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136.三題噺「前人未到、夕顔、力」

 祝日で学校が休みだからと、自習を終えてから妹が呆れるくらいダラダラしていた時だった。

 先輩から電話がかかってきた。

「もしもし?」

「──力が、欲しいか?」

「は?」

「だからぁ〜。後輩くんは力が欲しい?」

「いえ、別にいらないです」

「そっかそっか。それなら、一緒にボウリングしない?」

 それなら、が何も繋がってないけどボウリングは楽しそうだったから行くことに決めた。

 アミューズメント施設の中のボウリング場に先輩はいた。

 ピンが倒されるカコーンという気持ちのいい音とともに、先輩は振り向いた。

 ちょうどワンゲーム終えたみたいだ。

 スコアは……さすが運動神経抜群。かなりの高スコアだった。

「待ってたよ後輩くんっ!」

 少し汗をかいた先輩の笑顔は眩しい。
 あと妙な色っぽさがある気がする。

 これが年上の女性の力だろうか。
 僕はそんなことを考えた。

「どうしたの後輩くん?」

「いえ、なんでもないです」

「そう? じゃあ、さっそく血で血を洗う戦争を始めよっか」

「そんな物騒なものだったんですね……」

 1番手は僕だった。

「あまり上手くないから期待しないでくださいね」

 僕はボールに指を入れ、レーンに立つ。

「ファイト! 前人未到の偉業を成し遂げるために、後輩くんは血の滲む特訓の末、闇を打破する力を手に入れるんだ!」

 先輩のよくわからない応援を背に、僕はボールを投げた。

「うん」

 僕は頷く。ガーターだ。納得の結果だ。
 先輩はなんとも言えない表情をしていた。

「一緒に闇堕ちしよっか」

「さっきと言ってること真逆ですね」

「ありゃ? そうだっけ?」

 偉業を成し遂げるという大それた夢もなく、闇堕ちするつもりもない僕たちは何ゲームか楽しんだ後、帰ることにした。

「腕が痛い……」

 重たいボールを投げていたから指も腕もプルプルしている。

「マッサージしてあげるね」

 先輩が僕の腕を優しくとって、そのしなやかな指でほぐしてくれた。

「気持ちいい?」

 これ以上の幸せがあるだろうか。いや、無い。
 先輩の手には癒しの力が宿っているのだろう。僕は腕の痛みが気にならなくなった。

「治りました」

「ほんと? よかったぁ〜」

 先輩の夕顔のように綺麗な笑顔に、僕は浄化された。
 腕は筋肉痛になった。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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