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198.三題噺「全知全能、畑違い、経験値」

「おはようございます。先輩」

「うんっ。おはよう。後輩くん」

 今日は日曜。先輩とお出かけする予定だ。

「ていっ」

 先輩の拳が僕のお腹に突き刺さった。

「僕、怒られてます?」

「ううん。今、経験値集めしてるの」

 先輩の中では僕はRPGの序盤の敵か何かに見えているのだろうか。
 とりあえず倒されたフリをしておこう。

「今日も後輩くんのノリがいいねぇ。よきかなよきかな」

 満足そうだからこれで正解だったようだ。

 勝利BGMを口ずさんだ先輩と一緒に歩く。
 僕が車道側に行くと、先輩は一層ご機嫌になった。

 カラオケ、ショッピングモール、ゲーセン。
 行き慣れた場所だけど、先輩と一緒だと何故か退屈しなかった。

「後輩くん、見事に全敗だったね〜」

「先輩が強すぎるんですよ……」

 ゲーセンから出た僕は涙目だ。

 どのゲームをしても先輩に敵わない。
 先輩に畑違いの分野はないのだろうか。

「どうしてそんなに強いんですか? 弱点とかないんですか?」

「私は全知全能だからね」

 それは言い過ぎでは? と思ったけれど、あながち間違いではないかもしれない。

 スポーツだって得意だし、勉強もできる。

 それに顔だちだっていいし、性格だって破天荒なところがあるものの、そこに目を瞑れば申し分ないだろう。

「先輩は神様だったんですね」

「えっへん。そうなのです」

 先輩は豊かな胸を張った。僕は目を逸らした。

「この後はどうしますか。神様?」

「後輩くんを鍛えるために山籠りとか滝行しちゃう? 修行しちゃう?」

「なんでそんなにウキウキしてるんですか。やらないですよ?」

「やらないの……?」

「そんな期待に満ちた目で見られてもやりません」

 疲労で倒れてしまいそうだ。
 僕は積極的に強くなりたいわけでもない。

「弱いまま、負けたままでも、先輩と一緒にいるのは楽しいので、今のままで充分です」

「……そっか♪」

 えいっと先輩が抱きついてきた。

「ちょっ、先輩! 抱きつき禁止です!」

「えぇ〜? どうして?」

 先輩はこてんと僕の肩に頭を乗せて余計密着してきた。

 先輩には敵わない。

 恥ずかしい……。けど、悪くないなと思う自分がいた。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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