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福島に暮らして5年、あの日から8年――私は今の福島をどう伝えたいのか

年が明けて1月になると、福島県内は少し騒がしくなります。3月11日に向けて、いろいろ動き出すからです。イベントの準備や告知、報道関係。

いわゆる、「3月11日に向けたネタ探し」が始まるのです。各社、東日本大震災の被災3県に記者を飛ばし、「震災から●年」に相応しい記事にする「被災者」を探す……。

私はこの時期に、前回のおきてがみにも書いた「冬季うつ」が再発します。この時期に一極集中して、普段より大量の震災の記憶が町に、Webに溢れ出すからです。

直接被災したわけではない、出身でもない。当時福島に居たわけでもない移住者の私が具合が悪くなる資格はないと思っているのだけれど。周りのみんなが大変な思いをした時に、私はここに居なかった、本当の意味で力になれないんじゃないか。みんなが体験したことを共感できない、寄り添えない私がここに居るという疎外感にどうしても苛まれてしまいます。

そんな私に、声をかけてくれた友人がいます。

「麻衣ちゃんが、震災の時にここに居なかったことで疎外感を感じてるって知ってるよ。でも、今麻衣ちゃんがここに居るのを選んでくれてることがうれしいんだよ」

そう言ってくれたのは、私がいま、運営に関わっている「未来会議」の仲間でした。

未来会議との出会いと、2代目いわき経済新聞編集長

前回のおきてがみでは、復興支援員として福島県に移住したものの、現地で感じる被害の大きさに打ちのめされたり、自身の知識の足りなさや東京でのやり方が通用しなかったりで、心を病んだ末に転職をして、それが転機になったということを書きました。

転職の前後に、私の人生を大きく揺さぶる出会いがありました。「未来会議」との出会いです。未来会議とは、福島県浜通り(いわき市、双葉郡、相馬郡)を中心に、県内外で「対話によるワークショップ」の場づくりを行なっている任意団体です。会議という名前ですが、参加した人が、出身や立場を越えて、思いを分かち合う場です。

この場には、下記のようなルールがあります。

・人の話を否定しない
・自分と違う意見でもまず受け容れる
・無理に話そうとしなくてもいい
・結論を目指さない

(未来会議で対話する筆者(中央)。2017年11月。撮影:橋本栄子)

私が福島に来て初めて、自分の思いや存在を全肯定されたのが、未来会議の場でした。自信を失って病んでいた私に、「麻衣ちゃんが思うように行動していいんだよ」と折に触れ言ってくれたのが未来会議の仲間でした。

いま、私がこうしてライターとして発信できているのは、未来会議のおかげです。

転職して程なく、横浜時代の上司であり、ヨコハマ経済新聞の編集長から連絡がありました。「いわき経済新聞を運営していた団体ができなくなったので、代わりにできるところ心当たりある?」「心当たりはないけど、私やります」。気付いたら口に出していました。

福島に移住して以来、ずっと抱き続けてきた、この地の情報発信。機が熟した時に、機会とメディアを両方手にしたのでした。

情報発信の元になる福島の暮らし

私が発信したいと強く感じたのは、地元の人には当たり前と思われている、福島の豊かさと、人の面白さです。

私が都会人だったからだと思うのですが、白いご飯がこんなに美味しいとか、大嫌いだった生トマトがこんなに美味しく食べられるとか、それだけで福島の豊かさを感じるのです。それは移住して5年目の今も変わらないどころか、増しているくらいです。しかも福島に暮らしていると、その米やトマトの生産者に、日常的に会えるのです。

(いわき市小川「ファーム白石」での農業体験。中央が生産者の白石さん。2015年2月)

40年生きてて、生まれて初めて田植えや稲刈りをさせてもらったり、山菜摘みに連れて行ってもらったり、釣り船に乗せてもらったり。横浜では得難い体験をしています。しかも、それがすべてリアルな友人からの誘いです。

(福島県双葉郡広野町沖でメバルを釣り上げ、ドヤ顔の筆者。2018年7月。撮影:渡邉絵里)

何を信じるのかは個人の自由。でも福島では一次情報が手に入るから

原発被災地の近く(いわき市中心部は、福島第一原発から約45キロ)に移住するということで、放射能の心配はなかったのかと言えば、私自身にはなかったです。

私が移住した2014年は、すでに除染や自然減衰で、いわき市の放射線量は横浜と変わらないことは知っていたし、職場から貸与された線量計で直に計ってもみました。福島県内より線量が高いところは、都内にもあります。気になる方はここから調べてみてください。

家族の中で、父だけは原発の近くに行って大丈夫なのかと心配していたようです(データを示して納得してもらいました。今では、家族でいわきと双葉に旅行に来ます)。

(いわき市と双葉郡に旅行に来た家族と見た、双葉郡富岡町の初日の出。2018年1月1日)

福島に来てからすぐの頃(2014年頃)、年配の女性には「独身なのに、よくご両親が来るのを許したわね」とはよく言われました。ついこの間も言われたことを覚えています。

この問題はもう、自分の中で何を拠り所にするかしかないと思っています。私はたまたま行政の近くで仕事をしていたから、一次情報が入る立場だし、政治不信に陥るような出来事にも遭遇していなかったので、公式発表になっているものと自身が測定したものとが一致していれば「それを信じるよね」ということでしかないのです。長くいるから麻痺してるんじゃないかと言われれば、それはあるかも知れません。いまだに毎日、テレビとラジオで本日の放射線量は流れるし、あちこちに線量計が設置されているのが日常です。

それだけ情報があるので、福島に住んでいる人は、その線量が日常生活において、どのようなことと同じレベルなのか(この数値なら歯医者さんのレントゲン、この数値なら飛行機に乗った時と同じくらいなど)わかっている人が多い印象です。

しかも、私の周りには、不安に思ったら聞ける専門家(お医者さんや東電関係者)も近くにいます。きちんとした情報があれば、無駄に不安にならなくて済むのです。

だからこそ、どうやって情報発信していくのか

こうした暮らしがある一方で、福島には今も風評被害や風化と戦い続けてる人が多くいます。でも、風化はやむを得ない部分もあります。むしろ、農林水産物でいったら、他の地域と同様に価格と味だけで選ぶ土俵に上がったのなら「良い風化」なのかもしれません。

でも、福島県外に届く情報には偏りがあります。3月11日周辺に「だけ」増える報道のほとんどは、紋切り型のものばかりです。悲しみや苦しみにスポットを当てて涙を誘うもの、見出しでショッキングをあおるもの、現地の人を過剰にヒーロー化するもの……。

いわき経済新聞を運営している私には、誰か取材できる人を紹介してほしいという依頼もうけます。でも、私はよっぽど信頼の置ける場合にしかつなぎません。上記のように扱われ、消費されることが目に見えているからです。

ここに住む誰もが、震災が大きな契機になったことは間違いありません。ただここで暮らすようになって強く感じるのは、それまでの生活があって、震災があって、今な訳で、全ては地つづきなのです。

それなのに、震災の記憶や影響だけ切り取って記事にする人が多過ぎる。しかもその記事は一人歩きする。そして取材した本人は、姿を消すことができる。ここに暮らしているわけではないから。そんな風にして、この時期、福島は掻き回される、今でも。

でも、私はずっとここに住んでいる。取材した相手にも関係者にも、日々会い続けます。だから、私が記事を書く上で最も大事にしていることは「誠意」です。

私が書いた記事で、傷ついたり迷惑がかかったりする人が出ないように。忖度はしないけど、言葉選びや表現、そして取材相手への確認は本当に気をつけています。

そして、私の情報発信は、震災を機に前向きな方向に舵を切った人たちの想いを伝えることに徹しています。震災で悲しく、辛い想いをしていない人はいない。傷ついたままの人はもちろん沢山いる。でも震災をきっかけに、未来を見つめて、動き出している人もいます。

前向きな情報だけを発信するなんて偏っているという声も聞く。

本当はまだまだ福島は苦しんでいるのに情報操作だという人もいる。

でも、私が出会った人たちは、可哀想だと思われたくない、被災地と言われたくない。私たちはもう普通の生活を送っていることを分かってほしいと望んでいるように感じています。

「麻衣ちゃんが私の地元を好きになってくれるのがうれしい」「ずっといてくれるのがうれしい」「違う地域から移住して暮らしている麻衣ちゃんにしかできないことだよ」

そういう風に言ってくれる友人たちへのお礼に代えて、私は今日も、私の暮らす地である福島の、未来に向けた情報発信を続けていくのです。

課題先進地域と言われるように、もちろん今の福島は、原発問題を筆頭に課題が山積みです。でも震災から8年が経つ福島に関心を寄せてくれた人に、少しでも明るい情報が届くように、ここに暮らして5年目の私にようやく出来る恩返しが、「福島県浜通り移住ライター」としての情報発信なのです。

【筆者プロフィール】

山根 麻衣子(やまね・まいこ)
1976年、神奈川県横浜市生まれ。2014年、東日本大震災の復興支援業務のため、福島県いわき市に移住。2016年から『いわき経済新聞』を運営。福島県浜通り地域(主にいわき市、双葉郡)のニュース・インタビューを発信。ほかに、『Colocal』『70seeds』『福島TRIP』『greenz.jp』『docomo笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト』などで執筆。福島と県外の架け橋となるライターを目指しています。

Facebook:山根 麻衣子
Twitter:@himawari63
アイキャッチ画像提供:橋本栄子


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