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176.三題噺「ケータイ、投げキッス、10月」

 早いもので10月も終わりだ。

「……」

 土曜授業が終わった教室で、元生徒会長の俺は自作したお菓子を頬張った。おいしい。

 帰り支度をしていると、教室の扉が開いた。

「先生?」

 そこには俺が片想いをしている相手がいた。

「残ってくれてよかった。ケータイを出してくれ」

「ケータイ? あぁ、スマホのことっすか」

 俺はスマホを取り出した。

「どうしたんすか?」

「この前猫カフェに行っただろう? その時の写真が送られてこないから、何かあったのかと気になったんだ。……だが、壊れてなどないみたいだな」

「すみません。忘れてました」

 俺個人で先生の可愛い写真を見ては、にやけるということをしていたのだ。

 我ながらきしょいな……。

「忘れてたのなら仕方がない。今送ってくれるか?」

「了解っす」

 俺はスマホを操作して先生に写真を送った。

 スマホを鞄にしまってから、手作りお菓子を仕舞おうとする。

「それは……お菓子? 手作りか?」

「ええ……」

「それはすごい。一つもらってもいいか?」

「え……?」

「ん? ダメか? 無理にとは言わないが……」

「いえ! ぜひ召し上がってください!」

「そうか? ならいただこう」

 先生がお菓子を手に取り、口に運ぶ。
 緊張する。ごくりと生唾を飲む。

「なるほど、これは君がマカロン君と呼ばれているのも頷けるな」

 先生は唇を舐めた。

「なかなか、おいしかったよ」

 そう言って先生は投げキッスをし、教室から出た。

「お、大人の女性だ……」

 俺は先生の魅力にさらに虜になる。

 そ、そうだ! これを口実にまた先生と話せるんじゃないか?

 俺は先生を追うため急いで教室を出た。

 そこで待っていたのはしゃがんで顔を隠している先生の姿。

「余裕な大人っぽく振る舞ったつもりだったが、やりすぎたんじゃにゃいか私……」

「せ、先生……?」

「へ……?」

 先生はワナワナと震え、俺を見上げて涙を流した。

「俺は何も見てないし聞いてないです!」

 俺は残っていたお菓子全てを捧げ、先生を慰めた。このくらい痛くない。

 ……いや、かなり出来がよかったから、後一つくらいは食べたかったな……。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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