昔うちにいた金魚の話
先日、金魚がモチーフの小説を書いた。
その際、昔飼っていた金魚のことを考えていたのだが、これがまあ細かいことが全然思い出せない。
かれこれ20年近くは前なので仕方ないといえば仕方ないのだが、それなりにショックだった。
これ以上忘れてしまう前にここに彼らのことを残しておこうと思う。
うちで飼っていたのは10匹の和金だ。
『金魚 和金』で画像検索したら出てくる、典型的な赤であった。
あとは藻を食べてくれるというタニシ。
タニシも最初は10匹くらいだった気がするのだが、生命力が強すぎて数えきれないくらい小さいのが水槽中にいた。
なんなら金魚のあとにしばらくメダカも飼っていたのだが、そのときも元気に藻を食べたり水面をさかさまになって泳いでいた。元気すぎる。
どうして金魚を飼うことになったのかも覚えていない。
両親も弟もあまり積極的にペットを飼いたがるほうには思えない。ならば、やはり幼い私が飼いたがったのだろうが、まったく記憶にない。
覚えているのはお店に並ぶ沢山の水槽と、その中で泳ぐ熱帯魚や金魚、揺れる水草。おそらく大型の熱帯魚ショップだったんじゃないかと思う。
光の加減と水草、それにうっすらと生えた藻によってごく浅い翠に見える水槽を自在に泳ぐ金魚は見ていて飽きなかった。
背から腹にかけて、濃い朱から白に変わっていく体表。小さな鱗はときどき金色に光を弾き、私はそれを見るのが好きだった。ひらひらと揺れる薄い鰭や尻尾も。
最後まで生き残ったのは、10匹の中でも1番体が小さかった雄だった。
『チビ』と呼んでいたのだが、どんどん大きくなっていき、もう小さくないよねということで『チャチャ』と名前が変わった。
確か3~5年は飼っていたように思う。悲しいことにこのあたりも記憶があやふやである。
魚は生きている間一生大きくなり続けるらしいが、チャチャの体長は15センチは越えていたはずだ。20センチ定規と同じかそれより少し小さいと思ったのを覚えているので。
(金魚が巨大化したものが鯉になるのかと混乱したのも今となっては懐かしい。)
大きくなりすぎたチャチャは室内の水槽では飼いきれず、ベランダに出したプラスチックケースみたいなもので飼っていた。ピンクのベビーバスみたいな雰囲気の容器だったはずだが、詳細はわからない。
ベランダにいると普段視界に入らないのでうっかり存在を忘れてしまうのではないかと危惧したが、そんなこともなかった。
チャチャは非常に自己主張の強い金魚だったのだ。
腹が空くと暴れる。全身で飯をよこせと主張する。
大きくなった体で派手に水音と飛沫をあげるのだ。
そこに、大きな金魚につっつかれていた小さな金魚の面影はなかった。
餌をあげるようと餌の袋を片手に水面を覗けば「待ってました」とばかりにチャチャも顔をこちらに向ける。いざ餌を撒いてやれば勢い余って私の指まで食べる。
誰に似たのか、今思い出すと随分と食い意地のはった金魚である。
金魚は案外感情豊かだ。
表情があるわけではないが、腹が空けば全身で訴えるし、何でもないときでも指先を水に浸すとつつきにきた。あれは私の指が食べ物かどうか確かめていただけの可能性も高いが。
でも名前を呼びながら近づくと、確かにこちらに反応していた。
あれを懐いているといっていいのかはわからないし、跳ねるとかなりの迫力であったが、チャチャは可愛かった。可愛い金魚だったのだ。
チャチャが死んだのは暑い夏の日だった。
外で飼っているだけに、あまり暑くならないよう気をつけていたはずだが、厳しい環境だったことに変わりはないだろう。
あれだけ食べることが好きだったのに、食べきれなかった餌が浮いていた。
死因はわからないけれど、子供の私は、自分があげた餌が多すぎて、それが原因で死んでしまったように思った。
20年近く経った今でも思い出すと胸がチクチクして、気まずさと申し訳なさを足して割らなかったような居心地の悪さがある。
金魚を飼って、貴重な体験をしたなと思っている。
表情はないけれど眠ければ動きが鈍くなるし、でかいのが小さいのに意地悪することもあるし、自分たちで卵を食べちゃうし、それなりに自己主張が強かったりする。どれも家で飼っているからこそゆっくり観察できたことだと思う。
それに、蛍光灯や日光を弾いて金に輝く朱い鱗と、透いた水草の翠のコントラストは本当に美しかった。
ただ、今も書きながらチャチャのことを思い出すと鼻の奥がツンとして、寂しさと申し訳なさが顔を覗かせる。
金魚でこれなんだから、もっとわかりやすく懐く動物を飼ったら大変なことになっちゃいそうなので、この先ペットと暮らすのは難しいかもしれない。
最後に、金魚をモチーフにした小説をおいてておきます。お時間ありましたら読んでもらえると幸いです。
悩める可哀そうな人間たちと金魚っぽい生き物のなんちゃってふんわりSFになります。
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