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投資基準8選 Part7"市場/ベンチマーク"

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はじめに

 YJキャピタル(ヤフーのベンチャーキャピタル)の大久保です。ツイッターもぜひフォローください!今回は投資基準8選のうち、7つ目のPart”市場/ベンチマーク”についての記事です。投資基準8選の総まとめをサクッとおさらいしたい方はコチラを是非ご一読ください。また、市場/ベンチマークに関わるピッチ参考資料もコチラシリーズにまとめてます。
 これまで①~⑥で「③PMF」「④競合優位性」「⑤マネタイズ」で”ビジネスの1サイクルが成立する”(③顧客に価値提供できてるおり、④競合に勝てて、⑤儲かる)こと、そして、「⑥グロース戦略」でそのビジネスサイクルを”拡大再生産”できるか、といった点を述べてきました。今回の⑦市場/ベンチマークでは、そのビジネスサイクルを”どこまで拡大再生産できるのか”という事に関する内容となってます。
 本記事では海外VCの投資基準や、市場のアピールの仕方・ベンチマーク企業の使用例等を事例を元にまとめます。アピールに使えうる要素の全体像は下図です。順を追って述べていきます。

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市場/ベンチマークの重要性

 言わずもがなですが、下記トップVCの投資基準にあるようにポテンシャルの大きさは重要となります。

投資基準例
Yコンビネータ-ー
”巨大か、年20%成長している市場が望ましい”
"1兆円企業になりうるか"
●セコイヤ
”今は小さく将来大きく”なる市場を狙え"
"次のビッグウェーブを見極めて乗れ”
●ベンチマーク
"メガトレンドにより市場に変化が生じてること"
●ジョン・ドーア
”圧倒的に大きな市場規模か”
他多数..

市場規模

 「ビジネス・クリエーション」でも述べられていますが市場規模の説明については、トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチ、双方の考え方が重要で、両軸で考えられると説得力が増します。

○トップダウン・アプローチ
 いわゆる市場規模10兆円ですといった、矢野経済等のレポートで記載されている市場規模です。下記はフリー社の例ですが、市場の大きさが伝わりやすいです。

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また、TAM/SAM/SOMもaibnbのピッチ資料で有名なように有用です。

用語説明
・TAM (Total Available Market)
獲得できる可能性のある最大の市場規模
・SAM(Serviceable Available Market)
TAMの中で現段階でターゲットとなる市場
・SOM(Share of Market)
自社で獲得したい市場(将来/今の売上)

・airbnbの場合(下図)
TAM(左) = 世界中の旅行予約の市場規模
SAM(中央) = オンライン×低予算旅行予約の市場規模
SOM(右) = 実際にAirbnbでの予約金額

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このように、市場の全体感を鳥の目で説明するのにトップダウン・アプローチは有効です。

○ボトムアップ・アプローチ
 トップダウン・アプローチと同様かそれ以上に重要なのがボトムアップ・アプローチによる市場規模算定です。VCの人は「市場規模10兆円です」と言われても手触り感がなく逆に本当かなと思ってしまうこともあります。そういったときに、手触り感を持って説明できる方法がボトムアップ・アプローチです。
最もシンプルに記載すると下記数式で市場を推定する方法です。ZuoraのCEOが必ず聞く質問に「100万ドルの売上を上げるときは何社からいくらずつ貰うイメージか」という有名な言葉があるようですが、その質問と同じです。

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この数式において重要なのは、第一項のターゲットユーザー/企業の解像度を上げることです。ペルソナ分析といった言葉や、最近個人的にハマっている「顧客視点マーケティング」内で”N1分析”という言葉があることからも重要であることがわかります。
 それに関連して”TAM Onion”という考え方を紹介します。皆さんも「市場規模は大きいほうがいい。だが、初期は小さい市場にフォーカスせよ」といった一見矛盾したアドバイスを聞いたことがあるかもしれません。それに対して「矛盾してないですよ」という考え方が""TAM Onion"となってます。(ちなみに、Onionは玉ねぎです。一番好きな野菜です)

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 一つ一つの玉ねぎの”輪”は、顧客セグメントを表してます。一重にtoC向けサービスと言っても、顧客分析によりセグメント化が可能ですし(エリアや性別/年齢、年収、職業、家族構成etc)、プロダクトの拡張(ex.品揃えの拡張 下図例はAmazon:本のみ→全商品の取り扱い)によってもターゲットとなるセグメント/”玉ねぎの輪”は拡大されます。

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 重要なのは常に顧客分析をすることで、自社プロダクトのユーザーセグメントを把握すること、そして、そのセグメントユーザーが潜在的に何人・何社いるのかを把握することにより市場規模を推定することです。それが、実際に現段階でのプロダクトがターゲットにできる市場規模となります。TAMを広げる(=輪を広げていく)方法は、⑥グロース戦略でも記したように、
  a)プロダクトの拡張による対象セグメントの拡張
  b)営業/マーケの強化によるリーチの拡大

があります。また、輪を広げることを"Growth Sequence"と表現しているように(Sequenceは連続・連鎖という意味)、既に築いたアセット(テクノロジー/顧客基盤/ブランド/ノウハウetc)を元に展開することが重要です。

 法人向けサービスでは業種や会社規模(SMB・ミドル・エンタープライズ)といったセグメンテーションがわかりやすいでしょう。下図はSanSan例。

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これまで市場規模について述べてきました。IR資料ですと○兆円単位ですが、市場規模は1000億円以上あれば十分かと思います。トップダウン・アプローチは皆実施するので、ボトムアップ・アプローチを、どこまで解像度高くできているか/現在の顧客属性をどこまで把握しているか、といった点を述べることで、説得力のある市場規模の説明ができると思います。

市場の成長性

 顕在の市場規模が小さい場合もあるでしょう。その場合は、成長性をアピールしたいです。

part7_成長性

(i)マクロの変化(PEST)に根ざしていること(part①タイミング参照)、そして、(ii)一時的なトレンドではなく、不可逆な成長性であること、(iii)規模としても将来的に大きくなること、そして(iv)一気に市場拡大(YOY+20%以上)していること等を説明したいです。成長ポテンシャルの大きさを示す際に、単に成長率を示す他に、ベンチマーク指標と比較する手法もあります。以下ラクスル社の資料ですが、EC化率を他国、他業界と比較することで、ポテンシャルの大きさがよく伝わります。

part7_ラクスル

市場構造

 市場規模、成長性に加えて、以下例のような市場の全体感について説明できると、投資家と前提知識を合わすことができて良いです。投資家は何も知らないという気持ちで、市場の前提知識を教えてあげるのは重要です。例えば、多重下請け構造×分散市場であれば、マーケットプレイスが圧倒的シェアを取りうる、といった説明ができます。全体の市場がどういう状況で、自社が、なぜ今の事業領域を選定しているかといったマクロの観点で説明することで、狙っている領域が将来”くる”ことをアピールしたいです。


・市場のバリューチェーン
・どの領域が儲かっているか(ex、飲食市場:レストラン?集客メディア?予約管理SaaS?デリバリー?農家?etc)
・業界プレイヤー/領域ごとのシェア(分散市場なのか/寡占市場なのか)
・多重下請け構造等の特徴があるか

いい例が見つけられなかったですが、イメージとしては下記のような全体図に領域の主要プレイヤー/シェア、売上/利益、各領域のトレンドといったものが入っているイメージです。

part7_市場マップ

ベンチマーク企業の重要性

 「スケールします」という主張の根拠として、市場の他にベンチマーク企業もあります。
○国内企業
 例えば、自社サービスと同領域に時価総額1000億円のプレイヤーがいれば、投資家としても、「その規模に到達している実例があるなら、同じ規模になるかもしれない」、と思うでしょう。実際YJキャピタルの出資先であるレシピ動画サービス「クラシル」を手掛ける堀江さんも下記の様に語ってます。

"堀江CEOは、既存の1000億円企業をリストアップ。そして、どのジャンルならば勝てるのかを検討していった。メディアの領域で、企業価値1000億円の企業は多くはない。その一つが、料理レシピサイトのクックパッドだ。"
参考元おわりに

 このように、同じ領域で、同じ課題解決に取り組むサービスの企業価値が大きい場合も、スケールすることをアピールする際には有効的です。

○海外企業
 海外に成功事例がある場合も説得力が増します。IPO企業やユニコーンといった事例があると、最初の印象で面白そうと思います。海外の成功事例の模倣に特化したRocket Internetという会社もあります。(ただし、黒字化していない企業も多く本当に成功しているかの判断は難しかったりもします)。

 ただ、日本と海外では法規制も商習慣もインフラの整い具合も違うので、日本のコンテキストで考えた時に、海外の成功モデルが成り立つのか、といった論点がでてきます。それに対する自分なりの考え、適用可能な理由を用意すると良いと思います。

おわりに

 今回は8つの投資基準の内、Part7の市場/ベンチマークを記事化しました。市場の魅力度を伝えることはとても大事です。全項目の中で最も重要と言っても過言ではありません。規模・成長性・構造・ベンチマーク企業といった要素を駆使して、スケールすることをアピールしたいです。

付録:想定質問例

・TAM・SAM・SOMはどの程度と見積もってますか?
・市場規模はトップダウン、ボトムアップ・アプローチでどの程度ですか?
・現在の顧客セグメントは誰で、潜在的にどのくらい存在しますか?
・市場はどの程度の速度で伸びてますか?伸びている理由は何ですか?
・国内国外で同領域で成功している企業はどこですか?
・市場全体のお金の流れ、主なプレイヤー、トレンドを教えて下さい。

合わせて読みたい記事

・VCの投資基準8選 〜VCとのMTGをHackする〜(リンク先詳細
①タイミング(リンク先詳細
②チーム(リンク先詳細
③PMF(Product Market Fit)(リンク先詳細)
④競合優位性/勝ち筋(リンク先詳細)
⑤マネタイズ(リンク先詳細)
⑥グロース戦略(リンク先詳細)
⑦市場/ベンチマーク(本記事)
⑧ROI/投資収益性(リンク先詳細)
・【プレゼンは魅せ方が鍵】資料作成に役立つIR資料(リンク先詳細)

参考文献




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