見出し画像

140.三題噺「スクラッチ、散らばる、朝寝坊」

 僕のもとに後輩ちゃんが慌てて駆け寄ってくる。

「ごめんなさい。朝寝坊しちゃいました!」

 祝日の今日、学校が休みだから僕は後輩ちゃんと朝から待ち合わせをしていた。

「気にしなくて大丈夫だよ」

 さっきまで目の前の広場でライブをしていた。
 今は転換時間だから比較的静かだけど、さっきはDJがいて、かっこよくスクラッチをきめていて熱かった。

 パフォーマンスは圧巻で、退屈することはなく、むしろ時間を忘れて楽しんでいた。

 後輩ちゃんは余韻残る観客の表情にインスピレーションが湧いたのか、首から下げていたカメラを持ってファインダーを覗いた。

「あ、勝手に撮ったらダメですね」

 あははと、衝動的な自分の行動に後輩ちゃんは照れ笑いした。

「今日は私の生徒会就任祝いに一日付き合って貰いますから。気分は彼氏彼女ですっ」

 後輩ちゃんは僕の腕に抱きついてきた。

「えっ、後輩ちゃん潔癖症なのにくっついて大丈夫なの?」

「えっと……。もう慣れちゃいました。でも、こんなことするのは先輩だけです」

 よくわからないけど、大丈夫らしい。
 ただ、柔らかな何かに腕が包まれるのだけはどうにかならないだろうか。

「ふふっ。今日は私を思いっきり楽しませてくださいね? せーんぱいっ」

 後輩ちゃんが風景のスナップ写真を撮るのに付き合って、道中にあった茶屋でみたらし団子を買った。

 店先の床机に座ってのんびりしようとした時。
 どんな奇跡が起きたのか、僕の持った串から全ての団子がスルスルと落下していった。

 団子は無常にも地面にぽとり。
 僕と後輩ちゃんは同時に地面を見た。

「三秒ルール?」

「後輩ちゃん。さすがにそれは無理かな」

 夜中に雨が降った影響で地面がぬかるんでるから泥が付いてるし。

 僕は散らばった団子を謝罪して捨てさせてもらって、お手洗いを借りて手を洗った。

 戻ってきたら後輩ちゃんはジッと自分の団子を見ている。

「私の、食べてください」

 後輩ちゃんは団子を僕の口に運んできた。
 その視線は「強制です」と言っている。

「じゃ、じゃあ……。いただきます」

 パクリと一口。おいしい。
 後輩ちゃんも食べてご満悦の表情になった後、固まった。

「い、今すぐ記憶を消去してください……」

「やっぱり無自覚の間接キスだったんだ」

「だってぇ。先輩が悲しそうな顔してるのに耐えられなくて……」

 本当にこの子は先輩思いのいい子だ。

 感動した僕はその後、後輩ちゃんのお祝いという名目で甘やかしまくった。

 財布は軽くなったけど後悔はしていない。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
⤵︎
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?