemono–』② 研究対象


研究対象


 
第十二研究所前の広場。

下手側に研究対象のベジタブルマンたち、上手側にゴトウダ・ザイゼン・クボ・看守・ミヤタ・ムラカミが並んでいる。

ベジタブルマンたちは看守と同様、皆全身みどり色の衣装を身にまとい、頭頂部からは植物が突き出ている。
 


ゴトウダ おはようございます。

ベジタブルマン一同 おはようございます!

ゴトウダ 今日はまずみなさんに紹介しておきたい人たちがいます。農務局からいらっしゃった、ムラカミさんとミヤタさんです。


 
ベジタブルマンたち興味津々といった様子でざわつく。

ゴトウダ、ミヤタとムラカミにあいさつを促す。
 


ムラカミ ……どうも。

ミヤタ ミヤタです。

ゴトウダ お二人には今日から一週間、ここでの仕事を手伝っていただきますので、みなさんよろしくお願いします。

ベジタブルマン一同 よろしくお願いします!

ミヤタ・ムラカミ お願いします。

ゴトウダ では今日も一日を無駄にすることなく、よりおいしく、より健康的な肉体を作れるよう、清く、楽しく過ごしましょう!

ベジタブルマン一同 はい!

ゴトウダ 私からは以上です。博士、お願いします。

ザイゼン はい。では今朝もさっそくみなさんが人間の役に立っているところを想像してみましょう。

べジタブルマン一同 はい!
 


ベジタブルマンたち、想像の世界へ入っていく。

恍惚の表情を浮かべる者、思わずニヤニヤしてしまう者、それぞれ幸福感につつまれている。
 


クボ どういう状況で、どういう風に、どういう人間の役に立っているのか、具体的に想像しましょう。
  
ザイゼン 何を想像しているの?


言いながらザイゼン、研究対象1を前に出す。


研対1 はい!貧困にあえいでいる親子が、生活保護で支給された僕の太ももを、おいしいねといいながらとてもうれしそうに食べてくれるところを想像しました!

ザイゼン 素晴らしいことだわ。それはとってもとっても幸せな瞬間だと思います。

研対1 はい!とっても幸せな瞬間です!
 


クボ、ノートに記入。
 


ザイゼン でも、あなたここに来てからずっと同じ場面ばかり想像しているわね。

研対1 はい!同じ場面ばかり想像しています!

ザイゼン あなたはここに来る前はA-3ランクに格付けされていたから、ドナーになることも夢じゃないのよ?

研対1 はい!ドナーになることも夢じゃありません!

ザイゼン じゃ、そういうところも想像してみましょうか。

研対1 はい!
 


研対1、再び想像の世界へ。
 


研対1 へへ……へへへへ……。

ザイゼン 想像できた?

研対1 はい!貧困にあえいでいる親子が、生活保護で支給された僕の太ももを、おいしいねといいながらとてもうれしそうに食べてくれるところを想像しました!

ザイゼン ……そう。(クボに)ちょっと違うやり方試しましょうか。

クボ はい。

ザイゼン ありがとう。想像をつづけてね。

研対1 はい!

ザイゼン あ、これも幸せそうな顔。今何を考えているのかしら?


ザイゼン、研対3を前に出す。


研対3 わたしは、人間の子供を妊娠しています。

ザイゼン 代理出産もとても意義のある、大切なお仕事ですね。

研対3 はい!元気な元気な子供を産みたいです。

ザイゼン そうですね。

ミヤタ あの、代理出産って?

ゴトウダ 五年後の実用化に向けて動いています。

ザイゼン あなたが代理出産する為にはこれからどうなる必要があるかわかる?

研対3 はい!この施設でしっかりと更生してファームに復帰して、B-4ランク以上に格付けされなければなりません。

ザイゼン がんばれそう?

研対3 はい!がんばります!

ムラカミ A-3とかB-4っていうのは?

ゴトウダ ええ。ファームではベジタブルマンたちが生まれた時点でDNA検査を行い、AからEのランクに分けます。そしてランク別に育てられ、その後発育状況や、健康状態によって1から5のランクに分けます。もっとも品質の高い者はA-5に格付けされます。

ザイゼン じゃあ想像を続けましょう。

研対3 はい!

ムラカミ ファームの中も階級社会ってわけか。

ザイゼン あなたは何を想像しているのかしら?


ザイゼン、研対2を前に出す。


研対2 はい!


――と、研対2を押しのけるように研対1前に出て、


研対1 はい!貧困にあえいでいた親子が、生活保護で支給された僕の太ももを、おいしいねといいながらとてもうれしそうに食べてくれるところを想像しました!

ザイゼン (研対1にかぶせて)うん、あなたじゃないのよ。うんわかった…………最後まで言うのね。はい、ありがとう。(あらためて研対2に)あなたはどんな場面を想像していたの?

研対2 わたしの元気な心臓が、移植されました!

ザイゼン ドナーになれたのね!素晴らしいわ。どんな人に移植されたのかしら?

研対2 はい。わたしの心臓はすごく元気なので、ザイゼン博士のような立派で優秀なババァに移植されました!

ザイゼン ババァ?(クボに)どこで覚えたのかしら?

クボ わかりません!


 
ザイゼン、ゴトウダを睨む。あわてて首を振るゴトウダ。
 


ザイゼン ババァっていう言葉はあまりきれいじゃないから使わないようにしましょうね。

研対2 はい!ババァっていう言葉はあまりきれいじゃないから使わないようにします!

研対4 う……うぅ……。

ザイゼン どうしたの?

研対4 はい。ファミリーレストランで僕のステーキを食べた子供が、やっぱりビーフじゃなきゃステーキじゃないと言って泣き始めました。

ザイゼン あら。

クボ 何らかの強迫観念に囚われているんでしょうか?

ザイゼン あなたは牛なんかよりもよっぽど人間に貢献できる、上等な生物なのよ。もっと種としての誇りを持たなきゃダメよ!

研対4 はい。

ザイゼン この子は最近ネガティブな発言が多いわね。

クボ 不安は伝染しますからね。他の個体への影響が少し心配ですね。

研対1 うう……ううぅ……。

ザイゼン どう……。


 
ザイゼン、声をかけようとするが思いとどまる。

研対1、しばしうなされた後、自ら前に出て、
 


研対1 ……はい!貧困にあえいでいた親子が、生活保護で支給された僕の太ももを、おいしいねといいながらとてもうれしそうに食べてくれるところを想像しました!

ザイゼン (同時に)聞いてない……わたし聞いてないわよ!……(研対1話し終わり)はいありがとう。


ザイゼン、研対1を列に戻す。


クボ 苦しそうな感じは何だったんでしょうか?

ザイゼン わからない。言いたくて仕方なかったのかな。

クボ なるほど。

ザイゼン では今日の想像の時間はこれまでにしましょう!

ベジタブルマン一同 はい!

ゴトウダ ではみんなで歌を歌いましょう!

ベジタブルマン一同 はい!
 


看守、が音楽をかけ、ミヤタとムラカミに歌詞カードをわたす。

皆で『ベジタブルマンのテーマ』を歌う。

 
  〽母なるバイオのテクノロジー  DNAをなんやして
   ゲノムレベルでかんやして  そのあとコネてくり回したら
   ひっくり返して様子見て  少し寝かせて様子見て
   必要ならば乾かしてみて  ときにはそこらにぶら下げてみて
   生まれた奇跡の生命体  それが我らベジタブルマン
 

リズムに合わせて体を動かしつつ、歌を口づさむムラカミ。

ただただ戸惑うミヤタ。

溶暗。



戯曲『菜ノ獣 –sainokemono–』③につづく




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