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宅飲みと見知らぬ女性の話

成人して間もない頃のこと、夜中に「今、友人の家で飲んでるから来いよ」と誘われ「んじゃ行くか」と軽いノリで行った事があった。とはいえ僕は車の免許を持っておらず、もっぱらバイクを日常の足がわりにしていたのだった。
当時はトレンディードラマの影響もあってかロン毛の全盛期。そのロン毛にタオルを巻くのが一つの作法というかイケてるシンボルになっていた。僕は短髪だったが、バイクから降りた時ヘルメットのあとがついておかしな髪型になるのが嫌で、必ずタオルを頭に巻いていたのだった。
仲間内からも頭にタオルを巻く人という認識だったように思う。

さて、友人宅に着くと、殺風景な部屋に飲み終えたビールの空き缶が多数と、飲みかけのビール、それと男性5人の友人と、頭にカチューシャをつけた見知らぬ女性が1人。はて?誰だろうか?と首を傾げていると、見知らぬ女性、仮にAさんとしよう、はどうやら僕の男友達の一人と友人らしく、みんなで一緒に飲んでいたようだ。
僕は思わず、んん?大丈夫か?どこか犯罪の臭いはしないのか?などと懸念していたのだが、どうやらそういった様子もなければ、実はAさんはこの5人の友人のうちの誰かの意中の人、ということもなく純然たるお友達だったようだ。

な〜んだ、な〜んだ、一安心。と思うのも束の間、突然Aさんが僕を指差しこう言うのだ。

「てか、なんでこいつ、ロン毛でもないのにタオル巻いてんの〜?」

ん?え??あれ、もしかして僕のこと言ってる??
まさか初対面で、しかも第一声目で『こいつ』呼ばわりされるとは思いもしなかったため少し困惑して状況が飲み込めなかったが、周りの友人たちの反応を見ていると、皆それぞれに困ったものだといった表情を浮かべていたところを見るとどうもかなり酔っ払っているようだった。

言われた当の本人である僕も、本来なら「何だコラァ!」と言いたいところではあったが、相手が友人のお友達である手前『あぁ、これはどうしたものか?』と思案に暮れていた。ひとまず気を取り直して、Aさんも友人達も傷つけずに済む言葉を何とか振り絞って考え、やっと出た言葉がよりにもよって

「君は何でカチューシャつけてるの?」

であった。今思い返しても何とも間抜けな一言である。

当然ながらAさんは不服そうに

「は〜?何言ってんのこいつ?付けたいからに決まってんじゃん!」

とご立腹であったが、そこですかさず僕は

「君も付けたいからだろ?僕もそういうことよ」

と返したのだった。

今思い返しても全くもって正論ではなかろうかと思う。そもそも短髪だからといってタオルを巻いてはいけないという謎の固定概念を押し付けられてもこっちは困るのだ。
それはそうと、そんな僕の返答が気に入らなかったのか、はたまた彼女に対して全くチヤホヤしない僕の態度が気に入らなかったのかAさんは吠えた。

「何なんこいつ!!何しに来たの!!テメェ、もう帰れよ!」

と罵詈雑言を浴びせられたのだった。幾ら相手が友人のお友達とはいえ流石に僕も思わず

「お前が帰れ。このメスブタが」

と口走ってしまったのだった。
いやまぁ、しかし、幾ら若かったとはいえ女性に対してメスブタなどと口にするとは…自分で言っといて何だがそんな言葉ドラマや漫画でしか聞いたことのないセリフである。

そして恐らく人生で初めて『メスブタ』扱いされたであろうAさんがその後シクシク悔しそうに泣きながら帰ったのを覚えている。

もう20年以上も前の話であるが、いまだにこのエピソードを思い返す度に僕は全く後悔もなく健全な心を保てている。そんなに酷いことしたのかしら?ちょっぴりサイコな話でした。





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