200.三題噺「現状維持、クエスト、小躍り」
放課後、僕は先輩と一緒に帰っていた。
「もうすぐ11月も終わりだね〜」
先輩はなんとはなしに呟いた。
12月がやってきて冬休みが明けてしまうと、三年生はほとんど登校しなくなる。
一緒に帰れるのは、あと何回あるだろう。
そんなことを考えると切なくなる。
このまま卒業してしまって、疎遠になってしまうのかもしれない。
時々近づく時はあるけど、僕と先輩の間はいつも拳ひとつ分。
まるで心の距離を表しているようだ。
そこを冬に近づいた風が吹き抜けていった。
僕は立ち止まり、先輩は走って踏切の先に行く。
「後輩くん……?」
ちょうど踏切が鳴って、僕と先輩は分たれた。
「おーい。ひとりで帰っちゃうよ〜?」
先輩は不思議そうに僕を見ていた。
人生はゲームの様にクエストが出て目標を示してくれるわけじゃない。
行動して自分から体当たりして変えていくしかないんだ。
僕は拳をぎゅっと握り、深く息を吸った。
きっと、ずっと前から僕の気持ちは決まっていた。
「先輩」
小さく呼んだその声は、たぶん聞こえていない。
反対に、僕の鼓動は踏切の音以上に大きかった。
「先輩!」
僕はもう一度、張り裂けんばかりの声で先輩を呼んだ。
「────です!」
僕が口を開くと同時に電車が過ぎ去っていく。
聞こえたかは分からない。
届いてないかもしれない。
それでも、僕はダサくたっていいから何度だって告白する。
現状維持は、もう嫌なんだ。
僕は強い意志のこもった瞳で先輩を見た。
同時に踏切が上がり、風が先輩の前髪を揺らした。
「わたしも……」
「……え?」
一瞬、先輩が何を言ったのかが分からなかった。
先輩の潤んだ瞳と見つめ合う。
「私も、すき」
それは僕が待ち望んでいた言葉。告白の返事だった。
届いていたんだ……。
「後輩くんのこと、好きっ……!」
「ちょっ! 先輩!」
先輩は喜びを体で表現するかのようにダッシュで僕の胸に飛び込んできた。
何でもない日常。何でもない一日。
けど、隣に先輩がいるだけで、それは特別に変わるんだ。
「いこっ? 後輩くんっ」
先輩の声は弾んでいる。
「はいっ!」
僕も負けないくらいの返事をした。
るんるんと音符が浮かんでるのが見えるくらい、先輩はウキウキだ。
「えへへ。嬉しい。」
僕たちは晴れてカップルになれたんだ。
遅れて実感が湧いてきて、僕は嬉し過ぎて小躍りしてしまいそうだった。
「たくさん思い出作りましょうね」
「もちろんっ!」
先輩の満面の笑顔が咲いている。
今日も先輩はかわいい。
僕はそんなことを思った。
付き合ってから数年の時が過ぎ、僕と先輩は社会人になった。
なんの偶然か同クラさんは同僚になった。
当時はお互いにびっくりしたことを覚えている。
今では先輩と喧嘩した時に相談に乗ってもらったり、プレゼントを一緒に考えたりしてくれるよき同僚だ。
後輩ちゃんは大学4年。
就職先が決まったと聞いてこの前みんなでお祝いをした。
その時「先輩はずっと先輩なんですから、覚悟して待っててくださいね?」と言われたけど、何のことかは未だに分からないし、教えてくれない。
同クラさんと後輩ちゃんが僕を見て笑っていたから、会社関係かもしれない。
そしてなんと、マカロンくんは社会人になってすぐ先生にプロポーズし、結婚した。
聞かされたときはかなりびっくりしたけれど、挨拶しに来たマカロン君と先生の顔はとても幸せそうだった。
そうそう。マカロン君が『プロポーズしたら先生が号泣した話』をしようとしたら、先生に叱られていて、無事尻に敷かれていると判明したんだ。
ずっと熱々の、自他共に認めるおしどり夫婦だ。幸せそうで何より。
かく言う僕らは同棲カップルだ。
朝食を終え、僕は立ち上がった。
「もう家出ますね、先輩」
そう呼ぶと彼女は「懐かしい。その呼び方と話し方」と、笑った。
「お仕事がんばってね」
「はい。頑張ります」
先輩は僕の頬にキスをした。
僕もやり返し、見つめ合って笑い合う。
「いってらっしゃい。後輩くん」
「いってきます。先輩」
先輩は玄関に立ち、ひらひらと手を振って僕を見送った。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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ランダム単語ガチャ
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三題噺、完結です。
今まで読んでくださり、ありがとうございました。
皆様の毎日の少しの楽しみになれたでしょうか。
もし、そうなれたのなら幸いです。
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