ジェンダー・セクシュアリティ研究専攻の私のFAQ
私が「ジェンダー・セクシュアリティ研究を専攻しています」って自己紹介すると、この学問が日本ではレアだからか、色々と質問されます。
よく聞かれる質問(FAQ; Frequently Asked Questions)と、その答えと本音をここに書いておきます。
私が聞かれたことがある質問をランキング順に並べました。
以下、【ジェンダーセクシュアリティ研究】を【ジェセク】と略します。
ちなみに、専攻としてジェセクを選べるのは、日本国内にはICUしかないと思います。(知識足らずだったあらごめんなさい、コメントで教えてください。)
研究センターはいろんな大学にありますが、自己紹介で「専攻しています」って言えるのはICUだけだと把握しています。
あと、UCバークレーでは、Gender and Women's Studies (ジェンダーと女性学)メジャー(専攻)と、LGBT Studies (LGBT学)マイナー(副専攻)が選べます。編入生・交換留学の中ではジェンダー学をやっている人はめちゃくちゃレアで、バークレーでも色々質問されます。ちなみにGender and Women's Studiesの編入生の説明会は6人しかいませでした。
バークレーは工学系・経済系・生物学系(雑な括りでごめんなさい)で有名ですが、ジェセクもだいぶ有名な先生方がいますし、メジャーマイナーが分かれてるほどには大きな組織です。
あのジュディスバトラーもバークレーの教授です。(今はもう授業持ってないみたいだけど、調べたら一応「Distinguished Professor(特別教授)」って書いてありました。)
まぁとにかく、私が自己紹介すると、アメリカでも日本でも、どこにいても質問されます。
①何を学ぶの?
これ、めちゃくちゃ答えるのか難しいです。
けど、ほぼ毎回聞かれます。
で、私が作り上げたテンプレ回答がこちら。
わかりやすさのためにシンプルに言っていますが、過去のことや人の理論を学んだ上で、自分の思想を作り上げていくのがジェセクです。多分。
授業によって、深掘るところが違います。
例えば、ICUでとったジェセクの授業は;
🩷「日常生活におけるジェンダー/Gender in Everyday Life」
入門の授業。日常のどういうところでジェンダーが潜んでるか、色々と考える授業。
❤️「宗教とジェンダー/Religion and Gender」
いろんな宗教における男女区別や、それぞれの宗教が女性・同性愛に対してどう考えているか学んだ授業。
🧡「文化人類学とジェンダー・セクシュアリティ研究/Anthropology and Gender Studies」
文化人類学とジェセクの共通点と相違点、文化人類学でのジェンダー問題などを学んだ授業。
💛「家族社会学/Sociology of the Family」
家族、母性、異性愛、同棲、シェアハウス、家族関係の法律の歴史、など、社会学から見るジェセクを学んだ授業。
💚「ジェンダー・セクシャリティー批評理論/Gender, Sexuality and Critical Theory」
いろんな学者の論文を読んで、理論を学んだ授業。
UCバークレーでとっている授業は;
🩵「Feminist Environmental Ethics/フェミニスト環境倫理」
え、環境倫理とフェミニズムがどう繋がるの!?って思って履修した。Anthropocene(人新世)の概念についてや、「human人間」「we私たち」という括りについて考える授業。(今度詳しく書きたいと思っています。)
💙「Bodies and Boundaries/身体と境界」
二元的なこと「natural/unnatural(自然/不自然)」や、「nature/culture(自然/文化)」について考えたりする授業。
💜「Sexual Politics and Queer Organizing in the US/アメリカにおけるクィア政治と組織」(ちょっと意訳だけど、まぁ似てるから許してください。「Sexual Politics」に合う日本語を見つけられませんでした。)
LGBTQIA+に関する過去の運動、政治、動向などを学ぶ授業。
🤎「Cultural Representations of Sexualities: Queer Visual Culture/セクシュアリティの文化的表象:クィアの視覚文化」
表象、映画、動画、アート、写真などの視覚的文化からクィアについて学ぶ授業。
こんな感じで、ジェセクは分野横断的です。
会話上で、こんな長々と答えたことはありませんが、これが一番よく聞かれる「何を学ぶの?」のに対する答えです。
②何で勉強しようと思ったの?
これも、聞かれすぎて、何パターンかテンプレができました。
まず、就活とか、私より立場が上の人に聞かれた場合;
女子校で「男女の区別がなかった」は、厳密にいうと違います。
社会における男女区別的なものが、女子の中で与えられていた(ように感じた)からです。
私みたいな運動部は、筋肉担当として重いものを持ったり、固い蓋を開けたりしました。運動部には、ファンクラブができるくらいのイケメンキャラの人もいました(残念ながら私ではない笑)
だから、自分の中に男性的なところも生まれたのだと思います。
まぁそれでも性自認は女性だし、女子校によって「中性化された」っていうのが一番近い説明かもしれません。
それで、外では明確に女性としての役割を課せられて、男性のしないことを強いられたりするのに違和感を持ちました。例えば、痴漢やストーカーに気をつけなくてはいけないところ、祖父母の家に行った時に祖父は座っているけど祖母が食事を出したり下げたりするところ、そして祖父に「玄米も祖母を手伝え」と言われるところ(手伝いたくない、とかじゃなくて、なぜそれが女性だけに課せられるのか疑問に思う)、などです。
あと、私は「可愛い」より「かっこいい」って褒められる方が好きです。なんでかはわかりません。社会的に言われる「女性らしさ」よりも「男性らしさ」の褒め方に惹かれます。自立してて、強くて、頼りがいがあって、リーダーシップのあるような人になりたいと思っています。
服装に関しても、スカートよりも、柄シャツ、サスペンダー、ネクタイ、ベスト、とかが好きです。
あと、H&MのMen'sのコーナーが好きです。肌に気持ちい素材のかっこいい柄シャツがたくさんありますし、ちょうどいいSサイズがあるし、安いです笑
けど、私の好きな服が「Men's」のコーナーであることや、周りに珍しい感じで見られることに違和感がありました。
注意書きなんですが、男性の服装に寄っているわけでも、男性になりたいわけでもありません。女性として、女性の体で、胸がくびれがわかるような着方でサスペンダーとかスーツを着たいんです。
就活とか会話では女子校のこと2文くらいで答えて終わるんですが、これが私の心の内です。
こういう社会の男女差に違和感を持っていて、「ジェセクを学ぶ」っていう選択肢が人生の岐路(大学受験)に現れたときに、その選択肢を選んだんだと思います。
次に、対等な友達に聞かれた場合;
女子校の話に加えて、こんなことを言う時もあります。
私は中学生の頃から、同性の友達や女優さんに恋心を抱くことを自覚していて、調べたら色んなセクシュアリティがあるのを知りました。
あと、高校生の頃に好きになった俳優がノンバイナリーの方で(Ruby Roseって方です)、セクシュアリティだけじゃなくてジェンダーにも触れて、人間の多様性を認識したからジェセクに興味を持ったのだと思います。
人に私のセクシュアリティを聞かれたら、私は「オムニセクシュアル※」だと答えますが、未だに色んな葛藤があります。今度、これについて詳しく語りたいと思います。(家族へ、こんな場で急にカミングアウトしてごめんね)
※オムニセクシュアルとは、全ての性別の人を、その人の性別を理解した上で好きになる人のこと。バイセクシュアルは男女の二つだからちょっと違う。パンセクシュアルは、性別を気にしないで好きになるっていう点で違う。
説明を長々としてる暇がない時や、そういうタイミングじゃない時は、説明が要らないので「バイ」って答えます。
最後に、仲良い友達に聞かれた場合;
以上の二つに加えて、仲良い人相手や、シリアスな場面ではこういうことを吐露したりします。
これは、高校生の時に自分を分析してみたら見つけた深層心理でした。
褒められるのは嬉しいし、家族がめちゃくちゃ才能豊かで、尊敬・憧れ・自慢の気持ちが入り混じっていたけど、同時に「これは私の力なのか?」っていう疑問をずっと感じていました。
まぁこんな話、対面で言ったらめっちゃ空気重くなるし、仲良い友達と真面目なこと話すときくらいに言いません。
ちなみに今は、このコンプレックスは消えました。
もちろん年齢を重ねて人生経験が増えたから、っていうのもありますが、ジェセクを学んだことも大きいと思います。
ジェセクを学ぶって、性別と性的指向だけでなくて、人種や障害、社会の仕組み、人間一人一人の個性についても深く考えます。そういう中で、この恵まれた環境にいることのできる特権にも気がついたし、自分のことも客観的に深く理解してきて、もう「これは私の力なのか?」なんて悩むことはなくなりました。
とにかく、なんでジェセクを学ぼうと高校生の頃に決めたのか、は簡単に答えることもできますが、色んな理由が交差しています。
高校生の時にここまで理由を考えられていたかと言われると、ここまで言語化はできていなかったです。だから「後付け」だと言われても反論できません。
まぁけどジェセク選んでよかったー。
③将来何するの?
私の将来と、ジェセクを学んだ人の将来、両方ともよく聞かれます。
私の将来を聞かれたら…
大学3年生の私は、一応コンサル業界で就活を進めながら、大学院もまだ夢見ています。
高校生の頃、大学の志願書には、ジェセクを学んだ後に海外の映画の大学に行って、映画監督になって、社会問題を人々に意識づけるような映画を作りたいと思っています、って書きました。
まぁ私はかなり行き当たりばったりなタイプなので、何かしらジェセク分野の社会貢献をしながら生きていくっていう抽象的なゴールの元で柔軟に生きていきたいと思っています。
で、全般的なほうを聞かれたら…
この質問は、ジェセク生にとっての永遠の課題だと思います。
私も、バークレーのジェセクの卒業生に会った時に聞きました笑
その方はジェセクの後に、Law School(ロースクール=法学大学院)に行ったそうです。
ちょっと前にツイッター(現X)で、日本人と韓国人の百合が大バズりした時に、高校生の方が、「ジェセクを学んで国を変える!同性婚合法化する!待ってろ皆!」みたいなことを言っていて、あぁ、私みたいだなぁと思いました。
で、その方に「ジェセクなんか無駄。法学学べ」みたいなことをリプライしてる人がいて、その高校生の方は批判していたんですが、そのリプも半分正しいと思いました。正直、ジェセクだけを学んでも政治家にはなるのは難しいと思います。
ジェセク・法学ダブルメジャーか、法学(政治学?)メジャー・ジェセクマイナーとかがいいんじゃないかと思います。とにかく、やりたいことが明確に決まっている場合は、そっちの全般的なことも絶対に学んだ方がいいです。
私は就活を始めた大学3年生まで、コンサル業界に行くなんて全く考えていませんでした。だからただ興味分野に走ってジェセクメジャー・哲学宗教学マイナーにしました。前から夢が決まってる人は、ぜひ、その夢に何の学問を学ぶのが必要か考えた方がいいです。
ただ、私の答えのテンプレにもあるように、ジェセクで学んだことはめちゃくちゃ貴重で、考えが完璧に変わります。(カルトみたいなこと言いますが、本当に笑)
人間なら一個くらいはジェセクの授業をとった方がいいと思います。
だから学んで損をするなんてことは絶対にありません。
まぁどんな勉強でもそうなんですけど。
④先生たちはやっぱ皆そーゆう人なの?
これ、友達に聞かれました。正直苛立ちました。
「そーゆう人」って何?って聞き返したら、その子は口篭って、もう一人の友達が「LGBTとか…」って答えてくれました。
怒りを抑えて、「うーん、バークレーでは4つ授業取ってて、一人はトランス女性って言ってたけど、他の先生方は特に何も聞いてないかな。そのトランスの先生、きれいすぎてまじで見入っちゃって全然授業の内容入ってこない笑」って茶化しました。
けどアウティング(=その人の許諾なくその人のジェンダー・セクシュアリティを人に言うこと)的なことをしてしまったこと(って言っても、先生の名前・授業名は言っていない、写真も見せていないからまだアウティングにはならないと思うけど)、そして、この質問の回答を茶化したことを後悔してます。
ちゃんとしっかり言っておけばよかったです。
償いを込めて、ここで書かせてください。
私がこの質問でイラついたのは、このような理由です。
「そーゆう人」っていう言い方にリスペクトを感じない。「LGBTQIA+」って言って。あと、他者化してる感じがすごい。【私とは全然違う人たち】って感覚が丸見えで悲しい。
ジェセク勉強することと、その人の性自認・性的指向は関係ない。誰だって学ぶ理由や意義がある。ヘテロ・シスの男性の先生も勿論いる。それに、ジェセクはLGBTQIA+だけでなくて、性別、人種、階級、障害、経済力など、色んなことを交差的に学ぶから、全人類に関係のある学問。
そもそも先生たちは生徒にカミングアウトしない。自分の性自認・性的指向がきっかけでジェセクを始めたとしても、そんな話は授業ではしない。だからほとんどの生徒は知らない。経済学部(なんでもいいんだけど)の先生が、最初の授業で、なぜ経済学を学び始めたか自己紹介する?
私が苛ついた理由わかってくれましたか?
もちろん、本を書いてる有名な学者とかはオープンに言っている人もいますし、きっかけが自分の性自認・性的指向の人は統計的には多いのかもしれません。
ですが、この質問が出てくる自分の内心の差別意識にも気がついてほしいと思います。
まぁ、私がこんなにイラついたのは、その子がちょっと半笑いだったところもあります。「ジェセクの先生方はLGBTQIA+が多いの?」って、丁寧に、真面目に、本当に知りたそうな感じで聞かれたら全然喜んで答えていたと思います。ジェセクに興味を持ってくれることは、普段はとっても嬉しいです。
あと、「ジェセクにおいては当事者性っていうのが大事じゃん」って言われたことがあります。これも正直ちょっと腹立ちました。
ジェセクにおいて「当事者じゃない」っていう人はいません。確かに、差別された経験、虐げられた経験は大事ですが、逆に、男性の特権やヘテロであることの特権を経験していることも、ジェセクにおいて重要な視点です。なので、人間なら誰しもが「当事者」です。
それに、学問においてそもそも当事者である必要ってあるんでしょうか。文化人類学など、自分とは違う民族について研究します。第三者から見ることの重要性もあります。
まぁとにかく、当たり前だけど、ジェセクは誰が学んでるとか学ぶべきじゃないとかないです。
⑤あなたはそうなの?
これ、私が聞かれたんじゃなくて、親が聞かれたそうです。
「娘がジェセクしてて…」って言ったら、「娘さん、そうなんですか?」みたいな感じで聞かれたそうです。
これで他者が勝手に答えるのはアウティングになるので、気をつけてください。
私はオープンなので普段は全然いいんですけど、差別意識の持ってる人たちの間だけで話されるのは快くないです。
もし聞かれたら、このnoteを見せてあげてください。
⑥日本において重要なの?
当たり前です。
どこの国でも重要です。
ジェセクを学んで、いかに日本が今だに未熟か気がつきました。
「第三世界におけるゲイ運動とそのゴール」みたいな論文(90年代に書かれたもの)を読んだ時に、え、日本でもまだ全然ゴール果たされてないんだけど???日本は「第三世界」の枠に入ってないけど、ジェセクにおいては同じじゃん、とびっくりしました。
もちろん第三世界とかいう枠組みにも抵抗感があって、西洋の国がゴールだとは思ってなくて、複雑な気持ちなんですけど、社会的に弱い人たちの気持ちが全く汲み取られていない社会、っていう点で日本はかなり危険な状態だと思っています。
⑦一番有名な研究者は誰?
難しいです。一番とかないです。他の学問でもそうじゃないですか?
けど、どのジェセクの授業でも聞く名前は…
シモーヌ・ド・ボーヴォワール/Simone de Beauvoir(1908-1986)フランス
ジュディス・バトラー/Judith Butler(1956-)アメリカ
です。
授業内のリーディング課題で一番頻出した論文は、
ケイシー・コーヘン/Cathy J. Cohen(1962-)アメリカ
の論文「Punks, Bulldaggers, and Welfare Queens: The Radical Potential of Queer Politics?」(1997)
です。ICUとバークレーの私の学生生活3年間で、合計3つの授業で読みました。
FAQは以上です。
このお題、実はずっと書きたいと思っていました。
ジェンダーセクシュアリティ研究がレアだから、もっと広めたいっていう意図もあるし、私自身のことを知ってもらいたいって思っていました。
あと、ジェンダーセクシュアリティ研究は他人事ではありません、って話をしたかったです。全ての人に関わりがある学問です。
過去一文字数が多くて、驚異の7700字超えです。
期末エッセイ3本分の分量😅
最後まで読んでいただきありがとうございました。
質問、感想など、気軽にコメントしてください。
ディベートも受け付けています笑