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履かないヒールのある玄関

靴箱を開ける。
お行儀よく並んでいる靴は10足。玄関に出しっぱなしの靴が3足。ベランダで雨ざらしになっているサンダルを合わせると、私は13足の靴を持っていることになる。

出しっぱなしの靴をみると、決まって母を思い出す。実家にいる頃、兄や姉も含めて2足以上靴を出していることが多く、そのたびに「この家には何人住んでいるのかしらね」とつぶやく母がいた。あまり強く片付けろと言われることはない。

母はそういう人だ。

家族が各々好きなことをやり、母だけが掃除をしている時にも、皆に手伝えとは言わなかった。その代わり、「小さな白いにわとりは、ひとりでお部屋を掃除しています」とつぶやきながら掃除を進める。

母は「小さな白いにわとり」の話を、私たちによくしていた。

小さい白いにわとりが「この麦,誰がまきますか?」と尋ねると、犬は嫌だと言いました。猫も嫌だと言いました。豚も嫌だと言いました。小さい白いにわとりはひとりで麦をまきました。
大きくなった麦の前で「誰が刈りますか?」と尋ねると、犬は嫌だと言いました。猫も嫌だと言いました。豚も嫌だと言いました。小さい白いにわとりはひとりで麦を刈りました。
「粉にひきますか?」と尋ねても、「パンに焼きますか?」と尋ねても、犬は嫌だと言いました。猫も嫌だと言いました。豚も嫌だと言いました。小さい白いにわとりはひとりで粉にひき、パンに焼きました。
最後に「このパン誰が食べますか?」と尋ねると、犬は「食べる」と言いました。猫も「食べる」と言いました。豚も「食べる」と言いました。
さて、小さな白いにわとりは、なんと言ったでしょうか。

父は北風で、母は太陽のようだったな。そんなことを考えながら玄関の整理をした。

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さて、玄関に出ている3足は靴箱に入れない理由がある。
1つは通勤で毎日履く靴。もう1つは靴箱に入らないブーツ。そしてもう1つは唯一所有しているヒールの靴である。

ヒールと言っても5cm程度。
毎日しっかりとメイクをして、大判の花柄模様のタイトスカートを身にまとうような素敵女子の皆様は、常日頃8cm~10cmのハイヒールを履きこなしているだろうから、「5cmでヒールと呼ぶのか」という声が聞こえてきそうだが、私はこれが精いっぱいである。

この精いっぱいのヒールが、最後に外出をしたのは去年の夏のことである。もう半年ほど履いていない。

履かない…というより履けない理由は、自分の身長が高いことに引け目を感じているからだ。女性のなかでは高いほうであるが、そこに自信を持つことが出来ず。小学生の時バスケをしていたこともあり、身長を伸ばすために毎日ジャンプをしたり、常軌を逸した料の牛乳を飲んでいた私に説教をしてやりたい。

しかし、それよりも問題なのは私の足がヒールに向いていないことだ。

是非、今靴下を脱いで皆さんの足も確認をしてほしい。
「一番長い指はどの指か」

…確認しました?
親指が長い人は「エジプト型」、人差し指が長ければ「ギリシャ型」、親指から中指までがほぼ同じ長さであれば「ローマ型」とのこと。

ちなみにアメリカで流行した足の指の形でわかる性格判断があるらしく、「50年ほど前にスペインの整形外科医が古代エジプトやギリシャの彫刻や絵画などを調べ、登場する人物の足の形を徹底的に分析・分類。その結果を中国やインドで深い歴史のある占いに当てはめて、足の形から性格を診断した」とのこと。

念のため記しておくが、日本人の70%以上が当てはまるエジプト型は、ロマンチストですが集中力にかける一面がある。日本人の25%と言われているギリシャ型はリーダータイプで才能もあり想像力も豊かですが、亭主関白・かかあ天下の傾向があるそう。最後の5%であるローマ型は素直でシャイで成功に繋がる粘り強さがあるだとか。こんなこと言ったら日本人ほとんど同じ性格になってしまうので、あくまでもご参考までに。

さて、私はローマ型である。厳密にいえば中指が一番長い。しかし、日本の靴はお察しのとおりエジプト型を基に作られている場合が多いのだ。

想像してほしい。女性ものの靴のつま先の形を。真ん中が一番長く作られているように見えて、実際はあの部分に親指が入る設計。そうなったときのローマ型の足を持つ中指の居場所は、いったい。

靴擦れではなく、指潰しだ。

全ての人に合うサイズの靴はない。
そんな名言があったような。

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履かないけど玄関で堂々としているヒールは、私の諦めきれない女性らしさ、最後の自意識みたいなものです。


今後も有料記事を書くつもりはありません。いただきましたサポートは、創作活動(絵本・書道など)の費用に使用させていただきます。