ほんのすこしでもいいから
真夏だというのにカサカサの両手
日々ふれる消毒液のせいかもしれない、という自分なりの解釈を採用しちょっとだけお高いハンドクリームを買った
こんなご時世、大変な時ついキツイ言動を見聞きしたり自分からも出そうになったりすることがある
ただ
しんどくて苦しくても
優しくありたい
眉間にシワ寄せるより
目尻さげて笑いたい
大切な人たちとは画面越しよりも
逢って顔みて話したい
久しぶりの通い馴れた美容室
気分転換にと、何年ぶりかに前髪をつくる
おでこが狭い故バランスがとても大事なのは過去の失敗から経験済み、担当の美容師と慎重に意見交換をし断髪を決行
渡される雑誌は電子書籍に変わっていて、少しばかり重いけど優しさだと感じた
少し時間があったので移住前に住んでいた港町を歩く
いつも立ち話していたパン屋の夫婦と半年以上ぶりに再会し、来月に店を畳んで田舎へ移転するのだと聞いた
6畳ほどの小さな店、断然お米派のわたしが唯一たべていたのは玄米パン
いつしか毎回おまけをくれるような関係になっていて、此処へ越していく日にはダンボールいっぱいに美味しいものを詰めてくれた
今日も案の定「これも持っていって」と袋へ商品をポンポンと入れ始め終いにはアイスコーヒーまでご馳走になった
そこから徒歩2分のとこにある住んでいたマンションはまだあって、周りの建物もあまり変わることなく、ドライヤーだけ最新の銭湯も大好きなニラレバが絶品の中華屋も現存していた
更に徒歩2分のところには漁港があり、そこで本を読んだり散歩したことを思い出す
深夜に目の前のコンビニでアイスやビールを買い、スマホ片手に夜風に当たったこともあった
コンクリートからの照り返しは一歩進む毎に体力を奪い、マスクの中は一品できあがりそうなほど蒸れて背中を汗が伝う
街頭のビルには34度の表示
向かいからは高齢の女性、自転車も容赦なく行き交う狭い歩道を懸命に進んでいて心配になってしまう
マスクで炎天下にいると瞬く間に熱中症で倒れそうな気になる
この暑さに身体が耐えられなくなった人だろうか、救急車の音が何度も響いていた
日陰を探しながら古巣の街を縫うように歩く
翌日は仕事が控えているので夕方には街を後にした
高速に車を乗せ、どんどん南へ進む
現在の住まいへ帰っていくのだけれど、5年暮らしたこの街へ向かう時も帰っていく感覚が残っていた
生鮮食品を買っていた寂れたスーパーにさえ愛着があるくらいだ、未だに大切な場所や人がいるからなのかもしれない
帰り着くころ雨雲の狭間で空が茜色に染まっていた
またすぐ、誰かに逢いたくなる
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