No.1404 とんかつ大好き!
「見つめる鍋は煮えない」とか「見つめる鍋は煮立たない」という西洋のことわざがあるそうです。これは、アメリカ合衆国の政治家であるベンジャミン・フランクリン(1706年~1790年)の著書で使用された格言(AI)だそうです。ヘーボタン?でも、なぜ西洋?
ベンジャミン・フランクリンと言えば、貧しい少年が、「アメリカ建国の父」と呼ばれる政治家として、又、「避雷針」その他の発明家として大成した立志伝中の人物です。一方で、「時は金なり」「塵も積もれば山となる」などの格言も残した偉人でした。
その外山氏の論を核にしたコラムを読みました。
越前の山々を指す「越山」と、若狭の水をあらわす「若水」で、「越山若水」と呼ばれる福井だそうです。凛として美しいお国の代名詞ですね。
私はそのコラムを読んで、結果ばかりを焦り性急に事を運ぼうとする強引な自分に気付かされました。「発酵させ、熟成させる」熱意を失わない生き方が、これからの課題です。
さて、福井と聞いて、真っ先に思い浮かべるのは、断崖絶壁・泣く子も黙る「東尋坊」、そして曹洞宗の大本山の一つ「永平寺」のことです。そのどちらも作品中に出てくるお話が、作家・三浦哲郎(1931年~2010年)の短編「とんかつ」(1987年)です。
北陸のある町の旅館に、いわくありげな母子の二人連れが宿をとります。青白い顔をしたひょろりとして無口な少年と母親に、旅館の仲居さんは、ひょっとして母子心中ではないか縁起でもないと気を揉みます。聴けば、この春中学を卒業する息子が住職であった父の急逝に遭い、息子に寺を継がせるために永平寺に修行に入るためにやってきたのだといいます。里心がついてはいけないから5年間は会わないつもりだと、強い胸の内を語った母親の思いを知った旅館の女将さんは、寺に入る前にご馳走しましょうと申し出ました。すると、母親は息子の好物の「とんかつ」がいいと注文しました。
ところが、その舌の根も乾かない(?)一年後に、再び母親がその旅館を訪れました。修行中に怪我をした息子の見舞いに来たのだといいます。女将さんは、何かうまいものを食べさせてあげたかったのですが、母親がこういうのです。
「さあ……修行中の身ですからになあ。したが、やっぱし……。」
そして約束した時間に、息子が旅館を訪れました。
弱弱しかった息子は、一皮むけた凛とした僧になっていました。時間と修行体験が彼を大きく成長させていました。そして、調理場から漂ってくるその匂いに気付くのです。
ほんの数ページの短い小説ですが、しみじみとした味わいがあり、胸の中に温かいものが流れます。ラストのシーンがいいんです。どうかご一読ください。
※画像は、クリエイター・にっしー / 西川純平さんの「かつ吉のとんかつ 岩中豚!」の1葉をかたじけなくしました。食欲をそそる1枚です。お礼申し上げます。