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197.三題噺「帰宅、ひとこと、闇の中」

 土曜授業の今日、元生徒会長の俺は重たいため息をついた。

 その原因は……。

「先生の左手の小指に指輪……。やっぱりそういうことなんだろうか」

 左手の薬指は結婚、小指は彼氏彼女。
 そういうことだってあり得る。

 真相は確かめない限り闇の中。

 俺は覚悟を決め、教室を飛び出した。

「先生!」

「……君か。どうした? そんなに慌てて」

 先生は何故か嬉しそうに口角を上げた。

「放課後、大事な話があります。校舎裏に来てください」

「……へ? そ、それって……つまり……」

「それでは、また放課後に!」

「あ、ちょっとっ!」

 俺は走って教室に戻った。

 早く真実を突き止めたい。
 でも、彼氏ができていたらショックで何も手につかないだろう。

 葛藤した心のまま放課後。

 校舎裏には、先生はまだいなかった。

 安堵と不安のため息が口から漏れる。
 やばい。緊張してきた……。

「ま、待ったか……?」

 背後から肩を叩かれ、俺は振り向きざまに先生の両肩を掴んだ。
 思考は絶賛停止中。

「先生……」

 至近距離。顔は目の前。
 先生の喉がごくりと鳴ったのがわかった。

「か、彼氏ができたんすか!?」

「…………え?」

 長い沈黙の後、先生はきょとんとした。

「何のことだ?」

「だって、左手の小指に指輪が……」

「これは、そういう気分だっただけだ。どうやら勘違いさせてしまったみたいだな」

 先生は揶揄うように笑った。

「問い詰めてごめんなさい」

「謝れてえらいな」

 先生の手が優しく俺の頭に添えられる。

「だがな、てっきり、ついに来たかと勘違いしてしまった。それに乱暴に肩を掴んだのも良くない。少し……痛かったんだぞ?」

「すみません」

 俺は何も言えない。

 怖がらせてしまっただろうか……。

「でも、情熱的なのは悪くなかった」

 去り際に、先生は振り向いてひとこと。

「準備はできている。待ってるぞ」

 俺はいつだって先生に慰められてばかり。
 子供のままだ。

「はい。絶対に追いつきます」

「そういうことではないのだがな……」

 俺が意気込むと、先生はやれやれと呆れるように笑った。

 何にせよ、彼氏ができたのではなくて一安心だ。

 帰宅した俺は、早とちりしたことが今更恥ずかしくなり枕に顔を埋めた。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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